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召喚、輪廻、そして世界最強  作者: 赤見 煌
アフターストーリー
27/27

ただいま


新崎家から、一人息子が消えて二年が経った。


事件発生当初、雫と灰慈の頼みで、報道は控えてもらったため世間的には知られていない事件だ。


だが、家に何度も警察が訪れ、近所に聞き込みをしていたら否が応でも噂は立つ。


ーー新崎さんの家の男の子、夜にいきなりいなくなったらしいわよーーそんな時間帯にフラフラするような子には見えなかったんだけどねぇ。


そんな、声なき声が聞こえるようで雫も灰慈も疲弊していた。


そんな二人を支えたのは、ゲーム会社の同僚達だった。会社で出逢い、円満に楽しい結婚生活を送っていた二人に息子ができた時は祝い、泊まり込みの仕事になった時は会社で面倒を見ながら育ててきたため、ハクタとは皆顔見知りだったのだ。


今は大変な時期なんだから一回休んで、ハクタ君なら帰ってくるよ、そう言った何気ない励ましに、どれだけ助けられたか分からない。


事実、ハクタが消えてから一年間は、ほとんど会社に顔を出せずにいた二人の分まで同僚達が嫌な顔一つせずに仕事を進めてくれた。




その一年間で、雫と灰慈は無論息子への手がかりをひたすらに追い求めていた。あの夜に、どこかへ行くようなことを匂わせていなかったか、部屋には足がかりになるようなものは残っていないのかーー


しかし、努力も虚しく、何の成果も上がらぬままに一年はすぎた。


そして、二人は決めたのだ。


これ以上、息子の幻影を追いかけても仕方ない、会社にも迷惑がかかるし、ここでもう止めにしよう、と。



そうして、社会復帰して一年。












「雫、今日は疲れただろう?後片付けはしとくから先に寝るといいよ」

「灰慈こそ、会議が長引いてたじゃない。二人で早く済ませて寝ましょう」



新崎夫婦の、疲れ切った張りのない声が、リビングに響く。時刻は既に、日を跨いだ。今日は会社に泊まることも考えたが、万が一(・・・)帰ってきたら、と思うと、いつの間にか家路に足が向いていた。


諦めよう、ここまでにしよう、と決めたはずだが、望まずにはいられないのだ。再び息子の姿を見ることを。


雫は、主の不在中ただの一日も息子の部屋の掃除を欠かした日は無い。あっという間に片付けの終わる、何日経っても変わらないその場所に、寒々とした恐怖を感じながら。


灰慈は、家の中で木霊する息子の声を何度幻聴で聴いたか分からない。インターホンの鳴る音に、一末の期待を込めて飛びつくようにドアを開けたことも多々あった。



お互いに顔を見合わせ、その色の悪さに苦笑いする二人。この二年、安眠とは縁がない。睡眠と覚醒を繰り返す、疲労が減らない生活が続いているのだ。


それでも寝るしかない。ろくに休めなくても、明日も明後日も世界は待ってくれないのだから。



諦めにも似た、悲しげな表情で首を振り、灰慈が深々とため息をついた、その時だった。


ピンポーン、と、丑三つ時には似合わない音が響いた。



こんな夜遅くに誰だろう?二人は顔を合わせて訝しんだ。咄嗟にその可能性に気が付けなかったところからも、二人の心労が察せられる。


ゆっくりと、その重い腰を持ち上げて、雫がインターフォンの受話器を手に取る。そして、そのディスプレイに写った来訪者の正体は……


「…ハクタ?」


雫の、困惑と喜びとがごちゃ混ぜになった、小さな小さな呟き声に、灰慈が飛びかかるようにバッと振り向いた。


ディスプレイには、目を軽く伏せて、震える声で、

「お、俺なんだけど…その…なんと言うか……」

とどもる少年が写りだされている。


それを聞いた瞬間に、灰慈は、リビングのドアを蹴破るような勢いで飛び出して行った。もどかしい長さの廊下を踏み抜く勢いで駆け抜け、玄関の扉を思い切り引き開ける。


そこには、夢にまで見た、愛して止まない一人息子がいた。


例え、髪の色や雰囲気が一変していても、左腕が無くなっていようとも分かる。


「このっ!!何処に行っていたんだバカ息子がぁ!!!」


時刻は丑三つ時だという事も忘れて、灰慈が大声を上げる。その言葉には、口調とは裏腹の精一杯の慈愛と歓喜が詰まっていた。


灰慈は、ハクタを強く抱き締めた。もう何処にも消えないように、これが夢でないことを確かめる為に。



「……ハクタ、なのね?そうよね!?」


フラフラとしながら、半ば恐れるように歩み寄ってきた雫が、息子を夫共々固く抱いた。


「良かった。本当に良かった……」


滑り落ちる涙を拭おうともせず、頬擦りしてくる母に、もう自分よりも背が低く、胸に顔を埋めてくる父に、ハクタは優しく言う。


「ただいま」


二年ぶりの再開に涙する三人家族を、美しい星が優しく見下ろしていた。



















その後、ご近所さんがチラホラとカーテンの隙間からこちらを伺っていることに気がついたハクタ達は、そそくさと家に戻った。あれほど大騒ぎすれば、不審に思うのも当然だ。



二年ぶりの帰宅に、懐かしさに目を細めた。三人で仲良く囲ったテーブルや、虫を倒そうとして出来た壁のキズ、成長の証と身長を毎月刻んだ和室の木の柱。その全てに、思わず手を這わせ、深い感慨に浸ってしまう。


「家はやっぱりいいな。居心地がいいし、温かい気分に……」


上機嫌に話しながら、両親の方へと振り向いたハクタは、そこで言葉を失った。


先程はボロボロ泣いていて、外が暗いことも相まって分からなかったが、二人ともとてもやつれていたのだ。



痩けた頬。節くれだった指。極端に細くなった手首足首周り。色の良くない顔。灰慈の手には、いつもコントローラーを握っていた為、ハクタが物心着いてからずっとあったゲームだこが消えていた。雫も、肌や髪の手入れには事を欠く事がなく、いつだって年齢より若く見えていたものだが、今ではむしろ老けて見えた。



ハクタは、自分がどれほど心配されていたかを強く自覚する。そして、言わなければならない大切な一言を忘れていたことを思い出した。


「……その、俺、突然いなくなってごめん。もう、こんなことは、絶対にないから」

「いいんだ。お前は戻って来てくれた。それだけで、十分だよ。」

「そうよハクタ。でも、これだけは聞かせて。ーー何処に行っていたの?警察が必死に捜索して、私達も打てる手は出し尽くして探したけど、手がかりの一つも見つからなかった。」


ハクタは、フッと天井を見上げた。そこに漂う、少年ならざる雰囲気に、思わず二人はたじろぐ。


「そうだな。それを説明するのは簡単であり、難しくもある。話さなきゃいけないことが沢山あるんだ。」


その目が、虚しくはためく左袖が、変色した白髪が、あまりにも変わった纏う雰囲気が、想像を絶するような経験をしてきたことを悟らせる。


自分たちの記憶にはない姿を見せる息子に、思わず二人は生唾を呑んだ。



「……ハクタ。温かい飲み物入れてくるから、それを飲みながら話にしましょう。その方が落ち着いて出来るし」

「ああ、ありがとう母さん」

「何だか大人びちゃって、お父さんみたいなこと言うのね。ふふっ」


そうして、雫の入れた甘くて温かいミルクティーを飲みながら、ハクタは語りだした。二年前、あの夜に、突然異世界に呼ばれてから、ここに至るまでの物語を。


初めて本物の悪意というものに殺され、それを打倒するために自分を鍛えぬき、幾度となく訪れた命の危機を滑り抜けてきた、血塗られた物語を。


甘酸っぱい初恋よりも、自分を深く愛してくれた人に、残酷で美しい嘘で応えた物語を。





一通りを話し終えた時には、既に空は白み始めていた。ハクタは何杯目かのミルクティーを勢いよく飲み干して空にする。灰慈は、全身を脱力させて、軽く眉間を揉みほぐす。雫は、少し口を開けたが、どう返せばいいのか分からず結局何も言わずに唇を結んだ。


「やっぱり、信じ難いか?」


ハクタが、軽く苦笑しながら尋ねる。


「そりゃあなぁ。俺も雫もそっち方面の知識は豊富だが……実際に、となると話は別だなぁ……」

「私も同感だわ。別にハクタを信じない、って言いたいわけじゃないんだけど、あまりにも現実離れし過ぎてて……」

「まぁ、そうだよな。俺も子供が突然失踪して、二年ぶりに帰ってきたと思ったらいきなり異世界召喚された、なんて言われたら正気を疑うよ。」


当然、にわかには信じられないことだよなぁ、と二人の困惑した様子を見ながら、ハクタは苦笑いを深めた。そして、確かめずには居られない、一つの心配の種を口にした。


「俺の言ってることが全部本当だ、ってのは証明する気になればできる。だけど、それよりも聞きたいことがある。ーー俺の話を聞いて、今どう思う?」


ハクタの回りくどい聞き方に、灰慈も雫も質問の意図が分からずに眉をひそめて首をかしげた。


それを見て、更に説明を追加する。


「……俺は、あっちの世界で、数え切れないほどの命を、自分の意思で奪い取った。後悔はない。だけど、それに対して嫌悪感はないのか?…いや、この聞き方は卑怯だな」


顔を苦渋に染めて、息苦しいそうに一言一言を、刻むように吐き出す。


「俺が聞きたいのは、今も一緒に居られるかってことだ。この体はもうほとんど改変されて、二人から貰った血肉は無いに等しい。してきたことは殺戮であって、ある意味ではただのエゴの押しつけだった。見た目ももう前の面影なんて残ってない。ーーこんな、変わり果てた俺を、息子として見てくれるのか?」


一気に、苦しそうに、悲しそうに、怖々と言葉を吐き出し、ハクタはギュッと目を瞑った。


そうすること一分。ただ虚しい無音の時が去った。なんの返答も無いことに、一抹の恐怖を覚える。




静寂を破った声は、人とは思えないほどの無感情で支配された、灰慈の一言だった。


「……ハクタ、残念だよ」


それを聞いた瞬間、ハクタは確かに、自分の中で、色々な物が断末魔の叫びを上げて粉々に砕け散っていく音を感じ取った。悲しみが全身を覆い尽くし、ジクジクとした苦い痛みを与えてくる。首を力なく折り俯き、涙が零れ落ちないように膝に強く爪を立てる。


「ーーハハッ。そうだよな。いいんだ。時間は必要だと……」

「ふざけんのもいいかげんにしろっ!!!」


乾いた笑い声と共に吐露された心にもない発言は、灰慈の激声を伴った手加減無しの右頬への鉄拳で遮られた。


それは、体格で大きく勝るハクタを軽々と吹き飛ばし、壁に激突させる威力を持っていた。歯が二、三本折れ、口の中も切ったが、直ぐに再生されて出血は止まる。


今まで一度だって暴力をふるったのを見たことがない父親の容赦ない右ストレートに、一体何が起きたのか分からず、驚愕しながら目を白黒させるハクタの胸ぐらを掴んで、灰慈が鼻が付きそうな程の距離で再び怒声を上げた。


「体が変わったから、見た目が変わったから、殺人鬼だからって、俺達がお前を見捨てると考えたとは、安く見られたもんだなぁ!?お前がいなかったこの二年間、どれほど辛かったと思う!?どれほど願ったと思う!?俺は、俺と雫が……どれほど涙を、悲しみを、苦しみを飲み下したと思ってんだこのバカ息子がぁ!!!」


それは、正真正銘の、息子への愛だった。灰慈の腕を伝ってハクタの服を濡らす光るものが、それを叫んでいた。


灰慈の背中越しで呆然としていた雫が、今度は口を開いた。


「そうよハクタ。灰慈の言う通り。例え私達は、あなたが何になろうとも、何をしてこようとも、愛し続ける。ーー家族、だもの」


ぶぁぁと、ハクタの涙腺が崩壊した。


直ぐには受け入れてもらえないと思っていた。きっと、深い溝を感じられてしまうと考えていた。しばらく、時間を置くことさえも念頭にあった。


ところが、蓋を開けてみればどうだ。自分の家族は、そんな心配が馬鹿馬鹿しくなる、素晴らしい人だったでは無いか。


鼻をすすりながら、顔をぐしゃぐしゃにして、言葉を押し出す。


「母さん、父さん。俺、二人の息子でよかった。」

「当たり前だろ。お前の両親は世界最高の夫婦で、その息子もまた世界最高の息子なんだから。」

「もう、何言ってんのか分からないわよ」


三人が、泣き笑いしながら、顔を見合わせる。



「よーし!今日は奮発して豪勢な一日にするぞ!ハクタの帰宅祝いだ!」

「父さん仕事だろ?」

「そんなもん休むわ!」

「何言ってんだよ」


ゲラゲラ、ゲラゲラと、幸せな笑いが、リビングを満たした。



少し半端な形ではありますけど、ここで一回完結とされてもらいます。


本当は、日本にいながらドラゴンと闘ったり、家族三人で異世界旅行行ったりと、書きたいことはまだまだあるんですけど、赤見の私事情で、更新がエタりそうな気がするので、勝手ながら終わりにさせてもらいました。


もし、また更新再開したり、新しい作品投稿始めたりした時は、よろしくお願いします。


ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました!!



……感想とかくれたら、凄く嬉しいし、全部返信するから気軽に送ってね(チラッ

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