第二話
「なんだって?」
源三は予想外の頼みごとに思わず聞き返した。
久しく見ていなかった喜介が彼の家に顔を見せた理由が、ただの世間話でないことは源三にも察しがついていた。しかし老齢にさしかかる男やもめである源三に向かって子供を引き取るつもりはないかという問いかけをされようとは、彼は全くの意想外だったのである。
喜介は手に持った茶を置いてやや真剣な面持ちになった。
「じつはな、俺の古い知り合いの夫婦なんだが、養子の貰い手を探しているんだ。何か事情があるんだろう。愛知の人間なんだが、わざわざ俺に頼んできた。さて俺も困った。こんなことを気軽に人に頼むわけにはいかない。そうかといって家じゃあ女房が嫌がって引き取れそうにもない。そんなときに、お前さんの顔が浮かんだんだ」
源三は黙って喜介の顔を見つめていた。
「お前さん、ナオさんと正太を亡くしてからもう何年になる」
源三は黙ったままだ。重苦しい空気が二人の間に流れた。
「新しい嫁さんをもらわなかったのは、あの時お前さんがどれだけ傷ついたかがよく分かるから何も言わん。正太もかわいい盛りだった。子供を引き取ることになれば正太を思い出して辛いかもしれん。だが、もう二十年も昔の話だ。俺はお前に育ててもらいたいんだ。お前のためにもなるだろうし、きっとあの子のためにもなる。なあ、引き受けてくれないか」
しばらく沈黙が続いた。源三は何も言わない。
だが、やがて源三はすっかり冷めてしまった茶に口をつけながら、こう呟いた。
「……何歳なんだ、その子は」