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幻想  作者: 場合 照美
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幻想

 彼は私を説得しに来たのだが、その話の初めの方で、何かについて話を端折ろうとしたので、そんな省略をしないですべて話したらどうだと言ったのだが、いやこれは本題に直接関係のない話だからと言って頑固に話そうとしない。直接関係ないと言っても、私が聞きたいのだから話したらどうだというと、物事が何かを規定するのは一方向であって、逆方向には働かないなどということを言うので、私はたとえ話を始めた。

 じゃあ、幻想を規定するのは現実ですか。

 そうだ。

 幻想が現実を規定することはない、と。

 そうだ。

 じゃあ、私が経験したこんな話をしましょう。

 私は夢の中で、ある少女と出会い、睦ましくなり、一夜を共にしました。そのまま永遠に暮らしたいと思ったのですが、夢の中でのこととて、目が覚めてしまったらそれっきりでした。

 そしてそれから数日経ったとき、私は山奥に、ある寺を訪ねていきました。私は時折その寺に行くのでした。寺には住職がいて、私はその年老いた僧侶とよく話をするのでした。すると、奥から僧服をまとっていない少女が現れました。そう、その少女こそが、数日前、私が夢の中で出会った少女だったのです。

 どうですか。これこそ、幻想が現実を規定する例になりませんか。

 彼は、イエスともノーとも言わない苦々しい表情を作って、答えようとしませんでした。そして彼の傍らにいた老人が、代わりに話をし始めたのです。

 あなたはその寺によく行くと言った。寺では初めてその少女と会ったとも言わなかった。つまり、以前に見かけたことがあったのではないか。それが意識のどこかに引っかかっていて、夢に見たのではないか。あるいは、寺で会ったとき、少女はまだ子供だった。それが何年も経って、成長した姿を思い描くようにして夢に見た。そのあと、実際に成長した彼女に会ったから夢が具現化したように思った。となれば、やはり幻想を規定するのは現実の方だということになるのではありませんか。

 それから何か本を取り出して、寺の構造や宗派による客のもてなし方などを説明して、これはあなたの話と一致するとかなんとか言い始めた。

 いやそんなことはいいのです。それを私は知っているかもしれないし、知らなかったかもしれない。それらが夢を形作る基になっているのかも知れない。しかし、それすら逆かもしれないのです。どちらがどちらを規定するのであってもいいというのが、もともと私の主張でしたよね。

 いいですか。私がその寺にたびたび行ったというのも、私の夢の中の話かもしれないのですよ。それならどういうことになりますか。私の話で、あなた方は、私が現実に彼らに会ったということだと思った。これは幻想が現実を規定する例になりませんか。

 それから、あなた。と、私は説明をしていた老人に話しかけた。あなたは誰ですか。いいえ、私は知っていますから、答えなくてもいいんです。あなたは私がお話しした寺の住職です。つまり、私の夢か現実かわからない寺の話が、あなたを作り出したのです。どうですか。それとも、これもあれも、最初から全部夢の中での出来事だというのでしょうか。

 それから彼に向き直って、そもそも彼が私を説得しに来た理由について思い出してもらった。

 私はもう何年もの間、彼の家に住んでいたのだ。彼には両親や、祖父母がいて、兄弟も何人かいた。私もその兄弟のような扱いを受けていたのだ。しかし、あるとき来客があった。その来客中、私は家族に話しかけても無視をされた。そんな扱いを受けたのは屈辱だった。あるいはこれは文化の違いかもしれない。しかし私は抗議した。私の国ならば、来客中で私の対応ができないならば、今お客さんだから後にして、とか言って叱るのだ、と言った。しかしそうしないでただ無視をするのがこの家の流儀ならば、私はもうここにはいられない。そう言って、奥の部屋に行ってコートを取り、それから、そこに置いてあった怪獣のフィギュアについてはあとで取りに来るからと言った。本棚の本についても、あとで取りに来るからと言った。そうして出ていこうとする直前に、祖母が優しく私に語り掛けた。今度からあなたの言うようにするわ。なんでもあなたがしたいことをしてあげる。だから出ていかないで。だったら、と私は言った。彼に私を説得させてください。私がここにいてもいいように。

 そう。結局彼は私を説得できなかったのだ。

 そして、私が彼の家に何年も住んでいたというのも全部、私の夢の中の話に過ぎないのかも知れなかった。

 怪獣のフィギュアや見覚えのあるいくつかの本は、いずれも私の夢の中に出て来る失われたものの象徴だったから。

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