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玄関から外を見てみると、客館越しに門のあたりにいくつかの明かりが見えた。

うちの敷地は門から見てまず温泉旅館の客館がある。二階建ての和風家屋で、中庭を囲むように客室があり、一階には大浴場と露天風呂、家族風呂、それに大宴会場と小宴会場、ロビーと売店。お客様の泊まる客室は二階に12部屋。

完全予約制のちょっと高級路線を狙った旅館である。

私たちの住む母屋は客館の裏手にあり

純和風の客館と対比するように現代風の作りになっている。

お風呂だけは客館同様、天然温泉を引いているため、24時間入り放題の和風風呂だけど。

そんな訳で、ここからだと正面玄関の門はちょっと見えづらい。

だけどかなり明るい灯りらしく、少し離れた母屋からも煌々とした灯りが見てとれた。

どうやら、巨豚ではないらしい。

それになんだか、人の声らしきものが聞こえる。

「誰か来たのか?」

後ろから恐る恐るといった様子で侑李がうかがう。

「そう、なのかなぁ。お父さんが行ってるんだよね?お母さんは?」

「知らない。けど、多分、門の方。」

顔をしかめたまま、侑李が答えた。

巨豚をやっつけたお父さんはまだしも、お母さんの事は心配だ。

私と侑李は勇気を出して門の方に向かう事にした。

客館の陰からそおーっとのぞいてみると、お父さんの後ろ姿と、少しこちらに下がって立つお母さんと、それと片手を胸に当てて片膝を付きつつ号泣するという器用な技を見せている大柄な男の人が見えた。

そしてその後ろにも何人か似たような格好で跪いている男の人が見えた。

みんなお揃いの鎧だ。

号泣おじさんだけは、立派なマントをつけていた。

「よくぞ!よくぞご無事であらせられました!このグラニアス、今日ほどの喜びはありますまい!」

「わかった。わかったからもう立ってくれって!あーもう、弱ったなー」

心底困惑しているといった感じのお父さんの声。

危険は無さそうだとそろそろと近づいてみると、号泣おじさんだけでなく、その後ろからもすすり泣く声が聞こえてきた。

え。お父さん。何泣かしてんの?

近づく私たちにお母さんが気がついて走り寄ってきた。

「あんたたち、ちょっと家に戻ってなさい!今取り込み中だから!」

こそっと言われて、背中を押される。

お母さんは私たちを関わらせたくない感じだったけど、すでに遅かった。

「おお!まさか!そちらにおわすのはラドクリフ様のお子様では?!なんと!なんと!」

号泣おじさんはどうやら地獄耳だったらしい。

喜色満面の顔でこちらを見た。

お父さんは私たちを振り返って、大きくため息をついた。

「…仕方ねぇ。斗季子、侑李。」

諦めた顔で手招きをされ、私と侑李はお父さんの方におずおずと歩く。

その後ろをお母さんが心配そうに付いてきた。

「娘の斗季…リリアンフィアと、息子のユリウスだ。」

?!?!

ちょっと!!

それやめて!!

私と侑李は同時に抗議の視線をお父さんに投げつけた。

「おお!おお!このようなご立派なお子様をお2人も!でかしましたぞ!ラドクリフ様!」

号泣おじさんは大変感動した様子で私たちを交互に見る。

後ろの人たちからも「素晴らしい!」「やったな!」などと、感激した様子の声が漏れた。

私たちはというと、なんとも言えない気分である。正直、居た堪れぬ。

「リリアンフィア様、ユリウス様。私はオルガスタ領で軍部を預からせていただいておりますグラニアス=ドーゼルと申します。お目にかかれたこと、本当に喜ばしく、光栄でございます。」

まるでどこぞのおロイヤルなお皇族のような対応をされて、こちらはたじろぐばかりだ。

なんと返答するのが正解なのかさっぱりわからん。

それにしてもこの号泣おじさん、泣きやんだ顔を見てみれば、ものすごいイケオジだ。

濃い灰色の肩までの髪を後ろに流し、その瞳は髪と同じ濃灰色。お年はおそらく60代に入ったくらいに見えるけどその精悍な顔つきは身体の逞しさもあって年齢を感じさせない。

後ろに視線を向けてみれば、どの人も1人残らず綺麗な顔をしている。そしてみんなガタイがいい。

なんだこれ。

なんのオーディション会場だ?

全員合格!

「それにしてもラドクリフ様。お美しいお子様方ですな!ユリウス様はまるでウォードガイア家に伝わる天狼のようですし、リリアンフィア様に至っては伝説の黄金姫のごとし。いやいや、奥方様ももちろんお美しいですが、これは社交界が荒れますぞ!」

誉め殺し…?

号泣イケオジにそう言われてお父さんは顔を顰めた。

「いや、子供たちは王都へは連れて行かない。」

「なんと!」

お父さんの言葉に意外そうに驚くイケオジ。

「グラニアス。とりあえず今日はここまでにさせてくれ。俺たちも今日いきなりここに戻されて困惑しているし疲れている。また日を改めて公爵家の方へは顔を出す。レイドックにもそう伝えてくれ。」

お父さんがそう言うと、イケオジは再び畏まった。

「はっ。仰せのままに。」

そしてようやく、イケオジと愉快な仲間達はその場を去っていった。

馬に乗って。

それを見送ってお父さんは深いため息を吐いた。

「この距離じゃなぁ。感づかれるよな。」

ひとりごちて、ヨロヨロと疲れたように母屋へ向かう。

私たちは何も言えず、ただ顔を見合わせた。

突然の嵐のような出来事に思考が追いつかない。

ただ、私の事をリリアンフィアと紹介してくれたのは断固抗議したいと思う!

ありがとうございました。

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