とある弟の異世界学園生活 その④
・・・・・おかしい。学園祭が、終わらない。
「尊い・・・!!尊みがすぎる!!尊死待ったなし!!」
マナミちゃんが来た。
やっぱりと言おうかなんと言おうか、来るなりフルスロットルでヲタ魂を爆裂させてる。
「すごい!素晴らしい!!心の臓が止まる!!ああああ、なんでカメラ無いかなぁ!!せめて、絵師!絵師はおらぬかぁぁ!!」
「カメラ?カメラって、確かユウリのスマ・・・ブフゥ!」
言いかけたジーノの口を急いで塞ぐ。
スマホ持ってる事がバレたら、強奪されるじゃないか!!
そしてなぜジーノとハルディアはマナミちゃんと一緒に来てるの?!
実は仲良しなの?!
「お・・・おかえり、なさいませ。お嬢様。」
なんとかセリフを搾り出し、マナミちゃんとジーノとハルディアの座ったテーブルに付く。
「あああん!最高だよ!ユウリ君!!執事服が似合い過ぎるぅぅ!!もうね、神!!!」
貴族である女生徒達とは胆力が違うのか、今までみたいに気絶される事はなかったけど。
「マナミ嬢、お帰りなさいませ。ジーノとハルディアも来てくれたのですね。」
レンブラントも隣に来た。
「レンブラント様!!ステキ!!ステキですよぉお!!そのクールな感じが最&高です!!」
マナミちゃん、絶好調だなぁ。
「ところでレン。気づいた?この学園祭、親達の反応、すごくない?」
「もちろんです。先程もサモアール伯爵家とグレイ子爵家の取引がまとまりました。」
「嘘だろ?あの犬猿の仲の?」
三人はコソコソと話しているが、なんの事やらサッパリわからない。
「なんの話?」
しれっと聞いてみると、三人とも一瞬目を見開いた。
「ユウリ。まったく気がついていなかったのですか?」
レンブラントに言われて首を傾げる。
「このクラスのサモアール伯爵家のリーデア嬢は、この執事服の刺繍を担当した方です。それを見たグレイ子爵がその出来栄えにいたく感嘆されて、サモアール家に取引を申し込んだのですよ。」
「サモアール家とグレイ家は親同士は仲が悪いが、子供同士はクラスも同じでそうでもねぇからな。子供を通じて話したんだろ。」
「サモアール家は代々、刺繍の腕はすごいからねぇ。そのせいか、領地の人たちもお裁縫は得意な人が多いみたいだよ。」
「一方のグレイ家は布が特産だ。組み合わせとしては最高ですね。」
三人に口々に説明されて、今度は俺の目が見開かれた。
学園祭で、そんな事が?!
「他にも、領地の農産物を使ったお菓子を売ってるクラスのところには、新しい販路の申し込みがあったり、クイズやってるクラスの成績優秀者に婚約の申し込みがあったり、親達もこの学園祭でかなり利益を得てるみたい。」
えええええ・・・。
なんなのその、政治的な学園祭。
「生徒が主体ってのが、また良かったらしいぜ。夜会なんかのかしこまった場と違って、あくまで観覧の客だからな。忌憚なく話が出来るらしい。」
ハルディアがそう付け足しながら、隣に座るマナミちゃんの口元をそっと拭っている。
どうやらヨダレを垂らしながら俺をガン見してたらしい。
ハルディア、面倒見いいやつ。
そんな話をしていると、喫茶室の入り口がザワザワとし出す。
「侑李!どう?儲かってる?」
「ユウリよ!来てやったぞ!」
「おう!坊主!久しぶりだな!」
ねーちゃんとリーズレットさん、それにラウムさんが顔を出し。
「あらまあ!ちょっと!ステキじゃない!普段は給仕される側のお坊ちゃん達が、給仕するなんて、面白いわぁ!」
「ゆうりおにーちゃん!かっこいい!」
後ろからユージル君を連れたエレンダールさんが入ってくる。
「おい!リーズレット様だ!」
「フレイニール公爵もいるぞ!なんて美しい!」
リーズレットさんとエレンダールさんは流石にその存在感が桁違いで、目立っている。
「ね・・・ねぇ、あの方ってもしかして。」
「ああ。あの方がおそらく、ユウリ様の姉君、ユグドラシルの愛し子にして、聖なる泉の女神、温泉神様だ!」
「え?!じゃあ、あの美しいお子は、まさか!」
「ユグドラシル様だろう。」
うん。
ねーちゃん達の方が目立ってた。
執事に給仕されてポーッとなっていた女生徒達も、途端に緊張した顔になる。
そんな周りの状況を気にもせず、ねーちゃん達は席についた。
「ねえねえ!侑李!ほら!あれやってよ!『おかえりなさいませ、お嬢様』ってやつ!」
流石にねーちゃんは執事喫茶のなんたるかを知っているからか、ワクワクした顔で俺を見る。
自分の姉に、そんなことをするなんて恥ずかしすぎるんですが。
しかし、ここに来た以上、お客様だ。
俺は諦めて覚悟を決めた。
「おかえりなさいませ、お嬢様。お飲み物はどうなさいますか?」
俺のセリフを聞いて、ねーちゃんは満足そうに笑う。
「そうね、じゃあアールグレイをいただこうかしら。お菓子はフィナンシェがいいわ。」
気取った様子で答えるねーちゃん。
「お?面白そうじゃな!妾にも頼むぞ!」
リーズレットさんまでそんな事を言い出したので、俺はやけくそ気味に笑顔を向ける。
「そちらのお嬢様はいかがされますか?同じアールグレイになさいますか?」
「酒。」
「うむ、酒だな。坊主、生ビール!」
リーズレットさんに続いてラウムさんが注文。
「ねぇよ!!」
俺は設定を忘れて思わず叫んだ。
(酒だけに。)
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