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いいね、感想、ブックマークありがとうございます。
今回より話数の○を外し、数字のみとします。
「まるじゅうご」と入力しないと○付きで出てこなくて…。
これまでのお話についても少しずつ訂正していく予定です。
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お父さんが乗ったバイクの音が聞こえて来た時は、ずいぶん安心した。
夕方前には帰って来てくれたんだけど、やはりいないのは不安だった。
みんなでホッとした面持ちで夜を過ごし、翌日は疲れの為、1日ゆっくりと過ごした。
さらに1日をはさみ、私たちはいよいよ領都、公爵家に向かう事になった。
「これ、おかしくないかなぁ?」
鏡を何度も確認する。
先日届いたワンピースがちょうどお嬢様っぽい感じだったのでそれを着ていく事にする。
「いいんじゃないか?足も隠れてるし、あとは上に何か羽織ったら大丈夫だ。こっちじゃ女性が肌を出すのははしたない事だからな。」
マキシ丈でよかった…!
よく聞く異世界の話しじゃ、なんだかマリーアントワネット的なドレスとかを着てたりするけど、そんなもん持ってないし、着こなす自信もない。
マキシワンピで許されるならありがたい。
お母さんも膝下のワンピースを着てたけど、それだと丈が足りないとの事でしたにレースのスカートを重ねている。
お母さんのワンピースは長袖だったけど、私のは半袖なので上に白いロングカーディガンを羽織る事にした。
桜色の花柄ワンピースは白くなった自分の肌と、あれからさらに色素が抜けてほんのり赤みがさす薄い金色の髪や金色の瞳によく馴染んだ。
っていうか、どこの外国人よって顔になってしまった。
侑李はというと、学校の制服を着ていくらしい。
すっかり銀色になってしまった髪と薄瑠璃色の瞳に制服を合わせるとまさに立派なコスプレイヤーだ。
「左目が疼く…!」とか言ってほしい。
家族全員色素が薄い中、お母さんの黒い髪と黒い瞳は却って目立つ。
だけどその姿はとても安心する。
お母さんだけは変わらないでー!
「じゃあ、行くか。」
お父さんの声にコートを羽織る。
二台のバイクにそれぞれお父さんの後ろにお母さん。
侑李の後ろに私が乗りこんだ。
早速役に立ってる2人乗り!
お父さんがあらかじめ到着時間を言ってあったらしく、公爵家に着くとズラリと並んだ使用人らしき人たちに迎えられた。
っていうか、公爵家、城!!
ヨーロッパとかにある城!!
ベルサイユ宮殿!!
あまりの壮麗さに私も侑李もあんぐりと口を開けて見上げてしまう。
お父さんは慣れた様子でお母さんの手を腕にかけさせ、宮殿に入って行く。
「ほら、行くぞ。」
なかなか歩き出さない私たちに声をかけ、その声にようやく足を動かした。
「ねーちゃん、ここって父さんの家?」
どう見ても宮殿なんだが、と侑李が動揺している。
「らしい、ね。」
セレブなんてもんじゃない。
下手したら日本のおロイヤルな方達よりもセレブだ。
「お母さん、よく平気だなぁ」
侑李はお父さんにエスコートされているお母さんを見て感心したように言う。
確かに。
実はお嬢様なんだろうか。
いやいや、旅館の娘だったはず。
ついこの前までの軽トラを運転していた姿とのギャップが激しすぎて、幻でも見ている気分だ。
広すぎる玄関ホールを歩いていると、奥の方からやたらとキラキラしい人がやって来た。
ニコニコと優しそうな笑顔を浮かべてこちらを見ているその人は、今までに見た事もないくらいの美形だった。
プラチナに輝く少しクセのある髪に海のような深い青の瞳、長いまつ毛に縁取られた目は少し垂れ目で柔らかい印象を与える。お父さんによく似てるんだけど、お父さんよりに比べると鋭さが無くて、優しそうだ。
ううーむ…これは…。
ハリウッド俳優も裸足で逃げ出すだろう。
むしろハリウッド俳優が五体投地しそうだ。
その人は私たちの前まで来ると、片膝をついて右手を胸に当て、身をかがめた。
その仕草ひとつひとつが優美すぎて、あまりの眩しさに見ていられないくらいだ。
「ようこそおいでくださいました。私はラドクリフ=ウォードガイアが弟、レイドック=ウォードガイアと申します。リリアンフィア姫、ユリウス猊下、お目通り出来ました事、この身にあまる喜びでございます。」
「「おとうさぁぁぁぁん!!」」
あまりの事に侑李と2人、即座に助けを求める。
美形にポワンとしている場合ではなかった!!
されたことなぞあるはずのない、自分の人生でこれだけはされる事はなかろうと思うような対応をされて途端に嫌な汗が噴き出る。
お父さんは額に手を当てて、顔を歪めた。
「レイドック。やめてくれ。子供たちが困ってる。」
お父さんは跪いたキラキラした人に言って、キラキラした人は困ったような顔になった。
「ですが…。」
「頼むから!」
強めに言われて、ようやくおずおずと立ち上がった。
「斗季子、侑李。レイドックだ。」
お父さんは簡単に言ってキラキラした人を指した。
「お父さんのお兄さん?」
首を傾げるとポカンとした顔で見られる。
「いや、弟だ。そう言ってただろう?」
「ラドクリフ=ウォードガイアが弟なんだよね?お父さん、確かこっちじゃラドクリフって言うんだよね?」
そう聞いてみるとお父さんははぁ、とため息をつく。
「それは俺の弟って事だ。」
えー。
じゃあ「ラドクリフ=ウォードガイアの弟」って言ってよ。わかりにくいな。
「父さんの弟って事は、俺達の叔父さん?」
侑李が確認すると、お父さんは大きく頷いた。
そうか、叔父さんか。
こんなキラキラした人が。
にわかには信じられぬが、事実なら受け入れよう。
「はじめまして。長女の斗季子です。よろしくお願いします。レイドックおじさん。」
長女らしくきちんとご挨拶してみると、レイドックおじさんは目を見開いた。
「わ….私のようなものに、そのようなお言葉を…!え、でもおじさん?おじさんって、私?」
「長男の侑李です。お招きありがとうございます。レイドックおじさん。」
続けて侑李が言うと、レイドックおじさんはすっかり固まってしまった。
それを見て、お父さんはやれやれと手をあげた。
微妙な笑顔になってしまったレイドックおじさんの後ろで、メイド服を着た人(これまたものすごい美人!)や執事っぽい初老のオジサマ(ダンディが過ぎるロマンスグレー!)もビシリと姿勢を正しつつも貼り付けたような笑顔になっていた。
そのあと、みんなで応接室に移動する。
やたら高級そうなソファを勧められて、やたら高級そうなお紅茶を出されて、お行儀良く「美味しいです!ありがとうございます!」と紅茶を淹れてくれた先程の美人メイドさんに言ったら泣かれた。解せぬ。
お父さんとお母さんと話しているうちにレイドックおじさんはようやく起動したみたいだ。
一口、優雅な仕草で紅茶を口にして、こちらを見た。
「リリアンフィア姫。」
「斗季子です。」
「リリア「斗季子。」…姫。」
絶対に認めぬ!リリアンフィアなど!
「……斗季子姫は、この先どのようにしたいとお考えですか?」
ようやく諦めてくれたレイドックおじさんだったが、姫は譲れないようだ。
まあいい。ここが落とし所だろう。
「普通に暮らしたいです。もちろんもとの世界に帰るのが最終目標ですけど。その方法を探しながら、今までと同じように暮らしたいです。」
そう答えると、レイドックおじさんは、ふむと考えこんだ。
「同じように、と言いますと、どのようなお暮らしでしょうか?」
「もとの世界では大学生でした。学校に行って、それで、おやすみの日は旅館を手伝って。そうだ!旅館!旅館がしたいです!」
ポンと浮かんだアイデアに声が上擦る。
我ながら、いい考えなんじゃないか?
せっかく旅館ごと転移してきたんだ。
しかもお父さん達の話しだと温泉も何故かそのまま使えてるらしいし!
旅の人を泊めれたら色んな話も聞けるじゃないか!
もとの世界に帰るヒントもあるかもしれない!
「旅館、か。斗季子は前からうちの温泉旅館を継ぐのが目標だったからな。」
お父さんも考える仕草を見せた。
「ここからも遠くない。それこそバイクを使えばすぐだ。俺がここに通うにも問題ねぇな。」
ニヤリと笑うお父さんにレイドックおじさんは慌てた顔になった。
「待ってよ兄さん!ここに帰ってくるんじゃないの?!」
「家族を残してそんな事できるかよ。」
「もちろんご家族もだよ!公爵家で暮らせばいいじゃないか!」
レイドックおじさんはとうとう立ち上がってそう言った。
「レイドック、すまねぇがそれは出来ない。俺はともかく、家族はあの家でないと。そして俺も家族とは離れて暮らせない。だが、戻ったからには公爵としての仕事をしなくちゃならないのもわかる。だからあの家に住んで、ここに通う事にする。」
「そんな!」
レイドックおじさん、きっとお父さんの事が大好きなんだろうなぁ。
やっと会えたお兄さんと離れたくないんだろう。
だけどさ。
バイクで20分の距離だからね。
「あと。」
「…あと?」
お父さんは口籠もった。
言いにくそうに頭をポリポリと掻く。
「正直、向こうの世界の便利さに慣れちまって、ここの暮らしじゃ不便すぎる。」
まさかの怠惰理由だった!
「レイドックおじさんも遊びに来てください!」
あまりにも可哀想だったので、出来る姪っ子としてお慰めする。
するとレイドックおじさんは私の言葉に一瞬驚いたような顔になったが、すぐに嬉しそうに綺麗すぎる微笑みを浮かべた。
「なんとお優しい…!お誘い、ありがたくお受けします。斗季子姫。」
っていうか、どうやら感動しているようだけど、むしろこっちが強すぎるイケメンオーラにやられてるからね!
眩しすぎる!
「おじさんがイケメン過ぎてツライ。」
思わず呟けば、お父さんが顔を歪めた。
「おいレイドック!斗季子に手ェ出すんじゃねぇぞ!」
「そんな!兄さんまさか!そんな恐れ多い事しないよ!」
「そうだよお父さん!こんなイケメンが私なんか相手にするわけないでしょ!」
「斗季子姫…!私のようなものをお望みいただけるなら、至上の喜びです!」
「レイドックてめぇ!」
ゴーン。
お母さんのゲンコツがお父さんの脳天を直撃した…!
「司狼。」
絶対零度の眼差し。
効果は抜群だ!
ちなみに司狼とはお父さんの名前である。
お母さんが命名したらしい。
「…すまん。」
シーンと静まる場。
全員がお母さんを畏怖のこもった目で見ているが、当のお母さんは穏やかな微笑みを浮かべて紅茶を飲んでいる。
強い…!
「そ…それでは、斗季子姫のご希望はあの地で宿を営みたいと。それでよろしいでしょうか?」
レイドックおじさんは気を取り直すように言う。
私も大きく頷いた。
どうやら私の希望が通りそうでとても嬉しい。
お読み下さりありがとうございました。