とある弟の異世界学園生活 その⑤
ガキィィィィンン!!
剣のぶつかる音が、ずいぶんと離れたここまで聞こえてくる。
学生同士の模擬戦とはいえ、さすがに騎士団志望者というか、かなり迫力のある試合が続いていた。
それは今日が模擬戦の2日目で、昨日行われた予選を勝ち抜いてきた生徒の試合ということもあるとは思うけど。
ハルディアは当然のように予選を首位で突破し、今日の本選も順調に勝ち進んでいた。
そして、そのままの勢いでとうとう決勝戦まで勝ち進んだ。
「ほお、侑李の友達のハルディア君は強いな。」
俺のとなりで試合を観戦している父さんが感心したように言う。
「うん、俺もハルがこんなに強いなんて知らなかったよ。」
「ハルディア君、かっこいい!頑張れええええ!!」
ねーちゃんも黄色い歓声をあげている。
キィン!!
その時、一際高く剣の鳴る音が響いた。
「あっ!危ない!!」
マナミちゃんが緊張した声を出す。
見れば、なんとハルディアが押されてる?
相手も決勝戦まで勝ち進んだだけあって、強い事はわかっていたけど、ハルディアと互角に戦えるなんて。
「ふむ!相手は誰だ?かなりの手練れだな。」
リグロさんが目を見張った。
「一学年下の、ヘイワーズ伯爵の次男、マイル殿です。」
レンブラントが手元の資料を見ながら答える。
「ヘイワーズ伯爵って言えば、確か文官の家系だったな?伯爵は財務省勤めで、長男も父親と同じ道に進んだはずだ。」
「そうだ。まさかそこの次男がここまで剣才があるとは・・・。」
父さんとリグロさんは意外そうに話している。
「?!・・・っ痛!!」
ガキイン!と思い音が鳴り、ハルディアが腕を押さえて倒れこむ。
「そこまで!!勝者!マイル=ヘイワーズ!!」
審判の声が響く。
おいおい!
嘘だろ?!ハルディアが、負けた?
観客席の誰もが想像していなかった結果に、ザワザワと騒ぎ出す。
そして、俺の隣を駆け抜ける人影。
え?マナミちゃん?
走り出したマナミちゃんは真っ青な顔でハルディアに駆け寄っていった。
「ハルたん!!怪我はない?!」
?!?!?!
な・・・?!
ハルたん?!
「・・・・すまねえ、負けちまった。ごめんな?マナたん。」
眉を寄せながら申し訳なさそうに笑顔を浮かべ、マナミちゃんの頬にそっと触れるハルディア。
?!?!?!?!
え?え?
なにこれ?
どういうこと?
もはやハルディアが負けた事よりも、ただならぬ様子の二人の方の衝撃が強い。
「おや?ユウリ、もしかして、知らなかったのですか?」
そんな俺に、レンブラントが意外そうな顔を向ける。
「・・・は?・・・何が?」
「ついこの前から、あの二人付き合ってるんだよ。なんか、学園祭の準備をしているうちに、仲が進んだみたい。」
ジーノが笑顔で続ける。
「・・・・嘘でしょ?」
俺は呆然と掠れた声でそう言うのが精一杯。
え?なんで?いつの間に?
マナミちゃん、ハルディアが好きだったの?いや、攻略対象とか言ってたし、ハルディアはかっこよくて、いいやつだし、好きになるのもわかるけど、でも、俺のこと、推しって言ってたよね?え?俺のことは、もういいの?いやいや!俺は別にマナミちゃんが好きなわけじゃないし、むしろ2人を祝福したいと思ってるから、別にいいんだけど!いいんだけど、なんていうか、複雑な気分?え?なにこれ。なんでこんなに動揺してんの?俺。
「侑李、振られた?」
ねーちゃんがポソリと口にして、俺と目が合い、ハッとしたように口を押さえる。
ちっげぇよ!!斗季子!!
「ユウリおにーちゃん、かなしい?だいじょうぶ?」
ユージルにまで、なんだが不安そうに見られて、ホント居た堪れない!!
「ち・・・ちがうよ?ユージル。ちょっと、なんていうか、びっくりしただけなんだ。」
そっとユージルの頭を撫でて言えば、少し落ち着いた。
そうそう。
びっくりしただけ!
「ユージル、大丈夫よ〜。侑李はね、我が弟ながら、なかなかのイケメンで、性格もいいんだけど、ちょっと不憫属性なだけだから。」
「・・・斗季子、あとでおぼえてろ。」
低い声で言いながら睨むと、ねーちゃんは顔色を変えた。
「ご・・・ごめんなさい!」
途端に慌てるねーちゃんからフイ、と目を逸らす。
「まったく、あんまり弟を揶揄うからだ。」
「おや?珍しい。ユウリ殿は姉君には弱いと思っていたが、存外そうでもないのか。」
「いや、違うぞ?面倒見がいいから残念な姉の世話を焼いているが、力関係は実は侑李の方が上だ。」
「ほほう。」
父さんとリグロさんがそんな話をしているうちに、ハルディアと心配そうにハルディアに寄り添うマナミちゃんが戻ってくる。
「ハル!お疲れさま!」
ジーノが明るく声をかけると、ハルディアは照れ臭そうに笑った。
「みんな、見に来てくれてありがとう。すまねえ、優勝は出来なかった。」
「いえ、見事でした。久しぶりにハルの剣劇を見ましたが、素晴らしかったです。」
レンブラントが称賛を贈る。
「そうだよう!!ほんとに、本当にかっこよかったんだから!!」
ハルディアの隣でマナミちゃんが拳を握った。
頬を赤くして、キラキラと潤んだ目でハルディアを見上げている。
ハルディアはそんなマナミちゃんの頭にポンと手を置いて、目を細める。
「ありがとう、マナたん。」
・・・・・・。
なにそのデロデロに甘い雰囲気。
口から砂糖が出そうなんだけど!
「ウォードガイア公爵、マクドウェル公爵、それに、温泉神様、ユグドラシル様。ご観覧、ありがとうございました。不甲斐ない姿をお見せして申し訳ありません。」
ハルディアは胸に手を当てて臣下の礼をとった。
その姿に父さんたちは立ち上がって労いを贈る。
「いや、卑下することはない。ハルディア君、素晴らしかった。」
「その通りだ。今回は優勝は惜しくも逃してしまったが、翻せば成長の機会が得られたということ。ますますの精進に励むといい。」
父さんたちに言われてハルディアも背筋を伸ばす。
「そうだよ!ハルたん!!ハルたんなら、もっともっと強くなれるよ!応援してる!」
マナミちゃんの鼓舞にハルディアも嬉しそうに笑う。
「マナたん・・・。ああ、そうだな!マナたんをずっと守れるように、もっと強くならなきゃな。」
「?!・・・も・・・もうっ!ハルたんったら・・・」
「?!・・・マナたん・・・!かわいい・・・!!」
「や・・やだ・・!みんなの前で!」
「いいじゃねえか。マナたんがかわいいのが悪い。」
ザアアアアアアアア(口から砂糖が流れる音)
・・・・・なにこのラブラブ加減。
リア充爆ぜろ!!
お読みくださり、ありがとうございます。