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召喚、輪廻、そして世界最強  作者: 赤見 煌
最弱の召喚者は死後最強の英雄に成り上がる
3/27

死闘

やがて、ハクタが着いたのは大きな教会だった。入り口の扉こそ狭いものの、中は相当広そうだ。街の住人達は、レアの先導に従い、一列に並んで教会へと入っていく。その列のお尻にハクタも着いた。


ここまで、色々な体験をして、ノンストップで進み続けてきたハクタ。列の進み方が鈍足であることで、初めてゆったりと考えを持つ時間ができた。


ーー今一体何が起きているんだ?


ーーまず俺はなんで召喚されたんだ?


ーー次、どうするべきなんだ?



分からないことだらけである。それを自覚した心は、急に不安一色に塗られていく。


ーーさっきは運が良かったから助かった。でも次は?


ーー俺には何ができる?何が出来た?



一度生まれたものは、何かそれを吹き払えるような強い出来事がなければ、そこにずっと我が物顔で居座る。



ハクタは、自分で掘った沼地にずふずふと沈んでゆく。



そんな黒く寂しい場所に行こうとするハクタを助けてくれたのは。


やはり、レアだった。



教会の入口で人混みを整理していたはずだったが、ハクタの調子が悪そうなのを見て、様子を見に来てくれたのだろう。レアはすっとハクタの手を握り、



「t'mtsmum…… jtmwtmtjdmt!」



何か励ますように、ハクタに話かける。


その声が、伝えたいものを届けられないことは、もう分かっているはずだ。それでも、


ーーそれでも声掛けてくれてんのに、なんで俺ぐずってんだよ?



ハクタの男魂に火がつく。憧れのヒロインに護られ、慰められるだけでも十分にマイナスだ。さらにそこから、立ち直れません、なんて無様を重ねるのはもってのほかである。



抱えた不安やネガティブ思考が消えたわけではない。それでも、気持ちは楽になった。


ハクタは知らず知らず俯いていた顔を上げ、


「ありがとう。」


とニコッと笑い、告げた。


その言葉の意味が分かったわけではないのだろうが、レアは安心したように顔を緩め、また教会の入口へと戻っていく。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




ーー待つだけってのも疲れんな


列のしんがりで教会への入場を待っていたハクタ。結局入れたのはかれこれ三十分後くらいか。



その中は、よく映画などで見るような、椅子と机と教壇のある教会そのものだった。扉の脇には一本土汚れてた俗に言うピッケルが立てかけられていた。


外ではレアが何かしている。また魔法を使っているのだろう。


ハクタはずっと立ちっぱなしだったこともあり、その場にため息を付きながら座り込む。壁に背を預け、ゆったりと教会の中を見回す。



ーーホントに、異世界だなぁ。


こうして集まった住人を見ると、様々な人種がいるのが分かる。皆に今共通しているのは、その不安そうな面持ちだけだった。



どことなく居心地の悪いハクタ。まぁ、外見も衣服もこの場ではあまりにも目立つのだから仕方ないだろう。事実、さっきからチラチラと視線が送られていることに気づいていた。




「にしてもレアがおせぇな……」


ハクタが入場してからもうだいぶ経っている。何かを施すにしてもそろそろ終わっても良い頃合だろう。


そう思い、座り込んでいた腰を上げ頭上の窓から外を見る。その瞬間、カッと世界を光が飲み込んだ。



「!……?」


反射的に顔を背けて手で光を遮る。閉じた瞼の向こう側から強烈に突き刺さる閃光が弱まったのを感じ、目を開けると。



外の世界が白いフィルターで覆われていた。


否、恐らくだが、レアが何かしらの結界のような魔法で教会をおおったのだろう。それが、白色の壁となり中からは外がそう見えるだけなのだ。



ただ、ひとつ問題があった。それは、



ーーなんで、レアが結界の外に残ってるんだ?




魔法を張った張本人が、結界の外にいたのだ。少し離れた所で、来た道を睨むようにしてこちらに背を向けている。



その小さな背中に、何か不吉なものをハクタは感じる。呼びに行きたいのはやまやまだったが、内側からなにかして結界に何かあったら目も当てられない。



そう思い、窓から外を見るハクタ。



そして、それは突然だった。







安心感を与える不動のレアの元に、凄まじい豪風が襲いかかったのだ。それをレアは咄嗟に魔法の盾を創り出して防ぐ。



ハクタは教会の中からこの光景を見ていた。最初レアが魔法を使った時は何が起こったのか分からなかったが、その直後に窓のすぐ目の前の結界が弾けるように衝撃を伝えることで、襲撃に気づいた。



すぐに体勢を立て直して、レアがいつでも魔法を使えるように構えていると、道の向こう側から、人間がやってきた。



その外見は、見ているだけで全身の肌が裏返るような感覚を催させる。四肢は枯れ木のように細く、肌は生気の感じられない土気色。髪の毛は、伸びるのを途中で辞めたかのように中途半端な長さでぐしゃぐしゃの黒色。全身から死を感じる中で、目だけが異常な程の光を宿し、精気をーー否、狂気を感じさせる。



その男が、もう一度腕を軽く振る。すると、再び凶器の風がレアに襲い狂った。


凄まじい威力なのだろう。魔法の壁で防御をするのに、それごと共に押されている。




そうして風の魔法による攻撃がさらに二、三度続いただろうか。その全てを凌いだレアと化け物のような男の距離感は、十メートル程になった。



ここで男は一度立ち止まる。そして、目は油断なくレアを見つめながら、懐にゆったりと両手を入れる。再び両手が出てきた時に握られていたのは、三日月型に逸れ曲がった刃渡り三十センチ程の武器だった。いわゆる、ククリナイフというやつだ。



男は、そのナイフのように大きく歯を剥き出しにして口を三日月型にして嗤う。


一触即発。まさにそんな雰囲気でいることおよそ十秒。



先に動いたのは、化け物の男だった。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー









互いに相手の動きを許さない、表面張力的な緊迫感のなか、先に動いたのは男の方だった。



鋭い踏み込みから、瞬間移動と見よう間違うような早さでレアに接近する。ナイフでその華奢な身体を引き裂こうと突き出す。レアは魔法の盾で防御。盾は役目を終えると一瞬で消えていく。



男は常に近距離でナイフを連続で出し続ける。レアも対抗して盾を創り出す。盾は創られては消え、創られては消えていく。




地を這うような低姿勢からの飛び出しをいなしたかと思えば、次の瞬間には宙からの襲撃。コンマ一秒の遅れも油断も許されない極限の死闘が繰り広げられる。




防戦一方だったレア。だが、男が一度何を思ったか距離を取り仕切り直そうとした瞬間、攻撃に転じる。



水晶の塊で連続で相手を狙い撃ち仕出したのだ。男は地を獣のように駆け避け続ける。そのあとを追うように、何発もの水晶弾が大地を抉っていく。男がレアの裏へと回り込み、瞬時にナイフで攻撃に移るが、レアは背を向けたままに防御。その盾がそのまま砕け、男に雨あられと襲いかかる。



避けきれないものは斬り砕き、コマのように回って回避。



攻めと守りが目まぐるしい程に交代する闘い。否、守りと闘いはもはや同時に行われていた。




拉致のあかないほぼ互角の展開に、レアが新たな一石を投じる。詠唱を始めたのだ。彼女の周りを、美しい翡翠の色の幾何学模様の魔法陣が回り出す。



男はこの隙を着いて攻撃しようとするが、魔方陣がグルグルと回転し妨害する。



そうしているうちに魔法が完成したようだ。一際大きな魔方陣がレアの足元に広がる。その円周を囲うようにして、宙の魔方陣も展開されてゆく。三百六十度全方位に展開されたそれは、



「t(jtpn'j'tjUjm'ーーー!!!」




レアの裂昴の叫びと共に、その真価を発揮するーー!



水晶弾を遥かに超える破壊力をもった水晶ーー否、エネルギーの光線が世界を一気になぎ払おうと暴力的に駆ける。避ける隙などどこにもない一撃、確実に男を殺ったと、ハクタは思った。



だが、それは間違いだった。



全ての光線が繰り出され、レアが肩で息をする。土煙が晴れた時、信じられないことに、男はまだ立っていた。



来ていた黒のローブはボロボロになり、皮膚は裂けて血で全身が赤くなっている。ナイフのうちの一本は根元から折れている。しかし、その四肢や五感の機能は健在だった。



何が楽しいのか?天を仰ぎ男は声を出してケタケタと嗤い出した。



そのまま嗤いながら、狂ったようにレアに肉薄する。リスクなど全く鑑みずに、ひたすらに攻撃を重ねていく。



魔力砲を放つ前のレアならその隙を付けただろうが、今のレアにその余力はなかった。ワンテンポ遅れるようにしてギリギリで攻撃を凌ぐ。



男は、レアの限界が近づいているのを悟ったのか、さらに猛攻を重ねる。



そして。






男が強く右手のナイフを打ち出す。それに対応するためにレアは盾を創る。が、男のそれはフェイントだった。盾とぶつかる直前ナイフを放し、その下で構えていた左手で握る。


疲労と咄嗟の事で対応できないレア。




男はニヤリと嗤う。そして、ガラ空きのレアの右足をナイフで斬り割いた。



それは、この闘いでの初めての致命傷。バランスを崩し、ガクリと膝を折るレア。その空いた胸に、



ーーグサリとナイフを男は突き立てた。



地に堕ちるレア。胸からは血が吹き出し、服を赤色に染めていく。



男は、そのすぐ脇でこの光景をケタケタケタと嗤いながら見ていた。





ケタケタと、ケタケタと。

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