緑の章
※本作は、診断メーカー「あなたに書いて欲しい物語」(https://shindanmaker.com/801664)の結果をお借りしました。
※御法 度作品のほとんどでそうであるように残酷な表現を含みます。苦手な方はご注意ください
「探し物はここにあるのに」
↓
「緑が目に眩しかった」
「『探し物はここにあるのに』」
スマホをポケットにしまいながら、俺は、ガラスケースの前でたたずむ緑に声をかけた。驚くかと思ったが、振り返った彼女は日常のほとんどでそうであるように無表情だった。
「なに?」
運動部らしい短い髪が傾ぎ、薄い唇が微かに開かれる。健康的に焼けた肌の中に、ぱっちりとした目が二つ。活動的な外観と裏腹に、その瞳はどこか翳りを宿していた。あるいはなにもないのかもしれなかった。
それはまるで、人形のような。その時俺は、彼女が背後のケースに納まっている想像をした。しかし残念なことに、彼女が背にしているのはそんな夢のある代物ではなかった。
「緑、お前が今考えていたことだ。『探し物はここにあるのに、どうすることもできない』とね」
「どういうこと」
「落とし物の陳列ケースの前で30分は立ち止まっている。だが途中から目線は動いていない。すでに目当ての物は見つけているんだ」
ここは校舎の片隅。外の蒸し暑い大気が嘘のように涼しい空間だ。人が居ないこともそう感じる要因だろう。生徒から忘れ去られたようなこの場所に、大型の遺失物置き場がある。先ほどの馬鹿げた妄想ではないが、小柄な緑なら実際に入れそうな大きさだ。
数段に分けて様々な落とし物が置いてある。古びた水筒。変色した充電コード。さび色の鍵。写真入れ。などなど。
「前半は正解。じゃあ、どうして私はなにもしないの?」
風が強く吹き、窓の外に見える木々を揺らした。
「自分の物だとバレたくないからだ。だから職員室に行こうともしない」
「正解。じゃあ、その落とし物ってなに?」
「分からない。そんな危険物があるようには見えないしな」
肩をすくめてみせると、緑は表情を変えた。笑ったのだ。そしてイタズラっぽく唇を尖らせた。
「知っているくせに……ん」
指で示した先には、ただの、お守り。「恋愛成就」。これは、参ったね。
「恥ずかしかったのか?」
「違う。他人に知られたら叶わない」
「なら」
「もういいの。今から言う」
彼女の次の言葉のあと、俺は胸を貫かれたような衝撃を感じた。木漏れ日が差し込み、ガラスケースに反射した。
緑が目に眩しかった。