とある世界樹の異世界冒険生活 その①
ユージル君と、ミカドちゃんと、ジャックディード=ダークネス・オブ・ワールドエンド君と、時々斗季子。
「お・・・お・・・おぎゃあああああああ!!!!」
早朝、浅葱家、斗季子の自室。
お天気も良く、気温は適温。
空気は爽やかで絶好の洗濯日和。
何かいいことありそうな、そんなご機嫌な一日の始まりに、私は絶叫をあげていた。
「なんだなんだ!!どうした?!ねえちゃん?!」
私の叫び声を聞き付けて、侑李がバン!と乱暴にドアを開けて部屋に入ってくる。
私はそんな侑李に振りかえって、ワナワナ震える手で手紙を握ったまま声を絞り出した。
「ゆ・・・ゆう・・り・・・!」
いかん、泣きそうだ。
ダメだダメだ、落ち着け!落ち着くのだ!私!
ただならぬ様子の私に侑李は心配そうにそばへとやってくる。
「なんだ?手紙?なにかあったの?」
侑李は握りしめられた手紙に視線を落とすが、すっかりぎゅうう、と握りしめられたそれはグシャグシャになってしまっていた。
侑李の視線が私へと移る。
「侑李・・・どうしよう・・・!」
「うん、どうした?」
侑李の手がそっと私の肩にかけられた。
「どうしよう・・・!ユージルが・・・!!家出した・・・!!」
「・・・・・大丈夫じゃない?ジャックディードと、ミカドちゃんも一緒なんでしょ?」
「そんな呑気なこと言ってふざけてんですか大丈夫なわけないじゃないですかユージルまだ小さいのにああああああどうしよう魔獣とかに襲われたりしたらユージルに何かあったらどうしようあのプニプニお肌に髪の毛一筋でも傷を付けでもしたらマジ許さん魔獣めマジ許さんそれよりいきなり家出とかもしかして私ユージルに嫌われたとかじゃないよねもしそうだったらどうしようそれはそうとエレンダールさんいつまで温泉にいるんですか自分の領地はどうしたこのダメオカマ!!!」
ウロウロと所在なく歩き回って落ち着かない私に、グッチャグチャになった手紙をなんとか広げたエレンダールさんが冷めた目を向ける。
そしてその視線の温度がさらに下降した。
「・・・小娘、もう一度言ってごらんなさい。」
エレンダールさんは野太い声でなにやらすごんでいるが、今の私にとっては小さいことだ!
「なんでそんなに落ち着いてるんですか?!家出ですよ?!家出!!ユージルが!!ウッウッ・・・なんででしょう?私、嫌われたんですかね?何がいけなかったんですかね?ウッウッ・・・」
どうにも落ち着かなくて、エレンダールさんにすがってみれば、エレンダールさんは大きくため息をついた。
「はぁ・・・。しいていえば、その鬱陶しさがいけないんじゃないかしら?」
エレンダールさんは乱暴に私の顔を袖口で拭う。
あ、この袖、柔らかくてちょうどいい。ちーん!
「ちょっと!!私の服で鼻かまないでちょうだい!!」
エレンダールさんはドン、と私を突き飛ばして袖口を指でつまむ。
「エレンダールさん!ひどい!!」
「ひどいのはどっちよ!!」
「・・・だって、だって。」
再び涙が溢れだした私をエレンダールさんは再びため息を吐きつつ、抱き寄せてくれる。
ポンポン、とあやすように背中を叩きながら、なんとか落ち着かせようとしてくれた。
「まあ、少し様子をみてごらんなさい。そのうち帰ってくるわよ。ジャックディードもミカドちゃんも強いし、ユージル様だってもともと中心神なんだから、そうそうなにかあるなんてことはないわよ。それに、男の子なんだから、友達と冒険したいと思うこともあるんじゃない?」
エレンダールさんに慰められて、ようやく涙がおさまってくる。
「そ・・・そうでしょうか?」
「ええ、そうよ。だから待ちましょ?」
顔をあげれば、エレンダールさんはにっこりと微笑む。
その笑顔に私の動揺も少し落ち着いた。
「・・・えぐ・・・はい。・・・ちーん!!」
「あっ?!この小娘!!また私の服で鼻かんだわね?!」
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
パチパチと、木のはぜる音がする。
森は、とても静かで、時折風に揺れた葉の擦れる音が聞こえるくらいだ。
「ほら!採ってきたぞ!」
ぼんやりと焚き火を見ていると、ミカドがその手に木の実を抱えて帰ってきた。
「ありがとう、ミカド。」
僕は・・・俺は隣に腰をおろしたミカドに笑いかけた。
「おう!いいって!」
ミカドはニカッと笑って答え、採ってきたばかりの木の実にかじりついた。
俺もそれに倣って木の実をかじる。
「それにしても、魔獣は出ないな。オークでも出てくれりゃ肉が食えたのに。」
ミカドは二つ目の木の実に手を伸ばしながら残念そうに言う。
ミカドには悪いけど、魔獣は出ないだろう。
この世界の中心だった俺に近付く獣がいるとは思えない。
「ま、これも旨いからいいけどな!」
なにげなしにそう続けるミカドに、ホッとしている自分がいた。
ミカドは、まだ幼い。
卵で過ごした年月はそれなりにあっても、産まれてからの時間はわずかだ。
しかし、その精神の成熟度はかなり高い。
普段はそれを隠して過ごしているようだが、こうして3人だけになると、その殻を脱ぎ捨てて本来の自分を見せてくれる。
それは、俺にもいえることだ。
「ところで、ジャックディードは?」
ミカドがふと、ここにいるはずのもう一人を気にかける。
「水を汲みにいったよ。近くに川があるって。」
「そうか。」
そんな話をしていると、ガサガサと葉擦れの音がして、皮袋を抱えたジャックディードが姿を現した。
「ミカド、戻っていたのか。」
ジャックディードはどさりと皮袋を置いて、ミカドの隣に座った。
「おう!お前も食えよ。」
ミカドはジャックディードに木の実を投げ、ジャックディードはそれを危なげなく受けとる。
「いただこう。」
やんわりと笑顔を見せるジャックディード。
しばらく、静かで落ち着いた時間が流れる。
やがて慎ましい食事が終わり、3人でぼんやりと焚き火を眺めて過ごした。
「明日は、どうする?」
ジャックディードに聞かれ、焚き火から目を上げる。
「そうだな。とりあえず、王都を目指さないと。」
そう答えると、ミカドも視線をあげた。
「王都か。ちょっと時間かかるぜ?俺の背中に乗るか?」
「もう少し進んだら頼む。見つかって連れ戻されるのは避けたいから。」
ミカドの問いに答えれば、ミカドは「そうか」と軽く答えてから続けた。
「姉御には、手紙しか残してないんだろ?きっと心配してるぜ?なんせ、姉御は知らないんだろ?ユージルの記憶が戻ってるって。」
ミカドに言われて、少々胸が痛んだ。
そう、俺はすでに記憶を取り戻していた。
世界樹として、この世界に生まれ、この世界を見守り過ごしてきたこと。
自分の伴侶となる、斗季子を待ち続けたこと。
その、大切な人を、傷つけてしまったこと。
「まだ、体の方は戻ってないからね。動揺させたくない。」
「姉御なら、平気だと思うけどな。」
ミカドはそう言ってくれるが、正直本当の事を話すのが怖い。
斗季子は、あんなことをしてしまった俺を、受け入れてくれるだろうか?
拒絶されたら?
そんなの、耐えられない。
「・・・・そのうち、ちゃんと話すよ。」
俺の返答にミカドは仕方ない、という風に笑う。
そしてそれ以上はその話をすることはなかった。
「とにかく、今日は休もう。明日はさらに進むのだろう?」
ジャックディードがそういいながら体を横たえる。
「そういえばジャックディード、いつもの言い回し、出ないな?」
ミカドにそう聞かれてジャックディードは、ふむ、と考える。
「リリアンフィアから離れ、ユージルと行動しているからか、あの言い回しでなくとも会話は出来る。あの、リリアンフィアに言わせると、『厨二』とか言ったか?その厨二は時々うまく他人に言葉が伝わらないことがあるからな。なぜ伝わらないのかわからないが。」
ジャックディードの答えを聞いて、ミカドは「ふうん」と興味なさげに答え、目を閉じた。
「おい、聞いているのか?お前が聞いたのだろう?そんなことでは我の中に封印された、暗黒の邪心が目覚め、お主の心に永遠なる・・・」
「わかった!わかったから!もう寝ろ!」
「おい!!」
どうやら、油断は出来ないみたいだね。
二人の言い争いをほほえましく思いながら、俺も体を休めることにした。
お読みくださりありがとうございます。
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