新崎家の日常
ピシュンピシュン、という軽い音が戦場を駆けた。黒い銃身にピンク色の蛍光色が鮮やかな小銃からは、六発の光弾が獲物めがけて発射される。
その標的となった、盾と長剣で武装した若男が、宙返りで突進しながら華麗によけた。そのまま地を一回転、あっという間に敵の足元に滑り込む。
銃の男が、マズいと回避行動に移った時には時すでに遅し。リーチの長い剣が、その膝をすくい上げた。
バコォンという派手な音を立て、斬られた方は吹き飛んでいく。そのままリングアウトだ。
「よっしゃあ!」
「お前、異世界行ってる間、リアル格ゲーしてるだけはあるじゃねぇか」
ハクタの歓声と、その父である神崎灰慈の苦笑が、神崎家のリビングに響いた。
「もう、三時間もずぅーとやってるんだから、そろそろ一回休憩したら?」
のんびりとそう言いながら、液晶テレビの前で仲良く肩を並べる二人にお茶を持ってきたのは、ハクタの母である神崎雫だ。
「それにしてもハクタ、片手でよく器用にコントローラー握れるわねえ。お父さんも、片手プレイの相手に負けちゃダメよ」
「無茶言うなよ。コイツは片手でゲームどころかマジモンの死闘してきたんだから。しかも、師匠は神様だぞ?」
灰慈と雫には、異世界でハクタが経験してきた全てを帰ってきたその日に話してある。最初は心配かけたくなかったし信じてもらえるか不安だったので、誤魔化すことも考えた。しかし、真っ白になった髪や、肘の先がない左腕、鋭くなった目付き、あまりにも変わりすぎた纏う雰囲気を、納得させられる説明など思い浮かばなかった。
もちろん、ハクタが初めて死んだ時や、三十万もの大軍を相手にした時などのくだりは、極力端的に、軽く言った。だが、笑って流すには無い左腕があまりにも痛々しかったし、急激な力の改変による髪の白化、というのもその壮絶さを物語っていた。
結果的には、灰慈も雫も、すんなりと信じてくれた。二人が、ゲーム会社で働いていることで、そっち方面の知識が強いことや、ハクタが実際に魔法と個性を使ったことがあるかもしれない。
だが、何よりも、揺るぎない息子への信頼があったからだろう。
「父さん、言い訳するなよ。見苦しいぜ」
「ほおぉん。言ってくれるじゃないか。次はめったんめったんにしてやるからな」
「楽しみにしてる」
ハクタと灰慈は、軽口を叩きながら、再び画面の向こうに戻る。せっかく持ってきたお菓子に、お礼を言わなければ手をつけもせずにゲームを再開する家族を、雫は優しげに見つめた。
ーーこんな、当たり前で、温かくて、幸せな空気を、再び吸えるなんて、思わなかった。
約一年前、失踪した日と同じように、息子が突然ふらりと帰ってきた日を今でも鮮やかに思い出せる。
ーーあれは、今日みたいな星が綺麗な夜だった。
カーテンを開けたままにしてある大きな窓の外を見つめながら、雫は回想に耽けり始めた。




