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とある世界樹の異世界冒険生活 その③


祭壇の間には、俺だけで入った。


ミカドはしばらく「俺も一緒にいくぜ!なんで連れていってくれねぇんだ!」と喚いていたが、最終的には折れて俺の自由にさせてくれた。


ジャックディードは、さすがにもともと俺の眷族だけあって、なにかを察したのか、じっと俺を見ていたが、なにも言わずに俺を送り出してくれた。


いまごろ、文句を言うミカドを宥めてるのだろう。


扉を開けると、そこはただ真っ白な空間。


少し次元がずれたところに存在しているため、王城内にあるとはいえ、その広さには果てがない。


そして、俺の目の前には白く枯れかけた大木の根。


「大分力は失っているようだけど。」


そんなことを独言ながら俺はその根に向かった。


近づけばその大きさは見上げるほど、幹の太さは家屋を飲み込むほど。


これを、ここから引き抜き、消してしまわなければならない。

さて、どうしたものか。


試しにその根に向かって、手をかざし、力を込めてみる。


パリパリと、放電したような光が根を包んだが、そのうちにそれもかき消え、根は何事もなかったかのようにそのままだ。


それならばと、今度は根の一部をつかみ、力任せに引っ張ってみる。


ギリ、とわずかな音をたて、根が傾いだ気がしたが、そもそもの大きさが大きさだということもあり、たいした影響はないようだ。


「・・・やはり、方法はひとつか。」


俺はため息をついた。


この根は、世界樹の残り火。

最後に残った、俺の灯


斗季子になにも言わずにここに来たもうひとつの理由。

それは、俺をこの世界から消去すること。

そしてこの世界を完全に斗季子の世界にすること。


そうすることで、やっとこの世界はひとつの世界として完成するのだから。


ごめんね。斗季子。

できたら、君の世界で、君と一緒に生きたかった。

ちゃんと、一人の男として、君と向き合いたかった。


どうか、ずっと笑顔でいて。

大好きな温泉に囲まれて、まわりのみんなを笑顔にして、幸せでいて。


俺は覚悟を決めると、胸に手を当てた。

そのまま、思いきり・・・「ダメよぉぉぉぉぉ!!!」


どかん。

ごろごろごろごろ。

ごちん。


突然の甲高い悲鳴と、突然の体を襲う衝撃に俺はいとも簡単に転がされ、強かに世界樹の根に後頭部を打ちつけた。


・・・・・は?


「んもう!だめだめだめ!ユージル君ってば!それはだめ!」


後頭部が、いたい。とても。


「本っ当に、なんてネクラなの?!そんなことをしたら、リリアンフィアちゃんが悲しむでしょお?それに、あなたが消えても、あの根っこはなくならないんだから!」


プンプンと頬を膨らませて怒る、この人は誰だ?

いったいいつの間にここに?


「とはいえ、あの根っこは取り除かなきゃなのよね。うーん、どおしよお。」

「あの・・」

「正直、ユージル君との繋がりはもうほとんど残ってないから、ユージル君をどうこうしたとしても無理だしぃ。」

「いえ、だから、」

「うーん、やっぱ、力任せしかないかなぁ。」

「あの!!」


俺が大きな声を出すと、ようやくその人はこちらへ視線を向ける。


キョトン、とこちらを見るその顔は、息をのむほど美しい。

まるで、女神のようだ、と例えても誰も異を唱えるものはいないだろう。


「・・・だれなんですか?」


その神々しいまでの美貌に威押されながらも、そう聞けば、その人は「ああ!」と笑顔になった。


「ごめんねぇ?すっかり自己紹介が遅れちゃった。どおもー!はじめまして!になるのかな?わたし、女神でっす!」

「・・・は?」


思わず、冷めた声が出る。


女神?女神って?

俺をこの世界に生んだ、原初の女神は、カレンの中にいて、今はもうほとんどその存在が消えているはずだ。


俺の警戒の眼差しに、女神と名乗ったその人は、ぱたぱたと手をふりながら、笑う。


「やだもう、信じてないのね?えっとね、貴方の種を、この世界に植えるようにお願いした、女神ちゃんでっす!ユージル君、お疲れさま!ほぉんと、頑張っておおきくなったねぇ!おかげでこの世界もこんなに大きくなったし、女神ちゃん大感謝!」


その、自称女神は実に軽快に俺を労う。

軽快過ぎて少々イラッとくるくらいだ。


じっと自分を凝視する視線に、自称女神はニッコリと笑い、そして俺に歩み寄った。


「会いたかったわぁぁ!息子よーー!」


芝居がかった様子で思いっきり抱きしめられて、反射的に突き飛ばしてしまった。


自称女神はさっきの俺のようにゴロンゴロンと転がり、ゴチン!と頭を樹の根にぶつけた。


「いったぁぁい!!ママになんてことするのよ!」


涙目で俺を睨むけど、いや俺は悪くないし!


突然現れてわけのわからない事を言われたんだ。

俺の反応は間違ってない!


思いっきり眉をひそめて後頭部をさする自称女神を見ていると、自称女神はそのうちむっくりと起き上がり、俺の前に笑顔で立つ。


「まあ、これも息子が正常に育ってる証拠かな。反抗期ってヤツよね!」

「……は?」


自称女神はなんだか1人で納得すると、あらためて世界樹の根に視線を向ける。


「それにしても、これはなんとかしなくちゃなのよね。んもー、あの子ったら、まさかこの世界を世界樹の力から温泉の力に塗り替えるなんて!超予想外!」


さっきから、ひとりで話を進めて、まったく人の話を聞かない!

俺はだんだんイラついてきた。


「ちょっと待て!女神?女神って?原初の女神はカレンの中で、もうほとんど存在を消している!」


自称女神が話し出す前に声を大きくそう言えば、なぜか得意気などや顔を向けられた。


「ノンノン、カレンちゃんの中にいるのは私が世界樹の種を渡した浅葱家の先祖ね。私はその先祖に、この世界を作ってくれるようにお願いした、エライ女神様なのだ!エッヘン!どう?驚いた?感動した?すごい?私すごい?」

「・・・うっぜぇ。」


思わず漏れた一言に、自称女神は一瞬「は?」という顔をして、それからあからさまに不機嫌になった。


「ちょっとぉ、ママにたいしてそれはひどくない?せっかく自殺志望の息子を救いに来たっていうのにぃ。」


これが本当に女神なのか?

と疑わしく思えるほどに子供っぽくむくれる女神に、俺はなにも言えなくなる。


そして、ただじっとりと疑りの眼差しを向ける俺に、自称女神は、にっこりと微笑んだ。


「ユージル君!安心していいわよ!貴方が消える必要なんて、これっぽっちもないんだから!この世界樹はね、もう貴方との繋がりはほとんど残ってないの。というより、貴方に、もう世界樹としての力が無くなったというべきね。」


自称女神のその言葉に、俺は目を開く。


俺に、世界樹の力が無い?

そんな。

だって、俺は世界樹の化身で。

世界樹そのもので。


斗季子たちが世界樹をここまで削ったから、俺の力が弱まったんじゃないのか?


「リリアンフィアちゃんってば、さんざんユージル君を温泉漬けにしたでしょ?それで、ユージル君の世界樹の力は洗い流されちゃったのよね!まぁ、仕方ないか!汗かいたらお風呂で洗い流すし!」


またもや訳のわからないことを言って、俺を混乱させる自称女神。


斗季子が俺を温泉漬けにしたから世界樹の力が消えた、ってのも正直訳がわからないけど、汗かいたらお風呂で洗い流す?


俺が首をかしげていると、自称女神はフフン、と笑う。


「世界樹の種って、私がホットヨガしてかいた汗で出来たのよ。正しくは、ホットヨガでかいた脇汗から産まれたの!」


衝撃の事実に、俺はこんどこそ膝から崩れ落ちた。





















お読みくださりありがとうございます。

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