一章 7 『俺の生きる道』
「おかしいな・・・なにかやり方がいけなかったのか?」
それから進藤は何度も金塊を作り出そうと試行錯誤した。なんかそれっぽい呪文とか唱えだしたりして・・・しかしそれでも進藤の目の前に金塊が現れることはなかった。
「・・・はぁー!だめだ!全然金塊出てこねー!」
金塊を作るのを諦めベッドに大の字に倒れこむ進藤。その瞬間目の前が真っ暗になった。
「うわっ!なんだ!?」
慌てて起き上がる進藤。どうやら雨漏りが原因で蝋燭の火が消えてしまったらしい。
完全な暗闇に包まれる進藤。外の嵐の音だけが聞こえる。次の瞬間、進藤の首筋にヒヤッとした感覚がした。雨漏りの雫が首に落ちて来たらしい。
「うぉ!?冷たっ!!あれ?もしかしてこの嵐で屋根のどっか壊れちゃったか?」
上を見上げる進藤。しかし真っ暗で何も見えない。
「本当に真っ暗だな・・・こんな時ライトがあればなぁ」
進藤は頭の中で頭に着けるタイプのヘッドライトを思い浮かべた。
次の瞬間、右手に何か感覚が生まれた。身に覚えのある感覚だ。その感覚に気づいた瞬間進藤はまさか・・・と思った。
見ると案の定、思い描いた通りのヘッドライトがある。明かりを点けてみるとかなり明るい。親切にLED仕様だ。
「おいおい・・・マジかよ」
眩しいほどの光を放つヘッドライドに照らされ進藤は驚きを隠せなかった。
このヘッドライトは間違いなく今、進藤が生み出したものだ。間違いない。
金塊は失敗したがこれは成功した。
ヘッドライトを頭に装着して天井を照らす。今度ははっきりと見えた。どうやら天井を覆っていた木材の一部が風で飛ばされたようだった。小さな穴が見える。
「おぉー、本当良く見えるな。さっきまで暗闇の中にいたから余計眩しいくらいだ。しかしこのままだとこの部屋の中がびしょびしょになってしまう・・・こういう時は」
今度は進藤は脳内でベニヤ板を想像した。天井の穴を補修するのにちょうどいい大きさのサイズを。
手には木の肌触り。うん、これも間違いない。進藤が想像したベニヤ板がしっかり作り出されていた。
ここには電動ドライバーとネジがある。そしてベニヤ板・・・あと足りないものは高さだ。このままでは天井に手が届かない。
こんな時に必要なものは脚立だ。再び進藤は頭の中で想像する。
カタっ・・・・
進藤の目の前にアルミ製の脚立が現れた。これまた想像したとおりの脚立である。
もはやここまで来れば確信に変わる。疑いようがない状況だ。
「どうやら俺には物を作り出す能力があるらしい・・・でも万能ではないみたいだけどな。作り出す物に条件みたいなものがあるらしいな」
まだこの不思議な力の全容はわからないが大まかな部分での把握は出来た。
翌日、外は昨日の嵐が嘘のような快晴だった。
「進藤お兄ちゃんどうしたの?寝不足?」
目の下にクマを作っている進藤にアイリスが心配そうに声をかけてきた。
「う、うん。ちょっと雨の音がうるさくてね。あまり寝付けなかったんだ」
「そうなんだ。昨日の嵐は凄かったもんね!今日は後片付けが大変だよ・・・」
「そうだな!今日も頑張ろう!」
進藤の寝不足の理由は別にあった。あれから雨漏りを修理したあとも様々なものを作り出そうと試行錯誤していたのであった。
結果は二通りに分かれた。進藤が今まで使い慣れ親しんだ工具などは問題なく考えた通りのものを作り出せることができた。おかげで部屋は工具でいっぱいになってしまった。とりあえず今はタンスの中に隠している。
そして作り出せなかった物、それは今まで進藤が触れたり実際に見たりしたことないものは出来なかった。ほかにも見たことがあったとしても詳しいところまで想像が曖昧なものは作り出す物ができなかった。大きなダイヤモンドや拳銃などは作成不可能だった。刃物としても刀や剣は作り出せなかったがノコギリは作り出せた。
おそらく物を作り出すのにある一定の対象物に関しての理解力が必要になっているのだと進藤は思った。
まだ完全に理解したわけではないが特別な力を錬金術(仮)として呼称することにした。特別な力を得てしまったことを確信した進藤はあることを考えた。
この力があればアイリス達に恩返しができるっ!!
こうして進藤はこの世界でやるべきことを見つけた気がしたのであった。