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バシーーン!!


すぐ横を、巨大な枝が薙ぎ払い、寸でのところを辛うじて避ける。


ヒュン!!


頬を掠める、ツタ。


私達はギリギリの闘いをしていた。


「ふんぬ!!」

リーズレットさんが剣を振ってツタを切り裂く。


しかし、その切り裂かれたツタはすぐに再生し、再び私達を絡めとろうと襲いかかってくる。


ゴォォォォ!!


リグロさんが口からエネルギー波を発して、幹を焼き払うが、その幹は炭化したその場から元に戻り、私達を追いかける。


「リリにゃん!お水!!」

お岩はその手に持っているミネラルウォーターを私に渡してくれた。


逃げ回ってばかりで喉が渇くので、何気にありがたい。


しかしこのままでは消耗するばかりだ。


「ダメじゃトキコ!妾達の攻撃では歯が立たぬぞ!」


リーズレットさんに叫ぶように言われて、私は頭をフル回転させた。


熱湯温泉の打たせ湯とか、ドライヤーの熱風は少しだったけど効果があったと思う。


ということは、温泉パワーならば、少しは効くということ?


でも、相手は巨大な樹木になってしまった。


とても、力が足りない。


世界の中心として、私は力不足だ。


それなら、数で勝負と言いたいところだけど、それも足りていない。


王都からの援軍が来るまで持ち堪える事など、出来るのだろうか?


不安が胸を占めたその時だった。


「トキコちゃん!!」

背後から、声が聞こえた。


「エ……エレンダールさん!」

風呂桶階段を登り切ったエレンダールさんが、心配そうに私を見ている。


「トキコちゃん!遅くなったわ!!なんなのこの状況は?!この巨大樹はなんなの?!」


「ユージルです!逆ギレしてこうなりました!今は説明しているヒマはありません!」

「何が何だかサッパリわからないけど、説明してる間がないのはわかったわ!どうにかならないの?!」


愕然として巨大樹を見上げるエレンダールさんに、リーズレットさんが駆け寄った。


「エレンダール!!妾達の攻撃が効かぬのじゃ!何か手はないか?!」

「来ていきなりそんな事を言われても!!」


「ちょっとぉぉ!!ユージルちゃんったら、あんなになっちゃったのぉ?!」

風呂桶階段から野太いオカマの声がした。


おかしいな。

エレンダールさんはここにいるのに。


私が首を傾げると、エレンダールさんが振り返って、「ああ、」とうなずいた。


「トキコちゃん、彼…‥じゃなかった、彼女はアカスリの精霊、ヴィヴィアン。ユールノアールで会ったの。」


エレンダールさんの紹介文、手短かなのにすごい情報量ですね?!


ツッコミどころしかないのですが?!


「んまぁぁ!!アナタがリリアンフィアちゃんね!!かんわいい!!」


アカスリの精だというそのオカマは、両手を頬に当て、内股で私に駆け寄り、私の頬っぺたにぶっちゅうう、とキスをかましてきた。


「アタシはアカスリの精霊、ヴィヴィアンよ!元、水の神。ユールノアールにアナタを追っかけに行って、温泉の魅力に取り憑かれちゃったのん。ウフフ。」


クネクネととても不気味な動きで恥ずかしそうにそんな事をのたまう。


ちょっと、あまりのことに受け止められない。


ヴィヴィアンは、大柄な筋肉質な人(精霊?)だった。


化粧がとても濃く、髭もとても濃い。


さらに、その姿は、腰にド派手なピンクのアカスリタオルを巻いているのみだ。


じゃらじゃらと幾重にも重そうな首飾りをさげ、腕にも黄金に輝く腕飾りをしているけど、布の面積は非常に少なかった。


顔は、とても美形なところがなんともいえない。


一言でいうと、「ゴリマッチョ美形ニューハーフ」といったところか?


なんにしても強烈だ。


バシーーン!!


呆気にとられる私のすぐ横を、樹木が襲いかかる。


「どっせぇい!!」


ヴィヴィアンは咄嗟に私を横に抱え、筋肉の鎧に覆われた体で庇う。


ありえない事にヴィヴィアンの筋肉に樹木が弾かれた!


「姐御!!」


またもや階下から声がする。

エレンダールさんと一緒にいた、ミカドちゃんだ!


「ミカドちゃん!!無事でよかった!」

「おうよ!姐御も無事で安心したぜ!」


ミカドちゃんとの再会を喜んでいると、ミカドちゃんのすぐ後ろから、何やらスモークのようなものが上がってきた。


なに?あのけむり!


何かの攻撃かと思い、緊張していると、

カッカッカッとゆっくりこちらに上がってくる靴音が聞こえた。


やがて見えだすその姿。


片手で顔半分を覆い、指の隙間からこちらに向けられる鋭い視線。


やけにフリルの多いブラウスに、黒いジャケット。


細身のズボンにヒールの編み上げブーツ。


原宿などで見た事があるような、ないような。


いや、ビッグ○イトなどで催されるあのイベントによくいるような。


そしてけむりかと思ったものは、ただの湯気だった。


「灼熱を支配する、地獄の使者、ジャックディード=ダークネス・オブ・ワールドエンド、ここに見参!我は熱波と燃え盛る火炎の支配者!皆、我の元に整うがいい!!」

「……今度はサウナの精霊か。」


私は即座に見当をつけた。


だってほら、頭に被ってるの、サウナハットだし。

整うって言っちゃってるし。


そしておそらくというか、確実に元石神だろう。


お岩の情報では、例の病を発症している感じだったけど、神から精霊になった時に治らなかったのだろうか?


かなりの重症患者に見える。


「姐御!紹介するぜ!コイツはジャックディード!ユールノアールからオルガスタへ向かう途中、合流したんだ!なんでも、ハイデルトに姐御を追って行ったらしいけど、喧騒を司る深淵の魔女達?に捕まって、やっと逃げてきたらしい。ハイデルトにそんな恐ろしいのもがいたなんて、初耳だぜ!」

ミカドちゃんがぶるりと震えた。


うーん、解釈が難しいけど、おしゃべり好き世話好きなドワーフのおばちゃん連中に捕まった、あたりが正解か?


サウナハットと、長く垂らされた前髪でよく見えないけど、可愛らしい顔をした少年だ。

きっと世話好きドワーフおばちゃんの格好の餌食になっただろう。


ヒュルルルル。


患者…‥じゃなかった、ジャックディードに向かってツタが伸びる。


「フッ。我を捉えようとは、片腹痛い。アルティメットウォール!!」


ジャックディードはそう叫ぶと、よくわからない印を結び、虚空から盾のようなものを出し、ツタを防いだ!


よく見たらスノコだった。


しかし見事にツタを防げているのだから大したもんだ。


「ジャックディード!!さすがだぜ!!かっこいいぜ!!」

「ミカドちゃん?!ミカドちゃんは罹患しないでね?!」


キラキラした目でジャックディードを見るミカドちゃんに一気に不安が込み上げる。


未だ形成逆転とはいかないけれど、エレンダールさんとミカドちゃんに、精霊2人も加わった事で私達の状況はかなり良くなった。


「リリにゃあん!ユージルっち、まだまだイケイケだよ!」

お岩が岩盤で攻撃を防ぎながらこちらにやってきた。


とは言え、最初は壊されていたお岩の岩盤も、ユージルの攻撃を防げている。


「少し、ユージルの力が弱まってる?」


希望が見えてきた。


しかし、私達もだいぶ疲労している事は間違いない。


私は一歩、前に出る。


「バスタオルシールド!さらに手拭いバリア!」


私達を取り囲むように、半円状にバスタオルシールドと手拭いバリアを重ねて配置。


ガン!ゴン!


ユージルからの攻撃が、バスタオルシールドに弾かれている。


どうやら少し時間稼ぎは出来そうだ。


ほ、とひと息つく。


「やはり、少しユージルが弱っているみたいです。」


私の言葉にそれまで頑張ってくれていたリーズレットさんとリグロさんが、床に座り込んで力を抜いた。


お岩が2人にお水を差し出してくれる。


「なにがどうしてあんな風になったの?」

あらためてエレンダールさんに聞かれて、私は今までの経緯を説明する。


「世界の中心としての力、ね。確かにトキコちゃんは、まだなりたての神だもの。足りていないかもしれないわ。」


エレンダールさんが眉間に皺を寄せた。


「そんなこと、ねぇぜ!姐御は、すごい!俺たち《栄光の竜達(グロリアスドラゴンズ)》に、こんなに力を与えてくれたじゃねぇか!」

ミカドちゃんが声を上げた。


「ミカドちゃん。」


「《栄光の竜達(グロリアスドラゴンズ)》?素晴らしい。誰の名付けなのだ?」


ジーンとしていると隣でジャックディードが口を挟んだ。


ちょっと黙ってて!感動してるから!


「だけど、確かにその通りなんだよ。だから、数で対処するしかないんだけど、作戦は何か立てないと。」


私がそういうと、私の前にヴィヴィアンが片足を立ててしゃがみ込む。


スッと柔らかく手をとられ、ジッと見つめられる。


私は真っ赤になってしまった。


「リリアンフィアちゃん。大丈夫。アナタは神としては、まだなりたてかもしれないけれど、けして力が足りない事はないわ。だって、アタシはユージルちゃんがこの世界に誕生したとき、間もなくからの水神よ。一番古い眷属だったの。そのアタシがこうしてリリアンフィアちゃんの眷属として生まれ変わったのよ。アナタは温泉神として、十分な力を持っているわ。」

「ヴィヴィアンさん……」


「だから、自信を持つこと。神としての自信と自覚はアタシ達眷属にも力をくれるわ。自分を信じて。アタシ達を信じて。アナタの思うままに。」

「……ヴィヴィアンさん。あの。」


とても感動的、なのだが。


片膝をついてしゃがんだ、ヴィヴィアン。


そのヴィヴィアンが着用しているのは、ピンクのアカスリタオル一枚。


すると、当然。


「み…‥見えてるの、ですが。」


おずおずと告げた私の言葉に、ヴィヴィアンの視線が自らの股間に向けられる。


「?!?!ィィヤァァァアア!!!」


雑巾を切り裂くようなオカマの悲鳴が、響き渡った。






お読みくださりありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これは酷いwww [一言] ギャルにオカマに厨二病…元旦那候補はヤンデレ中。 次は何が出るのか楽しみすぎます。
2023/01/17 02:43 退会済み
管理
[一言] 違う意味でヴィヴィアンに釘付けですわw
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