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レイドックおじさんによると、まずこちらには人造宝石というものは存在しないという事だ。

よって、私のもたらしたこのサファイアのブレスレットはこちらでは本物のサファイアのブレスレットという扱いになり、さらに石が綺麗に輝くようにカットされた物なども技術的にあるはずもなく、このブレスレットはここでは国宝級の一品になるらしい。

例としてレイドックおじさんは公爵家代々に伝わる宝石について話してくれたんだけど、大きさのみを合わせた台座にルビーらしき石をはめ込んだだけのものらしい。

研磨やカットがされてないので、石は透明度が低く、形も歪だそうだ。

大きさは卵ほどもあるらしいけど!

私に言わせればこっちの方が将来性のある価値の高い物なんじゃないかと思ったけど、レイドックおじさんに言わせると違うらしい。

「このように美しく、見通せそうに透明で精巧な作りの物はたとえ王家であっても所有していないでしょう。」

レイドックおじさんはブレスレットを凝視している。

ちなみに問題のブレスレットはテーブルの上に恭しくハンカチに乗せられて鎮座している。

ポン、とそのままテーブルに置こうと思ったら真っ青になったヘンリーさんが慌ててハンカチを敷いたためだ。

「じゃあ、私がおじさんにプレゼントしても、変じゃない?」

そう聞いてみるとレイドックおじさんはゆっくり首を振った。

「変ではないかどうかと聞かれますと、おかしい、と答えざるを得ません。これは私のような一介の公爵弟などではなく、本来なら国と国の間で王家に献上するようなもの。それ以上のものですから。」

なんと!!

35,000円のブレスレットが?!

私は改めてブレスレットを眺めてごくりと喉を鳴らす。

途端にブレスレットが貴重品に見えてきた。

しかし。

「私にとっては、お世話になるおじさんへのちょっとしたお礼と、やっと会えたお父さんの弟へのご挨拶のつもりなんです。もし、おじさんが良ければおじさんに受け取ってほしいです。」

私がそういうと、レイドックおじさんは目をかっぴらいたままやがてポロポロと涙をこぼしだした。

「お…おじさん?!」

まさか大の大人が泣くと思わず、動揺してしまう。

「ああ…失礼。感激のあまり感情を抑えきれず…。愛し子様にそのように思っていただけるとは、この世に生を受けてこれ以上ない喜びです。それに…」

レイドックおじさんはフワリと笑って涙を拭った。

うわ!なんて綺麗!

レイドックおじさんのあまりの美人さに息をのんでしまう。

「姪というのはこんなに可愛いものなのですね。斗季子姫、貴女を私の生涯をかけてお守りすると誓いましょう。」

胸に迫るような物言いでそう言うレイドックおじさんに今度は慄いてしまった。

35,000円のブレスレットの威力が凄すぎる!!

「レイドック様、良かったですなぁ…!ラドクリフ様は本当に素晴らしいお子様をお待ちになられた。」

隣でグラニアスさんもグズグズと鼻を鳴らした。

「ええ、ええ。誠に…。このヘンリーも及ばずながら、お力にならせていただきます。」

ヘンリーさんまで目元を潤ませている。

温泉旅館の宴会場で話す内容じゃない…!

私はひたすら恐縮するしかなかったけど、レイドックおじさん達の私を思ってくれる気持ちはじゅうぶんに伝わった。

「おじさんに会えて、私も嬉しいです。どうか、よろしくお願いします。それで、私もおじさんのお力になれますように。」

私はそう言いながらレイドックおじさんに再度ブレスレットを渡そうとした。

すると。

ぱぁぁぁ。

突然ブレスレットが光りだした!

!?!?!

光はすぐにスゥッとブレスレットに吸い込まれるように消えたけど…。

消えたけど!!

私のみならず、レイドックおじさん達もその光景に唖然となる。

「………。」

「………。」

嫌な沈黙。

「姫。い…今のは…?」

レイドックおじさんが震える声で私に聞くけど、

知らんがな!!!

私は冷や汗をかきながらブンブンと首を振る。

「………ち…ちょっと…失礼。」

おじさんはブレスレットを恐る恐る手に取り、内ポケットから超豪華な虫眼鏡のようなものを取り出す。

「姫、これは物に対して鑑定を行う事が出来るものなのですが、もし、失礼でなければ、これで見てみても?」

震える声でそう言われて、こくりとうなずく。

レイドックおじさんは恐る恐る、という風に虫眼鏡をのぞいた。

「?!?!」

レイドックおじさんはこれでもかというほど、目を見開いた。

「え?なに?!どうしたの?!」

ただならぬ様子に私は声を荒げる。

しかし、レイドックおじさんはすっかりフリーズしていた反応をしてくれない。

ちょ…!おじさん、息してない?!

「おじさぁぁん!!」

「……姫。」

ようやく、か細い声で答えてくれる。

「なに?!」

「これは…姫が?」

「だからなにー?!」

私の冷や汗はもはやとどまるところを知らない。かなり効果的なダイエットになるであろう。

しかしいつまでたっても動きを見せないレイドックおじさんに、私ははたと気がついてスマホをいじってみた。

もしかしたら、私と侑李のステイタスとやらがこれでわかったみたいに、スマホで調べられるかも!!

もし、ここが日本だとしたら、どうする?!

なんかなかったか?!

そうだ!

私はカメラアプリを調べてみる。

写真、録画、ズーム、鑑定…

鑑定?!

今まで見たことのない機能に私はブレスレットを画面に収めた。

そして、鑑定にカーソルを合わせてみた。

《愛し子のブレスレット》

《所有者 レイドック=ウォードガイア  物理耐性 毒耐性 精神耐性 魔力耐性 ステイタス上昇 

スキル 愛し子の加護》

?!?!?!

今度は私がフリーズする番だった。

なんでこんなことに?!

「お…おじさん…!これ…!なんで?!」

なんでこんな異世界転生みたいな事が!

いや異世界転移だけども!

「わ…私にもよくわかりませんが、おそらく、姫が先程、私のためにブレスレットに祈ってくださったからではないかと…」

祈った?!いつ?!

パニックになりながら自分の言動を反芻してみる。

《それで、私もおじさんの力になれますように》

思い当たるような思い当たらないようなフレーズを思い出した。

な…なんだとぉう?!

ありえぬ!

あれで?!あれで祈った事になっちゃったの?

こんな、こんなの、まるで異世界転生もののお話によく出てくる聖女的な何かみたいじゃないか!

そこまで考えてふと父の言葉を思い出す。

《ユグドラシルの愛し子とは、言うなれば聖女だ》

がぁぁぁん、と絶望の音が頭に響く。

自分じゃ処理しきれないことに、私は。

ぷつーん。

何かが切れた。

そう。そういう事ですかそうですか。

もう、いい。

そっちがその気なら、こっちだってハラをくくろうではないか。

ユグドラシルの愛し子?

上等だ。

私はおじさんを見て、そしてその両脇で固唾を呑んで私をみているグラニアスさんとヘンリーさんを見た。

ぴ。

《商品をお届けします》

ポン!

私はさらにお買い物を続けた。

「ヘンリーさんとグラニアスさんがいつまでもお元気で公爵家にお仕え出来ますように。」

ぱあぁぁぁ。

光が溢れ、私の手の中の二つのチャームに吸い込まれる。

「はい、これ。お二人に。」

私は固まったままの二人に涙型の人造サファイアのチャームを差し出した。

「!!!!!」

二人は開かれた目をさらに見開く。

「姫!!!」

レイドックおじさんは悲鳴のような声で私を呼ぶ。

「グラニアスさんもヘンリーさんも、公爵家にとって大事な人なんでしょ?お守りになるなら、持っててもらった方がいいじゃないですか。あ、あとでカテリーナさんの分も作らないと。同じサファイアで良いですかね?」

もはや、淡々と話す。

「姫!ですがこんな貴重なものを!」

冷静なヘンリーさんが取り乱している。

二人とも、私が差し出しているチャームをなかなか受け取らない。

「貴重?こんなサクッと出来ちゃうのに?いいんです。お二人とも、この世界に来てわけがわからないでいる私や侑李にこんなに親切にしてくれたじゃないですか。嬉しかったので、お礼です。」

私は二人にチャームを押し付けた。

そうです。ヤケになっています。

だけど、どうせヤケになるなら役に立ったらいいじゃないか。

私は周りに八つ当たりして大暴れする方法ではなく、チートの大盤振る舞いという方法を選んだのだ!

「リリアンフィア姫…!」

「それやめて!」

ヤケになっていてもまだ理性は残っていたようだ。


お読み下さりありがとうございました。

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