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「あれ?マーヤさん?」


ちゃぽん、と湯船に入れば、湯けむりの向こうにマーヤさんの姿があった。


マーヤさんも私に気がつくと、柔らかく微笑んで会釈をしてくれる。


「トキコ姫、先程は失礼いたしました。」


岩盤浴の精から逃亡した時のことを言っているのだろう。


私はブンブンと首をふる。


「いいえいいえ!気分が悪くなっても仕方ないです!特にマーヤさんはお疲れでしょうし!」


私がそう言うと、マーヤさんは再び柔らかく微笑んだ。


私もニコッと笑ってみる。


「マーヤさん、少しお休みになれましたか?」

私が聞くと、マーヤさんはゆっくりとうなずいた。


「ええ。おかげで久しぶりに安心して休む事が出来ました。リグロも間もなく皆様にご挨拶が出来るでしょう。」


マーヤさんはほぅ、とうっとりとした息を漏らした。


「本当に、いつ来てもこの温泉は気持ちのいいこと。リグロも連れて来れば良かったですわ。そうしたら、きっとすぐに体調も元に戻ります。」


温泉を褒めてもらえて嬉しくなる。


たしかにオルガスタの日帰り温泉も、効能が色々、そりゃあもう、温泉とは思えないほど色々あったし、リグロさんも癒されてくれるかもしれない。


土神の支配からも脱したし、竜族の皆さんも、また笑顔で温泉を楽しんでくれたら嬉しいな。


やっぱり平和が一番。


「またみんなで温泉を楽しめますね。私もリグロさんやマーヤさん、竜族の皆さんがこれからも幸せに温泉を楽しんでくれることを願っています。」


マーヤさんに笑顔でそう告げた時。


パァァァァ……


浸かっている湯船のお湯が、優しく輝きだす。


立ち上る湯気までもキラキラと金色に光、眩しさに目を閉じる。


「……!!トキコ姫……!!」

「マーヤさん……!!」


私はマーヤさんに手を伸ばし、その手を握ってそばに寄る。


ふわんと柔らかいマーヤさんのお胸が私の手に当たった!!


なんという柔らかさ!!

すごい!!

夢のような触り心地!!


じゃなくて!!


マーヤさんのお胸の感触にうっとりしている間に、温泉の輝きは落ち着いた。


「トキコ姫……。今のは、いったい……。」


マーヤさんは呆然とお湯を眺めている。

私もお湯をひとすくいして、まじまじと眺めてみた。


これは…‥もしかして。


ダッダッダッダッ!


ガラガラ、ピシャーン!!


激しい足音が近づいてきて、けたたましく開けられた、浴室の扉。


「トキコちゃん?!なにがあったの?!」


ものすごい形相で、浴室に乱入してきたオカマ。


「なに女湯に入ってきてるんですか?!エレンダールさん?!手桶ショットォォォォ!!」


ガコーン!!


私が咄嗟に投げつけた手桶を額に受け、エレンダールさんはひっくり返った。







「………そりゃ、私が悪かったわよ。いきなり入ったりして。まさかマーヤちゃんもいるとは思わなかったんですもの。」


オデコに手拭いに包まれた氷嚢を当てながら、エレンダールさんはぶーたれた顔で謝った。


「『悪かったわよ』じゃないですよ!女湯に突入するなんて!!エレンダールさんのスケベ!!」


《竜渓の湯》、お休み処でエレンダールさんにお説教中の私。


エレンダールさんはいちおう反省はしている様子だけど、玉の肌を見られた私としては黙ってもいられない。


オカマとはいえ、男の人なのだ!


「いきなりすごい光が見えたから、心配したのよ。何かあったのかと思って。大丈夫よ、トキコちゃんの貧相な体を見たって、なんとも思わないわよ。」

「なんだとぉう!!」


前言撤回!!

まったく反省してない!!


「トキコよ、落ち着くのじゃ。エレンダール、今回はそなたが悪いぞ!きちんと謝罪せぬか!」


リーズレットさんに厳しい目を向けられて、エレンダールさんは氷嚢を置いて立ち上がる。


「トキコちゃん、ごめんなさい。私が悪かったわ。」


ぺこりと頭を下げて、謝るエレンダールさん。


「トキコも、その辺で気を納めよ。エレンダールもそなたを心配してのことじゃ。」

リーズレットさんにもそう言われて、私も渋々頷いた。


「……それで?なにがあったの?」

エレンダールさんに改めて聞かれて、私は温泉に起きた変化について説明した。


「それって、もしかして……」


「はい。おそらく温泉神の加護がついたのではないかと思います。鑑定とかはしていないのですが。」


そう答えると、エレンダールさんはホッとしたような顔になる。


「当初の目的が果たせたというわけじやな!リグロの石化も解け、土神もトキコの眷属となったようじゃ。重畳じゃの!」


嬉しそうなリーズレットさんに遠い目になる。


うん。

重畳なんだけど、岩盤浴の精の件ははたして本当に重畳なんだろうか。


「ねーちゃん。大丈夫か?さっき、エレンダールさんが女湯に走って行ったけど……」

侑李とラウムさんもお休み処にやってきた。


「侑李ぃ!オカマに玉の肌、見られたぁ!」

「その話を蒸し返すでない!!」


リーズレットさんに叱られて私はグッと押し黙る。


侑李もまずいことを言ってしまったという顔になって、頬をかいた。


「あー、それで?なにがあったんだ?」

話を戻すように聞かれて、私は侑李に温泉で起きた事を話した。


「無事にここの温泉にも温泉神の加護が付与されたわ。これで、ユールノアール、ハイデルト、ニフラはトキコちゃんの守りがある土地になったということね。」


エレンダールさんに言われて、みんなで顔を見合わせてうなずく。


「おそらく、ユグドラシルの力も削がれてきていよう。相手はこの世界の根幹たるものじゃ。対峙するならば出来るだけ力を削いでおいた方が良かろう。」


リーズレットさんの言葉に私は決意を新たにする。


岩盤浴の精が言うように、ユージルに変化が起きているならば、正直なにをされるかわからない。


「次は、オルガスタだな。ねーちゃん。」


侑李も重々しい口調で言う。


お父さん、お母さん、それにレイドックおじさん達は、無事だろうか。


信じて考えないようにしていたけど、不安に襲われる。


私が視線を下げた為だろう、侑李はポンと私の肩に手を乗せた。


「きっと、大丈夫だ。《銀狼将軍》なんてご大層な称号持ってるんだぜ?父さんは、みんなを守って、無事でいる。」


自分だって心配だろうに、私を安心させてくれる。


私は侑李に笑顔を向けて頷いた。







お読みくださりありがとうございます。

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