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「いいか侑李。大切なのはイメージだ。こんな物を作りたいと強くイメージするのが大切なんだ。」

「頑張って侑李!ほら!これもう一回ちゃんと見て!」

お父さんが神妙にさとし、私は以前から素敵だと思っていた大浴場の写真をずずいと突きつける。

月刊温泉、6月号に載っていた有名な日帰り温泉だ。広い岩風呂の周りに小さめの岩風呂がいくつかあって、まるで自然の湖みたいな素敵なお風呂だ。

「わ…わかったよ!ねーちゃん近い!」

客館の手前、駐車場になっている場所で私たちは日帰り温泉作りに勤しんでいた。

駐車場は半分無くなっちゃうけど、そもそも車の無い世界だ。

問題無いだろう。

「….よし、いくよ!」

侑李はお父さんに言われた通りに両手を突き出す。

そして目を閉じ、深く集中した。

しばらくすると、あたりがぼんやりと光出す。

そのあと、ボコボコと地面が動きはじめた。

「おおお!侑李、すごい!」

思わず拍手しそうになり、慌てて手を引っ込めた。

邪魔しちゃいけない。

地面の動きは段々と速まり、みるみるうちに写真と同じ岩風呂をかたち作っていく。

そして。

「出来たーー!!!」

そこには私の憧れた通りの岩風呂が出来上がっていた。

客館から温泉を引き込むイメージもしたようで、浴槽にはみるみるお湯が溜まっていく。

侑李はそのまま洗い場も作って行き、私がお買い物アプリで買った蛇口を取り付ければ、あっというまに浴場が完成してしまった。

「よくやったぞ!侑李!」

お父さんが侑李の頭を乱暴に撫で回した。

お父さんと侑李は、日帰り温泉のために魔術の練習をしてくれた。

家族で何度も話し合って、「月刊温泉」を読み漁り、魔術で作れる温泉はどれかと検討し、めでたく今日、お風呂と洗い場が完成したのだ!

ちなみに私は日帰り温泉オープンのため、例のお買い物アプリでさまざまな品物を購入した。

タオルに館内着、シャンプー、コンディショナー、ボディソープ、化粧品類やら歯ブラシやら…。

それに日帰り温泉とともに旅館の方も本格的に稼働しようという事になって、そちらの食材関係なんかも…。

おかげさまであんなにあった貯金が!

あんなにあった貯金がぁぁ!!

……‥日帰り温泉、お客さんたくさん来てくれるといいな。

「兄さん!」

ちょうどそこへ、レイドックおじさんがやってきた。

「すごい!これが温泉?!」

キラキラした目で露天風呂を眺めるレイドックおじさん。

「ああ、うちの自慢の温泉だ!侑李が頑張ってくれた!」

お父さんも嬉しそうだ。

褒められた侑李も照れくさそうにしている。

あとは囲いとか、屋根とか、着替えや休憩のための建物を作らなきゃなんだけど、さすがにそこまで侑李の魔法でというのは難しいので、レイドックおじさんに相談したところ、そちらはおじさんに建ててくれる伝があるとの事だった。

早速着工してくれるらしく、おじさんはがたいのいい職人らしき人を何人も連れていた。

「ここでいいのかい?」

職人の1人が場所を確認する。

「ああ、頼む。」

お父さんが答えて細かい打ち合わせのために建設予定地に職人達を引き連れていった。

それにしても。

どの職人さんもずいぶん背が低い。

みんな似たような長い髭をたくわえ、硬そうな髪もみんな長かった。

あれってもしかして。

「ドワーフ…?」

「よくご存知ですね!」

私の呟きにレイドックおじさんが驚いた声をあげた。

なんと!

本当にドワーフだった!

おとぎ話の中の存在が目の前にいる事になんだか感動してしまう。

すごい!

侑李が見事な大浴場を作ってくれた事ですっかりテンションが上がっていた私は続いてやってきたドワーフにすっかり舞い上がった。

そして。

スマホを取り出し、お買い物アプリを立ち上げる。

その中からちょっと良さげなウイスキーを10本ほどチョイスした。

割らないように、地面の近くでお買い上げる。

ドワーフといえば、お酒…!

「みなさん、工事の景気づけにいかがですか?」

お酒を抱えて、職人さん達に声をかけてみれば。

職人さん達の目がカッ!と見開かれた。

「嬢ちゃん…!」

「ありがてぇ!」

あっというまに取り囲まれて、侑李は慌てて紙コップを取りに走った。

職人さん達は紙コップが配られるや否や、早速ウイスキーを飲み始めた。

「!!!これは…!!」

「うめえ!!なんだこの酒は!!」

「おいおいおい!マジかよ!こんな美味い酒、初めてだぜ!」

みるみるうちにウイスキーは無くなっていった。

さすがである。

イメージ通り!

なんだか嬉しくなり、ニコニコと眺めていると、最後の一杯になってしまったウイスキーを手に、職人の1人がやってきた。

「嬢ちゃん、ありがとう。こんな美味い酒は初めて飲んだぜ。」

そういいながら、香りを楽しむように最後のひと口。ゆっくりと味わう。

「喜んでいただけて、良かったです。」

そう答えると、職人さんは、言い辛そうに口籠った。

「それで、その。これ、どうしたら手に入る?もし手に入るんなら、欲しいんだが…。もちろん!代金は払う!」

飲み干してしまった紙コップを未練たらしく見つめながら、職人さんは私を伺った。

そうかそうか。

そんなにお気に召していただいたか。

私はニンマリと笑った。

「ステキな家屋を作ってくだされば。無事に工事が終わりましたら、お礼にご馳走します!」

そう答えると、職人さんは一瞬目を見開き、そしてギラリとその目を光らせた。

「嬢ちゃん、任せな。このラウム、魂をかけた仕事をしてみせるぜ。」

職人さんはラウムさんというお名前らしい。

見かけによらず、かわいい感じの名前だ。

私の中のイメージでは一徹とかが似合うと思う。

「頼もしいかぎりです!」

そう答えると、ラウムさんは大きく頷いて、「よぉぉぉし!てめぇら!作業に入るぞ!」と大号令をあげた。

どうやらラウムさんがリーダーらしく、他の職人さん達はその声に「おう!」と答えてそれぞれ作業に入っていった。

それを見て、私もとりあえずここにいる必要はないと思い、母家に戻ろうとクルリと踵を返したところ。

「……レイドックおじさん?」

ニコニコと、満面の笑みのレイドックおじさん。

おや?

なぜ私の行手を阻んでいるのかな?

「姫。先程の、お酒はいかがされました?」

ニコニコと素敵すぎる笑顔で聞かれたが、なんだかその声色にどす黒い物を感じる。

「え?お酒?」

「ええ。姫がラウム殿達に振る舞われた、先程のお酒です。」

思わず聞き返してみれば、今度はずずいと距離を詰められた。

近い。おじさんはイケメン過ぎるので、あんまり近づかれると、眩し過ぎて失明しそうなのでやめていただきたい。

目を逸らせば、おじさんの後ろで手で顔を覆うお父さんの姿。

え?なんですか?これは。

もしかして、まずい事しちゃった感じ?




お読み下さりありがとうございました。

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