一章 1 『安全第一っていったよね!?』
『安全第一』・・・白いヘルメットに大きく書かれた文字。今日もこの相棒を頭に被り忙しく動き回る。
ここは都内のビルの建築現場の中。周りは防音措置の為のシートに囲まれている。シートの内側はうるさく耳栓が欲しくなるほどだ。そんな現場の中を頭を下げながら動き回る男がいた。作業着とヘルメットを身に着けた男。身長は170センチほどで体格は現場作業をしてきただけあってそこそこに筋肉もついている。
男の名は進藤 健一。今年30才になる彼は様々な工事現場の管理を任されている。いわゆる施工管理呼ばれる仕事に就いていた。
この仕事がなかなかにしんどい・・・上司からは納期や予算についてとやかく言われ、現場で働く職人たちには機嫌を損なわないように気を使いながらもこちらの要求を伝えなければならない。まさに進藤は板挟みの中間管理職の立場にいた。周りの同期は辞めて行き、たまに入ってくる新人もあまり長くは続かない。常に人材不足の状態で進藤はそのお人好しな性格もありズルズルと辞めれずにこの仕事を続けていた。
連日休みなしで働き続ける進藤。徹夜明けからの日勤など日常茶飯事・・・今日で何連勤目だろうか?数えるだけで疲れてくるので考えるのをやめた。まさにブラック企業の社畜真っ只中である。
「おーい!!こっちの材料が足りないんだけどどうなってるんだよ!!」
「すいません!すぐ確認します!」
「こんなやり方じゃ工期間に合わねーよ!完成の日程ずらせないの!?」
「すいません!そういうわけにはいかないのでなんとかしてもらえませんかね・・・?」
罵声の飛び交う中あらゆる方面にペコペコする進藤。謝る姿勢もしっかり板についてきたもんだ。
あー・・・しんどい。ここ最近突貫工事でろくに寝てないんだよな・・・
「ふぁあ・・・車で仮眠でもしてこような」
口を大きく開けあくびをしながら体力の限界を感じた進藤はフラフラと現場内を歩いていた。
「おいっ!!お前!吊り荷の下に入るんじゃない!!」
「え・・・?」
怒鳴られた進藤。ふと我に返り上を見上げた。そこには大量に束ねられた鉄筋が大きなクレーンに吊られ運ばれている。進藤はまさにその真下に立っていた。
「あっ・・・やばっ」
普段なら絶対にしない行動である。寝不足で注意力が散漫になっていた進藤は気付かないうちに吊り荷の下に入ってしまっていた。
「す、すいません!!すぐどきます!!」
「あっ!!あぶない!!」
慌ててその場から離れようとしたその時、鉄筋を束ねていたロープが切れた。新藤に降り注ぐ大量の鉄筋・・・現場の状況は悲惨なものだった。
体中に激痛が走る。しかしそれも徐々に薄れていき、全身の力が抜けていく。
あ・・・これ死ぬ奴。
進藤の視界が真っ暗になっていく・・・上下もはっきりしない暗い世界で妙に意識だけははっきりしていた。
あーあ・・・これ労災だよなぁ。絶対怒られるやつじゃん・・・やっちまったなぁ
死ぬ時ってこんな感じなのかな・・・?