とある弟の異世界学園生活 その①
侑李君の学園生活編をちょこっと。
「・・・は?学園祭がない?」
愕然と呟く俺に、レンブラントもハルディアも、それにジーノも顔を見合わせる。
「ないも何も・・・ここは魔術や歴史、それに剣術なんかを学ぶところだろ?なんで祭りなんてやるんだ?」
ハルディアは首を捻りながら聞き返した。
いや、それはそうだけど!
「だって、学校行事として、生徒の主体性とか、団結力とか・・・」
ぶちぶちと口を動かせば、レンブラントはふむ、と考えて顎に手を当てる。
「主体性・・・団結力・・・なかなか興味深い事ではありますね。ユウリ、具体的にはどのようなものなのです?その、学園祭、というのは。」
レンブラントの質問に、ハルディアとジーノも期待の目でこちらを見た。
「学園祭ってのは、生徒が主体となって行うお祭りなんだよ。各クラスごとや、部活・・・はないか。同じ趣味を持つ者同士で出し物をしたり。例えば、このクラスで一つ、喫茶店とか、ゲームコーナーとかをしたり、剣術の好きな人が集まって、模擬戦をしたり、あとは、そうだな。楽器や歌が得意な人が集まって、演奏会を開いたり!」
他にもダンスの発表とかもあるけど、ここでそれをやったら舞踏会になりそうだよな。
「面白そうじゃねぇか!」
「ええ。使用人に任せるのではなく、自分たちで、というのが新鮮です。」
「僕、笛にはちょっと自信あるんだよね!」
ハルディア、レンブラント、ジーノはそれぞれ興味を示して、わいわいと話始める。
「ユウリ。その学園祭は実際にはどのように進めるのです?」
レンブラントがキラリと目を光らせる。
うわ。やる気になってる。
「そうだな。俺の知ってるやり方は、まず、日程は2日から3日間。その間は通常の授業は行わず、学園祭を行う。生徒はその日までに出し物を決めたり、それの準備。あ、準備は放課後とか、授業の始まる前の朝の時間とかにやるんだよ。当日は、生徒だけじゃなくて、親とか知り合いも呼んでお客さんになってもらうんだ。」
俺の話を身を乗り出すようにして聞く3人。
この学園には、学園祭はおろか、体育祭もなけりゃ、合唱祭もない。
修学旅行も、もちろんない!
本当に勉強をするだけのところだ。
あとは、貴族の子女の知り合いの場。
これじゃ、学園生活の楽しみが半減だ。
「学園に親を呼ぶのか?!問題を起こした訳でもないのに?!」
ハルディアが目を丸くする。
「叱られるために呼ぶんじゃなくて、成長を見てもらうために呼ぶんだよ。」
俺がそう言うと、ハルディアだけでなく、レンブラントとジーノも驚いた顔になる。
「・・・ユウリ。すごい事を考えるね。武勲を立てた訳でもないのに、父上や母上にそんな姿を見せるなんて。」
ジーノは唖然とした顔のまま言う。
うん。元の世界と、考え方が違いすぎる。
「それだけじゃなくて、普段、自分の子供が学園でどんな風に過ごしてるのかとか、誰と仲が良いのかとか、親としては気になるだろ?」
「なるほど。学園は将来の貴族社会の縮図。そう考えると父上達にも来る価値はあると。」
「いや、そうじゃなくて。」
納得してしまったレンブラントにそっとため息を吐く。
「自分たちが楽しむってのも目的の一つなんだよ。みんなで協力して、何かをするってのに意味があるんだ。」
俺の話にみんなは笑顔で大きく頷く。
「ねぇ!なんにせよ、面白そう!僕、やってみたい!学園祭!」
「ああ!俺もだぜ!騎士団志望の奴らと模擬戦がやりてぇ!父上に見てもらえるなら、やりがいもあるってもんだ!」
「学園長に掛け合ってみましょうか。そうと決まれば、ユウリ、早速行きますよ!」
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
学園長の許可は。
すぐに出た。
もうね、拍子抜けするくらいすぐ。
「いいでしょう。やってみなさい。」
「ええ?!そんなに簡単に?!あの、でも日程調整とか・・・」
「学園の生徒が、自主的に何かを成し遂げようとしてくれるとは・・・私は長くこの学園長の職に就いていますが、こんな事は初めてです。早速、他の先生方や保護者の皆様に通達せねば・・・!」
「いや、あの、学園長?いいんですか?今まで、やってなかった行事ですよ?もっと、先生方達で、会議とかで・・・」
「ああ、ユウリ君。この学園には、その学園祭というものを知っている人はいません。貴方が中心となって取り仕切るように。そうですね、とりあえずは先生方への説明がほしいところです。」
「俺の話、聞いてます?!」
夢を膨らませてくれちゃってる学園長に、思わずツッコミを入れてしまう。
しかしそれでも学園長の勢いは止まらず、ズルズルと俺は『学園祭実行委員長』にさせられ、レンブラントとハルディア、ジーノがその補佐となった。
えええええ・・・
正直、こんなに爆速で話が進むと思ってなかった。
いや、学園祭はやりたいんだけど!
ちょっとげんなりした面持ちで、学園長室を出ると、
「ユウリ君が!!学園祭をやると聞いて!!!」
キラッキラに目を輝かせたマナミちゃんが仁王立ちで待っていた。
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