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そして、待っていたリグロさんが目覚めた。
土神によって乗っ取られていた玉座の間。
その玉座の間は、隙なく磨きあげられ、元の荘厳な様子を取り戻している。
玉座にはもちろんリグロさんが座っていて、その左右にはマーヤさんとミカドちゃんが並び、少し離れたところにイグニスさんが控えている。
うん、なんていうか、これぞ王様!って感じ。
実際には国王ではなく、臣下の立場にある公爵なんだけど、知らない人が見たらリグロさんが国王だと思うだろうね。
リグロさんは私たちが前に並ぶと、スッと立ち上がる。
そして私の目の前まで歩み寄ると、その身を屈めて跪いた。
「リグロさん?!」
リグロさんの行動に思わず声をあげてしまう。
「トキコ姫、いや、周る温泉を司る温泉神よ。我のこの身をニフラに仇なす悪神より救いたもうたこと、身に余る恩恵。これよりこのリグロの身、そしてニフラの民は温泉神のもの。どうか我らの忠誠をお受けいただきたい。」
リグロさんの低く、威厳のある声で滔々とそんな事を言われて、私は絶句した。
ゴクリ喉を鳴らし、周囲を伺ってみれば、マーヤさんもミカドちゃんも、イグニスさんもリグロさんに倣うように跪いているし、周りの竜族のメイドさん達や臣下の人たちも同様だ。
いつもだったら「やめてください、リグロさん!」とすぐに止める私だが、あまりの緊張感あふれる雰囲気に動けない。
そしておそらく私が何か声をかけるのを待っているのだろう。
リグロさんの言葉のあと、誰も言葉を発さず、ぴくりとも動かない。
私は後ろを振り返った。
「え…えれんだーるさん。」
小さく助けを求めると、エレンダールさんははぁ、とため息をついて、「顔をあげよ。って言いなさい。」とカンペを出す。
「か…顔をあげてください。」
私の言葉にリグロさんがゆっくりと頭を持ち上げ、私を見て少し口角をあげてくれた。
それを見て私もようやく肩の力を抜く。
「あの、みなさんもどうかお顔をあげてください。」
私が声をかけて、それからリグロさんもイグニスさんに一つ頷いてから、ようやく玉座の間の人たち全員の姿勢が戻る。
「はぁ、緊張しました。えらい人って大変なんですねぇ。」
立ち上がったリグロさんを見上げてそう言えば、リグロさんはニッコリと笑ってくれた。
「うむ。そうだな。」
よかった!いつものリグロさんだ!
「何言ってるのよ!この場で1番えらいのはトキコちゃんよ!だいたいねぇ、もうちょっと神としての威厳を身につけないと、逆に周りが大変なのよ!」
とても1番えらい人に対する態度とは思えない感じでエレンダールさんはぶつぶつ文句を言っている。
「出た出た。エレンダールのお小言じゃ。トキコ、じいやは小言を言うのが生き甲斐じゃ。そういうものと割り切るのが肝要じゃぞ。」
リーズレットさんがニヤリと笑ってそう言い、エレンダールさんが目を釣り上げる。
「リーズレット!アナタはいつもそうやって甘いことばっか言って!そんなだからトキコちゃんが神として成長しないのよ!」
「おお、こわい。こわいじいやじゃ。」
戯けたように肩をすくめるリーズレットさん。
「エレンダールさん、リーズレットさん。ありがとうございます。」
私がお礼を言うと、2人はキョトンとして動きを止めた。
「お二人とも、私が気負わないように、気を使ってくれてるんですよね?本当にありがたいです。」
私の言葉に2人とも揃って目を見開いて、それからバツが悪そうに目を逸らす。
「ハッハッハッ。トキコ姫は変わらぬ。神となって、どんなにかその身に責を背負っているかと思っていたが、そのままで安心した。」
リグロさんが笑い、隣でマーヤさんもウフフと微笑む。
「オヤジ!姐御はそんな事で揺らぐようなことはねぇんだ!すげぇんだぜ!!」
ミカドちゃんも胸を張った。
「うむ。ミカドも世話になったようだ。トキコ姫、愚息が面倒をかけた。」
ジロリとリグロさんはミカドちゃんに厳しい目を向けて、ミカドちゃんがヒュ、と息を飲む。
「リグロさん!ミカドちゃんへのお説教は勘弁してあげてくださいね?すでにマーヤさんからお尻ペンペンされてますから!」
「そうか?」
「はい!」
少し不服そうなリグロさんに、ミカドちゃんは私の背後に隠れてしまった。
「トキコ姫がそう言うならば我からの仕置きは控えるとするか。」
リグロさんにそう言われてミカドちゃんは安堵の息をついた。
よかった。
ミカドちゃんのお尻がまた赤くなってしまうところだったよ!
「お父様からも叱ってもらえば良いのです!本当にトキコ姫はミカドに甘いですわ。」
マーヤさんにもそんなことを言われてミカドちゃんは私の服の裾を掴んだ。
「マーヤさんも、私に免じてもらえると嬉しいです。ミカドちゃんは私の為に、本当に頑張ってくれましたし。」
「姐御……!」
私とミカドちゃんが寄り添ってとりなして、ようやくマーヤさんも気を鎮めてくれた。
「その話はそのくらいにして、今後の事を話しましょう。リグロ、まずは今のニフラについて知りたいわ。状況は聞いてると思うけど、とりあえずリグロにはトキコちゃんの鑑定を受けてもらいたいんだけど、どうかしら?」
エレンダールさんが改めて話を本筋にする。
「かまわぬ。というより、当然の事と思う。ニフラは温泉神の地となったとマーヤからも聞いたのでな。我の称号についても気になっていたのだ。」
リグロさんが大きく頷き、私はエレンダールさんと視線を合わせた。
エレンダールさんは促すように小さく首肯して、私はリグロさんの側に立つ。
リグロさんにスマホをかざし、鑑定をしてみると。
リグロ=マクドウェル
HP 850
MP 800
称号
竜帝
風の王
エンシェントドラゴンの父
温泉神の保護者(パパ役)
みんなでスマホを覗き込んで、しばし、シン、と鎮まりかえる。
「……や…やっぱり、温泉神の加護はついた、みたい、ね?」
エレンダールさんが微妙そうに言えば。
「そ…そうじゃの。どっちが加護をつけてるのかわからぬようじゃが……」
リーズレットさんも薄ら笑いを浮かべ。
「我……パパ……?」
リグロさんが呆然となり。
ええ、そうですとも。
確かに常々、リグロさんのことは「お父さんみたい!」と思って、懐いていましたとも。
だけどね。
「……称号に、パパって、これってありなの?」
私の呟きに、その場の全員か目を逸らした。
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