表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

120/138

119


女神のくれた、加護。


そう言われて思いつくのは、なんといっても私のスマホだ。


お買い物アプリに、鑑定機能。銀行アプリにはありえない預金額。


便利すぎる機能。


さらにユージルがいつか言ってた、「これは俺がやったものではない」という言葉。


私はポシェットからスマホを取り出した。


それを見て、女神はニッコリと笑う。


まるで、「正解」と言われているようだ。


「私も色々と考えたのです。ユージルに私の目論見を感づかせないように、斗季子に力を持たせるにはどうしたらいいのかと。斗季子自身に直接私の加護を与えてしまえば、ユージルに気付かれてしまいますから。そこで斗季子が肌身離さず持っているであろう、そのスマホに力を与えました。」


考えてみればその通りだ。


私がここで使ってきた便利機能は、スマホを介してのものばかりだ。


「そのスマホは斗季子が力を注げば注ぐほど、進化するようになっているのです。いわゆる、レベルアップですね。そして斗季子が注ぐ力というのは『ユグドラシルの愛し子』の力。気がついていないと思いますが、貴女はそのスマホを使うたび、徐々に『ユグドラシルの愛し子』の力を注いでいたのです。」


なん……だと……!


私が知らぬ間にそんな事に?!


「い……愛し子の力って、それ、注いでどうにかなるって事はないんですか?その、例えば、私の命を削ってしまうとか……」

恐ろしくなって確認してみる。


女神は相変わらず穏やかな微笑みを浮かべたままだ。


「あります。」

「あるんかい?!」


そんな落ち着いた感じでそんな事を断言しないでほしい!


血の気が引いてしまった私に、女神は話を続けた。


「こちらに転移した事により、斗季子に備わった愛し子の力は、すなわち貴女の生命力です。ですが、その力量は膨大です。案ずる事はありません。」


そう言われて、ホッとしたような、そうでないような。


微妙な気持ちになりながら、私は女神に話の続きを促す。


「そして、スマホに注がれた愛し子の力は、斗季子自身の力に変換されてこのユグドラニアにもたらされます。例えば、貴女がお買い物アプリで購入した食べ物、飲み物。それを取り込んだこの世界の住人は、少しずつ貴女の影響下に入り、また、そうする事で、貴女自身、独自の力も強くなっていくのです。」

「そんな事になっていたとは……」


私の気が付かないうちに、この世界に私の力を振りまいていたということだ。


日帰り温泉で、お酒を飲みまくったリーズレットさんやラウムさんなど、かなり私色?に染まったのでは?


「そして、先程の話に戻りますが、斗季子。私の予定では貴女はこのスマホを介してこの世界に影響を及ぼし、この世界を塗り替えるはずでした。ですが、スマホに備わった私の力、愛し子としての力、家族と共に、貴女の心の拠り所として転移した、この温泉、そして、貴女の温泉に対する情熱、それらが合わさり、貴女は私が思っていたよりも、さらに大きな力を得ることになったのです。」


「な……なるほど。」


半ば呆然として、女神の説明を聞く。

周りを見れば、誰もが口をつぐみ、女神の言葉を聞き入っていた。


特に、リーズレットさんは「ガーン」と顔に書いてあるような表情だ。


「私もここまでの事は予想していませんでした。ですが、貴女はこの世界を塗り替える方向にと動いていました。ですから、私は考えたのです。」

女神が言葉を切り、私を見る。


じっと、真剣に見据えて、そして笑みを深めた。


「ま、いっか。と。」


………………。


私の口が、ポカンと開く。


ゆっくり侑李とお父さんを見れば、2人もポカンと口を開け、私と目を合わせた。


「………女神様、貴女が間違いなく浅葱家の先祖だと、今確信しました。」



それから女神は、さまざまな事を教えてくれた。


なぜ今になって、この世界に顕現したのか。


これからユージルはどうなるのか。


私は、これからどうなるのか。


お母さんはどうなってしまったのか。


この『(そら)』とやらは、なんなのか。


女神は実はずっとお母さんの中に存在していたんだそうだ。

しかし私への加護は、本来なら過ぎたもので、そのため女神はその力をかなり使ってしまい、顕現することが出来なかったらしい。


私がこの世界を塗り替えた事で、引きずられるように引きずられるように顕現出来ただけで、まもなく姿を消すとのこと。


そしてそれとともに、お母さんは目を覚ますとのことだった。


ユージルは、ほとんどその力を失ってしまったけど、この世界の世界樹であることは変わらないらしい。


この世界は、世界樹の力と、温泉神の力の二重の力が満ちた状態だという。


例えると世界樹という風船の中に、温泉という風船があって、中の温泉風船が膨らんで大きくなってきている感じ?


やがて中の温泉風船が外の世界樹風船と重なり、この世界は温泉神の世界になるという。


そうなると、私は完全にこの世界の中心の神という事になるのだが、女神に今後の事を聞いたところ、「どうぞ、斗季子の思うままに」とのことだった。


このまま、変わらずに過ごしていても問題ない、と。


ちょっと安心した。


そして、『(そら)』。


(そら)はわかりやすくいうと、天井に当たる世界と、地面に当たる世界、それを繋ぐ、柱の世界で構成されているんだそうだ。


そして、柱に当たる世界が人界。

私達が元々いた世界だ。


(そら)は、収縮する力が働いていて、それを防ぐために、柱の周りにたくさんの世界を構成する必要があるんだそうだ。


ユグドラニアも柱の周りの世界のひとつ。


収縮する力に負けてしまうと、風船が萎むように(そら)は縮んでしまい、最後には消滅してしまうそうだ。


だから、ユージルは新しい種、すなわち新しい世界を作ろうとしていたと。


なんだか「ああ、なるほどね。」とは思うんだけど、スケールが大き過ぎて、ピンとこない話だ。


「私も、新しい世界とやらを作らないとならないのでしょうか?」


気になって聞いてみれば、女神はコクリとうなずいた。


「そうなります。でないと、(そら)は滅んでしまいますから。」


ですよねー。


私はため息をつく。


その様子を見てか、女神は困ったように笑った。


「ですが、焦らなくても大丈夫ですよ。(そら)を流れる時は、それこそ悠久です。人の考える速さとは、時の流れがまったく違うのです。そして、神となった貴女にも、たくさんの時間が残されています。ゆっくり考えて、ゆっくりこの(そら)の行く末について考えてもらえたら、それでいいのです。」


女神の言葉は私を安心させてくれた。


どうやら時間の猶予はありそう。


その猶予が私の考えるものより、はるかに長大そうな気がして、その点が少々気になるが、とりあえず今は保留で大丈夫だろう。


「俺からも、質問してもいいですか?」


ひとしきり女神の話を聞き終えて、侑李が口を開いた。

女神は侑李に優しく微笑んでうなずく。


「元の世界に帰るってことは、出来ますか?」


侑李の質問に、私も女神を注目する。

その問いかけは、この世界に転移してきた私達の最終目標だ。


元の世界に、帰る。


だけど私は、この世界の中心、温泉神になってしまった。


そんなこと、出来るのだろうか?


そして、私は今もそれを望んでいるのだろうか?


「そうですね。人界に帰れるか、という事については、確約は出来ないのですが、異なる世界への入り口はこの世界にもあります。」


女神の言葉に侑李は目を見開く。


「どこに?!」

身を乗り出す侑李。


「中央部、貴方方のいうところの、王城です。」


「祭壇の間!」

侑李がポンと手を打った。


聞いたことがあるぞ。

確か、ユグドラシルに繋がっているといわれているとかなんとか。


ユグドラシルに繋がるものではなく、異世界転移装置だったらしい。


「侑李は、帰りたいのか?」

お父さんが、少し寂しそうに聞く。


お父さんの様子を見て、侑李は少し言いづらそうだったけど、口を開いた。


「まあ、帰れるなら、帰りたいと思ってる。こっちにも良い友人が出来たし、家族もいるから、正直すっげぇ迷うところだけど。」


侑李は下を向いて、ポリポリと頭を掻いた。


その顔が、ほんのりと赤くなる。


ちょっと……。

なに、その反応。


おねぇちゃんは嫌な予感がしますよ!


「……会いたい人がいる。」

「彼女かーーー?!」


私は思わず腰を上げ、侑李にくってかかった。


「こら!斗季子!落ち着け!」

「トキコちゃん!抑えて抑えて!」


両脇からお父さんとエレンダールさんに押さえつけられ、腰を下ろす。


し……知らなかった……!

弟に彼女がいたとは……!


私だっていないのにリア充爆発しろ!


「恋人がいるなら、帰りたいわよねぇ。んもぅ、ユリウスちゃんったら、隅におけないわぁ!この、I・RO・O・TO・KO。」


「ヴィヴィアン、うぜぇ。そしてユリウスやめろ。」


侑李が悪態をつくが、ヴィヴィアンは「ぁん。」とまったく気にも留めない反応だった。


「だけど、正直俺もまだ考え中なんだ。時間がほしい。」


侑李に言われて私も落ち着く。

すぐにどこかへ行ってしまうなんて事はなさそうだ。


そんなことになったら、私泣くからね!




お読みくださりありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ