ランチ
あ! と私は声を上げた。お弁当持ってくるの忘れてた。買ってきますね。そう告げて、オフィスの部屋を出た。私は階段を降りて行ったが、三十階くらい降りなければならないことに気づいて、いっそ飛び降りようかと思ったけれど、それだと死んでしまうのではないか。エレベータで降りることにした。
一階まで降りると、工場の人が声をかけてくれた。いつもお届けありがとうね。そう言って、フランスパンの欠けたのをたくさん透明のビニール袋に入れてくれた。生パスタにオリーブオイルをかけて、粉をかけたのも二つくれた。粉は適当にはたいた感じだったので、斑になっていた。
外に出るとパン屋さんがあった。昔好きだったアイドル歌手が引退してやっている店だった。私は、持っていた生パスタを、パン屋の棚ににゅるっと置いた。お店の人が嬉しそうに、きょうは麺パやろうと言っていた。もう一個あるよ。と言ってそれも渡した。
通りを行くと、鰻を店先で焼いて売っていた。横に、板を渡したテーブルや椅子があって、何人か食べていた。私も買おうかと思ったけれど、焼きながら、納得いったら出すからね、まだ焼けてないからね、とか叫んでて、まだできそうにないので、ちょっと待とうかと思ったけれどやめて、歩いて行った。喫茶店や中華料理屋などが並んでいたけれど、この時間は一品料理は難しそうだと思って敬遠した。
ずっと歩いていくと、夢の中で良く行く古い市場に到着した。店先に移転予定、著作権の関係でと書いてある店があった。鉄道グッズの店だった。五月蠅くないところに移動するというのか。
そこへ、やあと馴れ馴れしく声をかけてくるものがあった。学生時代の知り合いだろうか。そして、その横に、貧相なやせた初老の人物がいて、この人に何か食べるものをやってくれないかと言うのであった。私は、ビニール袋から、フランスパンの拳大の塊を出して渡した。ありがとうございますと言って、立ち去ろうとするのを、声をかけてきた者が、その人に、まだこれからだよと言って引き留めたので、それから三人で歩いた。
市場の中は殆どベニヤ板で封鎖されていた。やっている店はごくわずかで、魚屋とかだったので、どうも具合が悪かった。焼き鳥でも売っていればいいのにと思ったがやっていなかった。古本屋ならちょっと冷かしてもいいと思いながら、夢の中の店でも、こうやって廃れていくんだな、とそれは口には出さずに、月一くらいで来てたのにと声に出しては言った。
しょうがないので市場を出て、一本奥のやや細い道を行くと、道路わきに黄色いキッチンカーのまだ使われていないのが何台か並んでいた。こういうのも増えてきたしね。古い市場ではない、普通の商店街のとっかかりに惣菜屋があった。私の持っているビニール袋に目を止めて、コロッケは意外とガーリックトーストに合いますよと笑顔で言ってきた。
私は、腹をすかせた人に、どれがいいと聞いた。少し迷って、ハムカツがいいというので、それと、コロッケとメンチカツを買った。一つずつ袋に入れてくださいね。歩きながら食べるから。私は、ハムカツと、コロッケは半分に割って袋の方を渡して、自分はまずその割ったコロッケを食べて、そのあとメンチカツを食べることにした。時計を見ると、午後一時を過ぎたところだった。うわ、これだと昼飯に何時間かけてるんだって、怒られるなあ。




