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土神の厨二病発症の話で、今ひとつ緊張感が削がれてしまった私と侑李だけど、

お父さん達やオルガスタが危険な状況なのは間違いない。


急いで向かった方がいいだろう。


そして気になるのが、オルガスタを後にしたという神達の行方だ。


「お岩、他の神様達は、どこに向かったと思う?」


私が聞けば、お岩はキョトンとした顔になる。


「そんなの、決まってるじゃん!私と同じように、リリにゃんが行きそうな他の領地だよ!」


ですよねー?!


なんとなく察していた事が現実味を帯びる。


私は申し訳なく思ってエレンダールさんに視線を向けた。


エレンダールさんはため息をついて答える。


「心配だけど、仕方ないわ。オルガスタの方が危ない状況だと思うし、何よりそっちが片付いたら、ユールノアールも安心出来る状況になると思うし。」


困ったように笑いながらそう言ってくれるが、自分の領地の事だ。

心配してないわけがない。


「エレンダールさん、領地に向かってください。ユールノアールはハイデルトみたいに、シールドを張ってるわけじゃありません。」

私の言葉にエレンダールさんの瞳が揺れた。


そう。

実はハイデルトは出発前にシールドを張ってきたのだ。


その名も『バスタオルシールド』


手拭いよりも大判で、厚さもあるバスタオルでシールドを張り巡らす事で、強固な守備が出来ている。


と、思われる。


心配なのは、ちょっと日当たりが悪くなるところだ。


ドワーフのみなさんの洗濯物は、ちゃんと乾くだろうか。


私がドワーフのみなさんの洗濯物に想いを馳せているうちに、公爵達とレイドックおじさんは今後の動きについて話し合ったようだ。


「では、早速明日にここを発つ事としよう。トキコ姫、よろしいか?」

リグロさんに聞かれてハッとする。


「ん?え?ああ、はいはい!それでいいです!」

急いで背筋を伸ばして返事をすると、エレンダールさんの眉間に皺がよった。


「トキコちゃん、アナタ聞いてたの?」


「ええ!もちろん!きちんと洗濯物も乾くといいと思います!」


「なんじゃ洗濯物とは?」

リーズレットさんの質問に苦笑いでこたえる。


しまった、思わず口から出た。


「ねーちゃんまたどうでもいい事考えてたな。」

侑李にズバリと指摘されてしまった。


「えっと、それはまあ、置いといて、私は明日の出発で大丈夫です。」

大きく頷くと、リグロさんが頷き返してくれた。


「それではオルガスタにはトキコ姫、ユウリ殿、リーズレット、そして我が向かおう。エレンダール、其方は先にユールノアールへ行き、エルフ族の安全が確認出来次第、オルガスタへと向かってほしい。ミカドを同行させよう。レイドック殿は、王都で体を休めてほしい。そしてアルベルト王太子殿下とともに、軍備を整え、後からオルガスタへと向かってくれ。」



リグロさんがその場をまとめてくれて、私たちはそれぞれに覚悟を決めた。


お父さん、どうか無事でいてほしい。

私達が着くまで、持ち堪えてほしい。


ユージルが今、どんな様子なのか、怖いけれどそんな事は言っていられない。


絶対になんとかしてみせる。


温泉神の名にかけて!







吹き荒ぶ、乾いた風。

さらには暗雲が立ち込め、昼間であるはずなのに、周囲は暗澹としていた。


公爵邸まで、美しく敷かれていた石畳は、節くれだった木の根により掘り起こされ、ガタガタにされてしまっている。


賑やかな、笑い声に包まれていたはずの街からは人々の気配が消え、まるでゴーストタウンのようだ。


よくよく見てみれば、そこここに血痕らしきものも残り、さらには血塗れの剣や、折れた矢も転がっていた。


街道に沿って並ぶ家や商店、宿屋は扉や窓が固く閉ざされ、軒先や庭を華やかに飾っていたはずの花は、その全てが枯れてしまっていた。


家の中には、人の気配を感じるが、みんな息を潜めて閉じこもっているようだ。


これが、オルガスタ?


私は公爵邸に続く街道、街の中心の噴水広場に立ち、愕然とした。


「…‥ひどい。」

隣で侑李が息を飲む。


リーズレットさんやリグロさんも、表情を固くして、周囲を伺った。


「侑李。」

私が促すと、侑李は暗い表情に少しの緊張感を見せてうなずき、その姿を巨大な狼に変化させた。


いつ、戦闘になるかわからない。


備えていた方がいいだろう。


リーズレットさんも腰の剣に手をかけ、リグロさんは竜化を解いていたが、その背中から翼を顕現させる。


2人とも、臨戦体制のようだ。


「マジ陰気くさい。やばたにえん。」

深刻そうな声ではあるが、言っていることが緊張感を損なうお岩の発言にズッコケそうになる。


いやいや、油断は禁物だ。


「手桶、召喚。」


私も召喚した手桶を握りしめた。


「トキコよ、どうする?公爵邸に向かうか?」


潜めた声でリーズレットさんに聞かれて、私は少し考えたが、やはりお父さん達が心配だ。


「おそらく、お父さん達は日帰り温泉です。そちらに向かいましょう。」


日帰り温泉のある方、オルガスタの中央街から少し離れた場所に視線を向ければ、そちらには巨大な黒い樹木が見えていた。







お読みくださりありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] よくある異世界移転でも珍しい家族ごと転移、しかも旅館+温泉!?が気になって、一気読みしてしまいました。 [気になる点] 厚手のバスタオルバリヤーで陽当たりが悪くなるのが心配……って、斗…
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