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とある冒険者の温泉体験記 その③



「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」


「・・・なあに湿気たツラしてんだ。飲もうぜ!」


風呂から上がって、ミーシャやルーシアと合流した。

呆然とする二人にシモンを紹介した。

シモン「出会った記念と、日帰り温泉デビューのお祝いに一杯奢るぜ!」

『お食事処』に連れてこられた。

出された『生ビール』を飲んで、あまりのうまさにびっくり。←イマココ


ここに来てからの信じられない体験と、驚くしかない出来事と、生ビールのあまりの美味さに、俺たちは言葉を失っていた。


いや、言葉を失うっていうか、人格が崩壊しかけている。


「ほら!飲め飲め!あ、そうだ!ここは食いもんも美味いんだ!えーっと・・・」


シモンがそう言って品書きのかかれた冊子を開いた、その時だった。


「シモンさん!」


ふと、声がかけられる。


「おお!トキコの嬢ちゃん!」


シモンの反応に思わずバッと顔をあげる。


するとそこには、受け付けにいた、トキコさん、いや、温泉の女神様がいらした。


やべえ。

知らなかったとはいえ、俺たち女神様にとんでもない無礼をはたらいたんじゃ・・・!!


内心、だらだらと冷や汗を流している俺たちに構わず、シモンと女神様は会話を続ける。


っていうか!!

シモン!!


女神様に『トキコの嬢ちゃん』なんて言って、大丈夫なのか?!


「シモンさん、ありがとうございました。初めてのお客様にいろいろとご案内いただいたそうで。これ、新作料理の『小籠包』です。よかったら、みなさんでどうぞ。」


女神様はそういいながらテーブルの上にドン!と大皿を乗せる。

皿の上には、食欲をそそる匂いの丸いものが山盛りに乗せられ、湯気をたてていた。


「さすが嬢ちゃんだぜ!ありがてえ!!」

「熱いですので、気を付けてくださいね。」


シモンは早速とばかりに手を伸ばす。

フォークでつつき、ハフハフと実に美味そうに口に運んだ。


「こりゃあうめぇな!おい、ガーク達も食ってみろよ!」


呑気にそんな事を言いながら『小籠包』

とやらを勧めてくるが。


おい!何をバクバク食ってるんだ!

女神様の前だぞ!!


俺は真っ青になってシモンと女神様をチラチラと見る。


他の3人も、どうやら俺と同じ気持ちらしく、神妙な顔で俯いていた。


「何やってんだ?早く食ってみろよ!」


俺たちの心情も知らず、勧めてくるガークに俺はコソッとささやいた。


「いや、だってよ。その、女神様の御前で、そんな。」


それを聞くと、シモンは一瞬キョトンとして、それからガッハッハと大声で笑う。


「そうか!いや、そうだよな?いやいや、悪かった!」


そういってひとしきり笑うと、シモンは笑いすぎて涙が出たのか、目元を拭いながら女神様に向き直った。


「俺もな?最初は、そりゃあ、ビビってたさ!さっき、初めてここに来たときに思わず怒鳴っちまったって言っただろ?あれ、実はトキコの嬢ちゃんにだったんだ。」


シモンの告白に息を飲んだ。


なんてことを!!

女神様に対して、怒鳴るなんて、どんな神罰があるか・・・!!


戦慄していると、シモンは困ったように笑う。


「そうだよな?なんて命知らずなって、思うよな?俺も、そのときそう思った。だけどな?そんとき、嬢ちゃん、どうしたと思う?」


シモンに質問されるが、回答は見当もつかない。


もし、女神様の神罰を受けたなら、ここにシモンは存在していないからだ。


黙ったままの俺たちに、シモンはニヤリと口許を歪める。



「謝ったんだよ。『申し訳ございません、お客様』ってな!あん時はビックリしたぜ!女神様が人に頭を下げるなんて、あり得ねえ!ってな。」


思わず、女神様の方を見てしまう。


女神様は「やめてください、シモンさん。」と恥ずかしそうにしている。


「トキコの嬢ちゃんは、ここでは女神様ってよりも、一従業員としていることを望んでいる。だから俺も、それにここに来るやつらもそういう風に接しているんだ。そうだろう?嬢ちゃん。」


シモンは女神様にニッコリと微笑みかける。

その笑みを受けて、女神様は相変わらず恥ずかしそうにしていたが、コクリ、と頷いた。


そして俺たちへとその視線を向ける。


「なんだか、他の人から自分のことを説明されると、照れてしまいますねぇ。ですが、シモンさんの言う通り、私は確かに温泉神ですけど、ここでは1人の従業員として働いていますし、それを楽しんでいます。なので、女神様、と崇められるのはちょっと、困る、というか。」


困ったように笑いながら言う女神様に、なんとも言えない気持ちになる。


およそ、自分の想像している女神様と違う。

女神様ってのは、もっと、威厳に満ちていて、直視できないような、そんな尊いもんだと思っていた。


だが、目の前にいるこの女神様はどうだ。


まるでそこらの小娘のように、親しみやすく、可愛らしい。

こんなことを思うことはとんでもねえ不敬なのかも知れない。


だが、思わず微笑んで見守りたくなるような、あったかい気持ちになる。


シモンが「トキコの嬢ちゃん」なんて呼びたくなるのもわかるぜ。


「そういうわけで、どうぞ皆さんも気軽になさってください。ここでは皆さんは大切なお客様ですから。そしてこの日帰り温泉を気に入っていただけたら嬉しいです。」


女神様はそういうと、「それじゃ。」と立ち上がり、俺たちの席から離れていく。


そんな女神様にあちらこちらから、「トキコさん!ビール!」やら「嬢ちゃん!レモンサワーと唐揚げ!」やらと注文の声が投げ掛けられた。


女神様はそれらに笑顔で答えて忙しそうにくるくると働いている。


俺は、大きくため息をついた。


まったく、なんて女神様だ。


俺はもちろんこの日帰り温泉が素晴らしい場所だと感じているが、同時に女神様のこともとても好きになった。


「・・・・・・絶対に、また来るぞ。」


思わず漏れた呟きに、パーティーの3人が大きく頷いた。


「もちろんさ!まさかこんなに素敵なところだと思わなかったよ!」

「ああ!絶対にまた来よう!」

「ねえねえ!いつ来る?もう、明日でもいいんだけど!」


口々にそんなことをいいながらわいわいと騒ぎ出す。


口々に出されるその言葉は、俺もまったく同意なもので。


グビリ、とビールを喉に流しながら。


「俺もいつか、『嬢ちゃん』って呼べるくらいになりてぇなぁ。」


とても満ち足りた気分でそんな事を呟くのだった。



~~~追記~~~


「ありがとうございましたああ!こちら、お預かりしておりました、武器になります。おたしかめください。」


日帰り温泉をあとにするとき。


預けた武器を受け取って、俺たちは目を見開いた。


「・・・・・・・え?」

「・・・な・・・なんだ、これは・・・!!」


ピカピカに、磨かれた剣。

上等な皮で補強された握り部分。


「・・・おい、これ・・・」


思わず、受付の少女に問いかけの視線を向けてしまう。


そんな俺に少女はにっこりと微笑み、説明をした。


「キャンペーン中のお手入れをさせていただきました!剣の方は大分刃こぼれしていたようなので、研ぎ直しをして、強度が心配だったので、ミスリルコーティングをさせていただきました。握りは布だと滑りやすいですし、やはり強度的に心配なので、ワイバーンの皮で補強を。あと、弓ですが、弦が痛んでいましたので、ユニコーンの鬣で張り直しをさせていただきました。矢羽に使っているのはコカトリスの羽です。以前より飛距離が伸びるかと。」


当たり前のように説明されて、みんなでごくりと喉をならす。


おい。

おいおいおいおい!!


それは、まったく別物の武器を買いそろえたってことと同じじゃねえか!!

それも、俺たちにはとても手が出せない、最高級の武器にな!!


俺たちはお互いに顔を見合わせ、元俺たちの武器だったものを恐る恐る手に取る。


ちくしょう。

ちくしょうちくしょうちくしょう!!


なんて場所だ!!日帰り温泉!!

絶対また来てやるからな!!!





             

お読みくださりありがとうございます。

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