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なぜだろう。
私は今、正座をさせられ、エレンダールさんのお説教を聞いている。
「…‥だって、あんな露出過多の格好で、周りに若い人侍らせて、あんなの18禁じゃないですか。」
「だからって、なんなのよ?!目の毒って!!問題点はそこじゃないでしょう?!だいたいアナタ、神なのよ?!もう少し神という自覚をもちなさいよ!見てみなさい!竜族の皆さんを!ドン引きよ!ドン引き!」
エレンダールさんは玉座の前でバスタオルに包まれて転がっている土神と、それを遠巻きに見ながらオロオロする竜族の皆さんを指差した。
「……侑李の、教育に良くないと思って。」
私がボソボソと答えれば、隣で伏せをしている侑李も「キュウーン」と鳴く。
「エレンダールよ、そのくらいにせぬか。トキコのおかげで土神を大人しくさせることが出来たのは事実じゃ。お手柄と言えよう?」
「リーズレットさん……!」
困ったように笑いながらエレンダールさんをなだめてくれるリーズレットさんを期待の目で見つめる。
「そうやってリーズレットがいつも甘やかすからこの子はいつまでも成長しないのよ!」
エレンダールさんは怒りの矛先をリーズレットさんに向ける。
「口うるさいのぅ。だから《じいや》なんて称号がつくのじゃ。」
「なぁんですってぇぇ!!」
仲良く言い争いを始めた2人をいいことに、私はそっとその場から立ち上がり、玉座の方に向かう。
「どうですか?ラウムさん。」
石化してしまったリグロさんを見ているラウムさんに問いかけてみれば、ラウムさんは肩を落として首を振る。
「…‥ダメだ。皆目見当もつかねぇ。」
やっぱりか。
私もガッカリしてため息を吐く。
ちなみにラウムさんは手拭いを鉢巻にしていて、とても良く似合っている。
「いい加減、解いてくださいよ。これ。」
私は今度は床で転がる土神の元へと向かい、声をかけてみる。
「そう簡単に解くわけがないでしょう?それより、これを外しなさい!こんな事をして、ただじゃすまないわよ!」
土神はギロ、と私を睨む。
不思議な事に、私の巻いたバスタオルは土神には外すことが出来ないらしい。
同じ神、しかも私は見習いだというのに、私の方が土神よりも力が上ということだろうか。
「解いてくれないなら、私がなんとか考えてみます。もう少しそこでお休みください。」
「あっ!ちょっと!待ちなさいよ!」
土神はキーキーと憎まれ口を叩いていたけど、気にしない事にする。
私は再びリグロさんの元へと向かう。
ラウムさんの隣で、一緒に腕を組んで考える。
「石化って、今までに聞いた事あります?」
リグロさんを眺めながら話しかければ、ラウムさんは難しい顔になった。
「いや、ねぇな。以前、ハイデルトで坊主がやっつけてくれたゴーレムなんかでロックゴーレムってのは聞いたことはあるが、そいつは元々が岩だ。人間や動物が石になるってのは、俺は知らねぇ。」
「そうですか。」
困ったな。
どうしよう。
これが氷だったらお湯でもかけてみるんだけどな。
そこまで考えて、私はハッとする。
ちょっと待って。
イケるかもしれない!
「……いでよ、ドラム缶風呂!」
私は玉座の傍らに手を伸ばし、力を込める。するとそこには、湯気を立ち上らせるドラム缶風呂が現れた。
「嬢ちゃん?!なんだこりゃ?!」
ラウムさんが目を丸くする。
「これはドラム缶風呂といいます。この、金属の筒状のものがドラム缶。元々は液体を運ぶための物なのですが、それにお湯を張ってお風呂の代わりに使うのがドラム缶風呂です。」
ラウムさんに説明をしてから、私はマーヤさんとイグニスさんにリグロさんにお湯をかけてもいいか、確認する。
「大切な玉座の間が水浸しになってしまいますが……」
そう言う私に、マーヤさんは首を振って「出来る事はなんでもやって欲しい」と許可を出してくれた。
それを聞いて、私は改めてリグロさんのところへ向かう。
リグロさん。
私の為に、ありがとうございます。
「手桶、召喚。」
手の中に現れる、木の手桶。
握りの部分が実に手に馴染む、素晴らしい手桶だ。
私はリグロさんへの感謝を込めて、お湯をかける。
ドラム缶風呂に張られているお湯は、もちろん私の温泉だ。
どうか。元に戻ってください。
背の高いリグロさんの頭からお湯をかける為に、イグニスさんが私を持ち上げてくれた。
マーヤさんが、私の手渡した手桶にドラム缶風呂からお湯を汲んでくれる。
2人とも、祈るような顔で私を手伝ってくれる。
いつの間にか、私たちの周りにはエレンダールさんやリーズレットさん、侑李にミカドちゃん、竜族の皆さんも集まり、みんなでリグロさんを見守っている。
リグロさん、みんな、待ってますよ。
何回か、お湯をかけ続けていると、リグロさんの体がほんのりと光だす。
「!!……リグロさん?!」
私はその様子に、さらにお湯をかけ続けた。
解けてきている……!!
「リグロ、リグロ!!あぁ、お願い!!」
マーヤさんはボロボロと泣きながら、懸命に私に手桶を渡す。
「ん……むぅ……」
「リグロ!!」
「オヤジ!!」
やがてリグロさんから小さく唸り声が漏れ、マーヤさんとミカドちゃんが駆け寄った。
ドサ……!
リグロさんの体がくずおれる。
「う……我は……マーヤ?」
リグロさんは頭を抑えながら、呻きながらもマーヤさんにその視線を合わせた。
解けた……!!
石化が解けたよ!!
「ああリグロ!!」
マーヤさんはリグロさんを抱きしめ、その胸で泣きじゃくった。
「ここは……玉座の間……?確か、我は……」
「よいのです、よいのですリグロ!今は、体を休めなくては!」
必死に考えようとするリグロさんをマーヤさんが止めて、イグニスさんがその体を支える。
リグロさんは両脇を支えられながら、玉座の間を後にした。
「トキコ姫、本当になんとお礼を申しあげればよいか……ありがとうございます!」
マーヤさんは私を気にしてくれて、深く頭を下げる。
「良かったね、マーヤさん。ほら、今はリグロさんに付いてないと!」
「はい!」
マーヤさんは嬉しそうにリグロさんと部屋を出る。
「ほら!ミカドちゃんも!」
リグロさんを気にしながら、それでも私のそばにいたミカドちゃんの背中に手を当てる。
「……!!姐御、すまねぇ。本当に感謝するぜ!」
ミカドちゃんも頭を下げて、足早にマーヤさんを追いかけた。
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