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「おはようございます。よくお眠りになられましたか?」

すっかり支度を整えてロビーにやってきたアーキンドさんに声をかける。

「ああ、お嬢さん。おはよう。よく眠れたよ。こんなによく眠れたのは久しぶりだ。」

笑顔で答えてくれる。

カウンターで精算の準備をしていると、お母さんも顔を出した。

「お泊まり、ありがとうございました。」

お母さんが挨拶すると、アーキンドさんが少し目を見開いた。

「これは…!いや、こちらこそ大変世話になりました。昨夜の食事、どれも珍しく、非常に美味でした。ギルドマスターとして貴族との会食に出向く事もあるのですが、あんなに美味しい食事は食べた事もありません。本当に驚きました。」

アーキンドさんは昨日の食事を思い出しているのか、ウットリとしながら話す。

「ご満足いただけたようで嬉しいです。」

お母さんの言葉にアーキンドさんは大きく頷いた。

私もお母さんと顔を見合わせて笑い合う。

「こちら、記念のしおりです。よろしければ思い出にどうぞ。」

お母さんが引き出しからしおりを取り出す。

中庭に咲く季節の花を押し花にして作ったしおりは泊まってくれたお客様にいつも渡しているものだ。

「おお!これは確か庭に咲いていた花ですな!なんとも美しい」

アーキンドさんは嬉しそうにしおりを手にとった。

「あと、これ、おまんじゅうです。最初のお客様になっていただいたお礼にどうそ。」

私が箱に入ったおまんじゅうを渡すとアーキンドさんはすっかり恐縮してしまった。

「ここまでしていただけるとは…!」

大変喜んでくれたみたいでこちらも嬉しい。

さてさて、それじゃあそろそろ。

「では、お会計ですが、3000リルになります。」

「……は?」

お母さんが明細書を差し出してそう言うとアーキンドさんが固まる。

え?

ど…どうしたんだろう。

正直、こちらの宿代の相場がわからないから、いつものうちの宿代をこちらの貨幣に換算した値段にしてみた。

そう。要するに一泊3万円。

「あの、3,000リルです。」

おずおずともう一度言うと、アーキンドさんはフゥゥゥゥゥ…と、それはそれは長くて深いため息をついた。

「………。いや、お嬢さん、嘘はやめていただきたい。そんなはずはない。」

ムッと顰めっ面になるアーキンドさんに冷や汗が流れる。

え、高い?高いのかな?

でも、もとの世界でもこの値段だったし。

そ…相場がわからない!

「申し訳ございません。でも、あの、お料理とか、そういうのも含めるとどうしてもこのお値段に…。」

決して、ぼったくってなどおらぬ!

アワアワと説明すると、アーキンドさんは首を振った。

「何を言っているのですか?!こんなに安い訳がないでしょう?!少なくとも、1万リルはするはずだ!!」

ダーン!と拳をカウンターに叩きつけるアーキンドさん。

まさかの安いからだった…!!

「あのサービス、あの温泉、さらにあの手の込んだ料理!これで3,000リルなど!あり得ませんぞ!商売をする気があるのですか?!」

なんか怒られた…!

お母さんと2人ですっかり困ってしまって顔を見合わせる。

「いいですかな?!私は認めませんぞ!なんとしても1万リルは受け取っていただく!」

アーキンドさんはバァーンと金貨をカウンターに叩きつけた。

「お、お客様!困ります!もらいすぎです!」

慌てて返金しようとすると、手を立てて受け取り拒否。

「本来なら1万リルでも安いくらいです。よいですかな?もう一度、価格の見直しをしてくだされ。この宿なら5万リルでも客がつくでしょう。」

5万リルって!

ごじゅうまんえん…!!

高級ホテルのスイートじゃないんだから!

アーキンドさんは「まったく!何を考えているんだ!」と鼻息も荒く帰ってしまった。

「お…お母さん…どうするよ。」

残された金貨を手に、お母さんを見る。

「…お父さんに相談しましょう。」


お読み下さりありがとうございました。

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