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「では、ユリウス猊下。」

「侑李君。」

「ユリウス猊下は…」

「侑李君!」

「ゆり…「侑李!」…猊下は「君!」」

侑李は落とし所を定めなかったようだ。

確かに男子高校生に猊下は無いよな。

ご機嫌の悪そうな侑李にレイドックおじさんは困った顔になる。

「レイドック。いいから。侑李君って呼んでやってくれ。」

お父さんに促されて、レイドックおじさんは渋々と話はじめる。

「侑李、くんは、どのようなご希望でしょうか?」

大変居心地が悪そうである。

そんなレイドックおじさんに構わず、侑李は話しを進めた。

「学校、って、あるんですか?」

侑李の言葉に私たちはハッとする。

そうだよね。

侑李、高校生だもんね。

学校で友達と過ごすのが一番楽しい時だ。

「ございます。といっても、領都には小さな子の通うものしか無く、侑李君の年ですと、王都の全寮制アカデミーに入る事になると思います。」

レイドックおじさんの話にお父さんはそうだった、と苦い顔でつぶやいた。

「王都って、遠いんですか?」

続けて侑李が質問するとレイドックおじさんは小さく苦笑いをした。

「近く、はないですね。オルガスタからは馬車で3日、というところでしょうか。」

馬車で3日、というと?

私は計算してみる。

馬車がだいたい1日に50キロとして。

150キロ…!!

東京から富士山の距離だ!

ちょっと通うには無理がある。

だけど。

「いいじゃない。行ってみたら?」

お母さんがニッコリと笑う。

「でも…!いいのか?」

「ええ。せっかくだもの。侑李も学校でこの世界の事を勉強してみたらいいわ。それに、馬車で3日なら、クルマ飛ばせば2時間よ!」

お母さんの車で2時間発言に安心したのだろう。

侑李は表情を柔らかくした。

「うん。そうだな。母さんありがとう。俺、行ってみたい。」

どうやら決まったみたいだ。

「侑李!侑李も学校で帰るための手がかり、探してみてね!」

私がそう言うと、侑李は目的を見つけたようにやる気を見せた。

「そうするよ、ねーちゃん!」

こうしてようやく私たちの希望が揃った。

レイドックおじさんは満足そうに頷いていたが、少し表情を硬くする。

「それでは商業ギルドへ宿屋の申請と、侑李君の入学手続きをしましょう。他に何かお手伝い出来る事はありますか?」

「宿の方だが、今までは俺も手伝っていたんだ。俺が抜ける時間が増える分、人手が欲しい。どっちにしろ、可憐と斗季子だけじゃ旅館は動かせないからな。」

「わかりました。それでは、ヘンリー、カテリーナ。」

レイドックおじさんが声をかけると、2人はすっと前に出た。

美人メイドさんはカテリーナさん、ダンディ過ぎるロマンスグレーはヘンリーさんというのだな。覚えた!

「メイド長のカテリーナと執事長のヘンリーです。2人は宿の方へ人をまわす手配を。何人か見繕ってくれ。それと、しばらくは宿の方へ頼む。」

「はっ!」

「仰せのままに。」

レイドックおじさんに言われて2人は恭しく腰を折る。

簡単に引き受けちゃってるけど、大丈夫なんだろうか?

なんだか2人とも、なかなかえらい立場っぽいよねぇ。忙しかったり、しないのだろうか。

私の心配をよそに、話はどんどん進められた。

「侑李君の入学は少し落ち着いてからの方がいいでしょう。その時に一度、斗季子姫も王都に行っていただけるとありがたいのですが、いかがでしょうか?」

「私?」

「ええ。斗季子姫はユグドラシルの愛し子として、侑李君はユグドラシルの賢者として陛下に謁見していただきたいのです。」

「レイドック!その事についてはまだだって話しただろう!」

お父さんが声を上げる。

しかしレイドックおじさんはそれにゆっくりと首を振った。

「兄さん、私も兄さんに言われて色々考えたんだよ。兄さんが帰還した事は隠しておけない。ご家族も一緒だって事も。斗季子姫と侑李君は遅かれ早かれウォードガイア公爵の子として陛下に謁見する事になる。そうなればお二人の事は自然と公になってしまう。隠しておく事は難しいと思う。」

おおおう…。

こりゃまた大変な事に。

正直、行きたくない、なー。

王様と謁見とか、どうしたらいいのか想像もつかない。

侑李と2人、お父さんをうかがうと、お父さんは苦虫を噛み潰したような顔になっている。

会わねばならぬのだな。

これは。

「わかり、ました。」

そう返すとレイドックおじさんはホッとした顔になった。

お父さんは驚いた顔で私を見た。

「斗季子!簡単に言うな!そんな事になれば…!」

お父さんの声には多分に心配がこもっていた。

「んー、だって、レイドックおじさんの言う事も一理あるなぁと思うし。それに、『けっこう顔がきく』お父さんなんだから、どうにか出来たりするのかなぁって。」

私が答えるとお父さんはまた苦い顔になってしまった。

視線を下げて、ボリボリと頭をかく。

「‥‥それとこれとは訳が違う。」

ボソボソと言い訳のように呟く。

「それに、侑李君は学園に通いたいと希望されています。どちらにせよ、王都には行く事になりますから。」

レイドックおじさんの言葉に侑李が申し訳ないような顔になった。

「…ごめん。俺が学校に行きたいなんて言うから…。」

しょんぼりとしてしまった弟の手をガシッとつかむ。

「大丈夫大丈夫!侑李のせいな訳ないじゃない!なんだか、どっちにしろ行かなきゃならないみたいだし。それに私ばっかり希望を通すわけにいかないじゃない!侑李も学生生活を楽しんでおいで!」

明るく言うと、侑李はホッとしたような顔になった。

「わかった。いちおう、その予定で俺も動こう。だが、謁見の前に一度4大公爵を集めたい。いざというときに味方になってもらえるよう、話をしておきたいんだ。それに、陛下に会う前に2人を公爵達に会わせておきたい。」

お父さんは覚悟を決めたような声で言う。

レイドックおじさんもそれにうなずいた。そしてレイドックおじさんは私と侑李に視線を動かした。

「陛下に謁見する際の支度はこちらで整えます。お二人とも、どうぞその辺りは安心されてください。カテリーナ。」

「おまかせください。お二人ともお美しくていらっしゃいますので、腕がなりますわ!」

カテリーナさんは何故か獲物を見る目で私と侑李を見た。

な、なんの獲物認定?!

怖いんですけど!



お読み下さりありがとうございました。

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