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とある冒険者の温泉体験記 その①

湯goodラニアに住む冒険者目線の日帰り温泉。


オルガスタ領、領都。


「・・・・はい!以上で依頼完了となります!こちらが依頼料と、素材換金料になります。お確かめください。」


商業ギルドでの依頼を完了し、代金を受けとる。


「確かに。じゃあ。」

「ありがとうございました!またよろしくお願いします!」


受付嬢の明るい声に見送られて、ギルドを後にし、広場の仲間のもとへと向かう。


ああああ、疲れた。

今回の依頼はなかなかハードだった。


オーク肉の調達。


領都のレストランからの依頼だとかで、その依頼を受けたはいいが、一匹だけ仕留めるつもりが、近くにもう一匹隠れてやがって、結局二匹仕留めるはめになっちまった。


おかげでパーティーメンバーの一人が足を挫くし、想定より時間はかかるしで散々だったぜ。


まあ、大きな怪我人も出なかったし、その分、依頼料や素材料も多く手に入ったから、良しとしよ

「あ!ガーク!こっちこっち!」


広場の噴水のヘリでパーティーメンバーの一人、エルフ族のルーシアが大きく手を振った。


俺のパーティーは人族の俺、ガークと同じ人族の女性ミーシャ、獣族の男性のタルボットにエルフ族の女性ルーシアというメンバーで、ランクとしては中の上、もう少しで上の下に届くといったところか。


主に魔獣を狩って生計をたてている。


「タルボットの様子はどうだ?」


ルーシアの隣で腰かけるタルボットを見れば、困ったような笑顔を返された。


「治癒魔術はかけたんだけどね。ちょっとひどく挫いてるみたいで、完全には治らなかったんだ。ごめんね。」


ルーシアは申し訳無さそうに言うが、俺たちは揃って首をふる。


「なにいってんだい!ルーシアがいなかったら、あたしたちは今ごろ全滅してるよ!」

「そうだよ!ルーシア!だいぶ痛みも引いたし、これなら歩けそうだよ!」


メンバーの言葉にルーシアも安心したような顔になり、和やかな空気に包まれる。


「しかし、タルボットの足が完全によくなるまで、無理はしない方がいいな。幸い、依頼料は多く入ったし、しばらく休養にするか?」


掃除やら、ちょっとした店の手伝いやら、危険もなく、体力も使わない依頼もあるにはある。

そういう依頼を受けてもいいが、ずっと働き詰めだったし、ここらでしっかりと体を休めるものありかと思い、提案してみると、三人はそれぞれに同意してくれた。


それじゃあ、宿にもどるか、とタルボットに肩をかして歩き始めると、思い出したようにルーシアが手を打つ。


「ねえ!それじゃさ!今話題の、『日帰り温泉』ってのに行ってみない?」


ルーシアの提案に首をかしげる。


ヒガエリオンセン?


なんだ、そりゃ。

「ああ!知ってるよ!なんでも、格安で風呂に入れるってとこだろ?いいねえ。風呂なんてだいぶ入ってないし、オーク狩りで汚れたし、垢を落としたいよ。」


ミーシャも賛成の声をあげた。


ヒガエリオンセンとは、どうやら入浴施設らしい。


確かにだいぶ風呂なんて入っていない。

と、いうか、風呂に入ったなんていう記憶が思い出せない。


そもそも、風呂ってもんは、お貴族様とか、大金持ちとかの特権階級が使うものだ。

俺たちはせいぜい布で体を拭うか、川で水浴びをするかしかない。


格安、何て言っても、おそらくそうとうな金額がとられるだろう。


しかし。


「行くだけいってみるか!」


たまの贅沢くらい、いいだろう!



~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~



その『日帰り温泉』とやらは、王都から少し外れた場所にあった。


普通ならばこんななにもないところへの道、人もまばらなはずなのに、結構な人が行き交っている。


みんな、『日帰り温泉』を目指しているのだろうか?


しばらく街道を進むと、なにもないところに、ポツンとそこだけにたっている建物が見える。


敷地はかなり広い。

周囲は生け垣に囲まれ、街道に向かって開かれた生け垣の隙間からその建物が除き見えた。


見たことのない種類の建築物だ。


どうやら手前の建物は平屋作りらしい。


生け垣をくぐると、声がかけられた。


「いらっしゃいませ!本日は、日帰り温泉ですか?朝霧館にお泊まりですか?」


年若い、獣族の少女。

前合わせの、ゆったりとした袖の上着に、裾が絞られたやはりゆったりとしたズボン。


これも、初めて見る服だ。


「あ、ああ。日帰り温泉、とやらに来たんだが。」


しどろもどろになって答える俺に、少女はぱっと顔を輝かせた。


「お客様、初めてのご来店ですか?」


そう聞かれて、たじろぎながら頷く。


「そうでしたか!それではご案内いたしますね!お客様、ついてますよ!今日はいつもより空いてますから!」


そう言われて辺りを見回す。


わいわいと、人が行き交い、どう見てもすいているようには見えない。


俺が怪訝な顔になっているのに気がついたのだろう、少女は困ったように笑った。


「いつもは整理券をお配りしないと、とてもさばききれないんです。」

「そんなに人気があるのか?!」

「ええ!」


誇らしげに頷く少女に、俺たちは互いに顔を見合わせた。


未だ戸惑っている俺たちを横目に、少女はそばにあった建物のカウンターの内側に入り、俺たちを招く。


「それではまず、大きなお荷物をお預かりいたしますね?そちらの、弓と矢筒、それと、剣はロッカーに入りませんね。こちらでお預かりします。」


少女の言葉に、困ってしまう。


預かるって。


「お嬢ちゃん、これは、あたしたちの大事な武器なんだ。おいそれと他人に預けるなんて出来やしないよ。」


ミーシャの言葉に少女はにっこりと笑った。


「お預かりするお荷物については、こちらの引換券をどうぞ。そちらをお読みいただけるとお分かりになると思いますが、もしお荷物に何かあった場合、同等のものを弁償させていただきます。ご安心してお預けください。」


説明を受けて、俺たちは顔を見合わせた。


なるほど。そういう方法なのか。


「まあ、ここはウォードガイア公爵家も関係してる場所だっていうし、大丈夫じゃないか?」


タルボットに言われて、俺たちは渋々ながら武器を預けた。


「大切にお預かりいたしますね!あ!そうそう、最近はじめたサービスなのですが、お預かりした武器のお手入れはいかがなさいます?今なら、キャンペーン中で、ひとつにつき500リルで承っています!」


武器の手入れ?

いったい何をするんだ?


よくわからないが、500リルじゃ、せいぜい布で磨くくらいだろう。


「じゃあ、お願いしようか。」

「ありがとうございます!先払いでいただきます!」


なんだかあやしいなあ、とそんな風にも思ったが、俺は手入れをたのみ、料金を支払った。


「それでは中にご案内します!」


少女は受け取った武器を片付けて、俺たちの先頭に立った。





中に入って、目を見開く。


ピカピカに磨かれた床。

そこかしこに置かれた、ソファや長椅子。


なんだここは?!

お貴族様の屋敷か?!


「まずはこちらでお履き物をお脱ぎください。脱いだ履き物はこのロッカーへ。鍵がかかりますので、お持ちになった鍵は無くさないように気を付けてくださいね。」


俺たちは呆然としながら少女の言うがままに靴を脱ぎ、『ロッカア』という棚に靴をしまう。


それから受け付けのカウンターに案内されたのだが。


「いらっしゃいませ!日帰り温泉へようこそ!あ、ロッティちゃん!ロッティちゃんが案内してるってことは、初めてのお客様?」


そこには、ありえないほど美しい少女がいた。


赤金に輝く髪。同じく赤の混じった金の瞳。陶器のような、抜けるように白い肌。


ニコニコと、嬉しそうに俺たちを見て笑うその少女に、言葉をなくす。

それは俺だけでなく、他の三人も同じ立ったようだ。


「そうなんです、トキコさん。今日は空いているので良かったと思って!」

「うんうん!そうだねえ!・・・ようこそ日帰り温泉へ!どうぞ楽しんでいってくださいね!」


トキコさん、と呼ばれたその少女に微笑まれ、顔に熱が溜まっていく。


そんな俺の反応を気にする様子もなく、トキコさんはてきぱきと作業を進める。


「男性お二人に、女性がお二人ですね?合わせて、8000リルになります。こちらが館内着とバスタオル、フェイスタオルになります。館内着とバスタオルはご返却いただきますが、フェイスタオルはお持ち帰りになって大丈夫です。歯ブラシや、ヘアブラシなどのアメニティは脱衣室にございますのでご自由にお使いください。」


怒濤のように説明されたが、理解するのに時間がかかる。


まず、料金。


8000リル?四人合わせて?


そんなはずないだろう!!風呂だぞ!!

一人8000リルでもおかしくない!

いや、安い!!


あと、なんだこの『カンナイギ』とやらは?!

こんな肌触りの良さそうな布は見たことがない!

え?この施設内でくつろぐためのもの?風呂は何回も入れる、って。


意味がわからねえ!!


さらになんだこのふわりとしたものは!!

これで体を拭くだと?!


もったいなくて拭けるか!!


さらにこっちの小さめの布は持って帰っていいだと?!

何を考えてるんだ!!


ひとしきり説明を受けたが、俺たちの誰一人として納得することができなかった。


なんだよ、ここは。

天国かなんかなのか?




お読みくださりありがとうございます。

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