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コォォォォ……
あたりの空気を収束させるように光がミカドちゃんの広げられた顎に集まる。
大きく翼を広げて、引いていた首を思い切り前に突き出すと同時に、その口からあり得ない光量が吐き出された。
ドガァァァァ!!
その光の洪水は、一点に集まり凶悪な熱量を持ってそれを破壊しようとした。
シュウゥゥゥ……
太陽もかくやという光は、やがて徐々に落ち着いていく。
地獄のような光景が広がると思われた、攻撃を受けた個所は。
「………何とも、ない、だと?」
目の前に傷ひとつなく、ほころびひとつなく、まるでひだまりに干された洗濯物のように広がる、手拭いたち。
私は愕然と呟き、侑李は頭を抱えてくずおれた。
「きゃぁぁぁ!!すごいわ!!トキコちゃん!!」
エレンダールさんがオカマらしく頬の横で両手を組んでシナを作る。
「素晴らしいではないか!!よもやここまでのものとは!!」
リーズレットさんが満面の笑みで私の背中をバシバシ叩く。
「嬢ちゃん!なんなんだ!これは?!ちょっと、触ってみてもいいか?!」
ラウムさんが手拭いバリアの前でウズウズとしている。
「もしかしたら、危険かもしれないのでお待ちください。」
未知の素材を前にヨダレを垂らしそうなラウムさんをおさえて、私は手拭いを一枚、手に取ってみた。
ふわりと手の上に広がる手拭い。
両端に赤と黒の水玉模様のついた、真ん中に温泉マークの書かれたそれは、ただの手触りの良い木綿の手拭いのようだった。
試しに畳んでみたり、握ってみたが、やっぱりただの手拭いにしか思えない。
「ねーちゃん、鑑定してみたら?」
隣で私の様子を見ていた侑李に声をかけられて、そうか、と思い至る。
温泉神(見習い)の手拭い
温泉神(見習い)によって生み出された手拭い。水の含みも良く、手触りも良い使いやすい一品。入浴時だけでなく日常のあらゆる場面で便利に使える。
洗濯可。
バリア機能あり。
ぎゅうううう。
思わず手拭いを握りしめる。
危うく地面に叩きつけるところだった。
なんだ?洗濯可って!!
そりゃ可でしょうよ?!
木綿の手拭いなんだから!!
知りたかったのはそのことじゃないんだよ!!
バリア機能あり
これ!!これよ!!
なんで一言でペロっと済ませてるんだ?!
私は大きくため息をついて脱力した。
考えても仕方ない。
とにかく、竜族のブレスにも耐えるだけの強度がある事は間違いないのだ。
これでこちらの防衛についてはかなり心強い事になったといえよう。
ちょっと恥ずかしいけどね!
「ラウムさーん、いいですよー。」
ただの手拭いということがわかり、ラウムさんに声をかけると、私がいい終わる前に手を伸ばす。
「……手触りは良いが……普通の布に見えるな?」
ラウムさんは手拭いを撫でてみたり、カリカリと爪でかいてみたりと、熱心に観察している。
ええ、普通の布です。
それがなんでか、超優秀なバリア機能が付いちゃってるけど。
「ただの手拭いなのになんでだろう。」
ボソッと呟けば、いつのまにか人型に戻ったミカドちゃんが顔をのぞかせた。
「すげぇぜ!!姐御!!さすが、温泉神の加護があるバリアだぜ!!」
興奮気味に言われて、はたと考える。
温泉神の加護?
そう言われてみると、たしかにそうなのかもしれない。
っていうか、温泉神である私が作ったものだ。
加護があるのは当然とも言える。
「嬢ちゃん、この布は、嬢ちゃんの世界でもこんな頑丈な守備能力があったのか?さすがは嬢ちゃんの世界、軍事力も並じゃねぇな。」
ラウムさんは感心したようにうなずいている。
「いえいえ!まさか!私の世界でもただの布ですよ!汗を拭いたり、お風呂で使ったり!あ、そうだ!湯船につかるときに水で絞って頭に乗せるとのぼせ防止になった……り……。」
そこまで説明して、ハッとする。
お風呂で、使う?
もしかして、それが原因?
私はみんなから距離をとり、再び両手に力を集める。
今度は最初から明確にあるものをイメージする。
そして。
「………風呂桶ストライク!!」
そう、叫んだ瞬間。
ズガガガガガガ!!
空から降り注ぐ、無数の風呂桶。
それらは砂漠地帯を容赦なく撃ち、あたりは濛々とした砂煙に包まれた。
「?!ちょ……!!トキコちゃん?!」
エレンダールさんの甲高い叫び声が聞こえる。
しかし、私たちは立ち上る砂煙から身を守るのに精一杯だった。
どのくらい、そうしていただろう。
ようやく砂煙が落ち着いて、恐る恐る顔を上げてみれば。
「なんじゃこりゃあああ!!!」
侑李が絶叫する。
頭を抱えて顔を青くする侑李に、視線の先を追えば、そこにはまさしく地獄絵図が広がっていた。
いくつものクレーター。
その何箇所かには、地下の水脈を掘り当ててしまったのだろう、徐々に水が湧き上がっている。
砂漠で水が沸くなんて、どれだけの深さかは想像もしたくない。
そう。
これはメテオストライクだ。
まさしく隕石が落下したかのような状態。
そのクレーター群から、少し離れたところに転がる、一つの風呂桶。
木の板を組み合わせて作られた、とてもなめらかな触り心地の風呂桶だ。
うむ。良い品だ。
うちの日帰り温泉の備品として欲しい。
しかしこれで少しわかってきたぞ。
おそらく、私は温泉神として、ある程度戦闘力がある。
そしてそれはお風呂に関連したものをイメージすると、とても強力なものになるのだろう。
これなら、防衛の面でも、攻撃の面でも、みんなをサポート出来るかもしれない。
もちろん戦いなんて、しないで済むならその方がいいに決まってる。
だけど、戦力は交渉力にもなる。
「トキコちゃん……?」
声をかけられて振り返れば、エレンダールさん達が神妙な顔つきでこちらを見ている。
「……行きましょう!ニフラへ!」
私がそう宣言すると、一斉に鬨の声が上がった。
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