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召喚、輪廻、そして世界最強  作者: 赤見 煌
アフターストーリー
24/27

進化



(ここは、一体……)



ハクタは意識を取り戻す。体は固い床の上に無造作に横たえられ、首や肩が痛い。全身が強烈に重怠く、疲労感が半端なかった。



「目覚めたか」


そう言って、顔を覗き込んできたのはガブリルだ。



「俺、気絶したのか」


「初めにしては上出来だった。五分で力尽きると思っていたが、十三分耐えていたからな」


とりあえず今日は休め、とガブリルが続け、食事をくれた。



「毎日朝の滝行だけでいいのか?」


それらに手をつけながら、ハクタが聞く。量でより早く力が手に入るのあれば、そうするのもやぶさかではない。



「今感じていると思うが、これは体に相当の負荷がかかる。これ以上に何かトレーニングを重ねたら、体が壊れるだろうな。休むことも鍛錬のひとつだ」



そんなもんなのか、と納得し、食事を終え、横になる。眠りにつくまではすぐだった。



結局、その日はそのまま次の日の朝まで眠りこけた。










それから約一年。ハクタの生活はこの繰り返しだった。


朝、起きたら滝行に行き、気絶するまで詠み続ける。気を取り戻したら、食事をし、その後強烈な眠気に襲われる。そして、次起きた時には滝行。



一年経ち、滝行には二時間ほど耐えられるようになったが、神は次のステップへは進ませてくれない。










目が覚めた。

まだぼんやりとする頭を左右に振り、半ば強制的に覚醒させる。


(また、滝かぁ……)


「今日は、早いな」

話しかけてきたのは、ガブリルだ。


周りに誰もいないとばかり思っていたので、少しびっくりする。普段は、寝ていても気配を感じ取れるのだが、疲れで感覚が鈍っているようだった。


こんなんじゃもうしばらく修行かな、とハクタは苦笑する。実は、滝行を初めて以来、魔力や体力などの基礎値は大幅に上がっていた。だが、拭いきれない疲労がそれを自覚させない。



「何が早いんだ?」


「起きるのが、だ。今までの睡眠時間は約二十時間だったが、今回はまだ十時間程しか経っていない。滝行に向かうには、インターバルが短すぎる。」


「それは、成長したってことか?」


「そうだ。この分なら、あと半年で転移魔術の実施訓練に入れるだろう」



おしっ、と拳を握りしめる。朝も昼も夜も、世界の景色が一つとして変わらないこの世界なので、見落としていたが、今日はいつもより二倍も早く起きれたらしい。



「やることがないなら、剣でも久しぶりに振るうか?相手にはなる」


「それは願ってもないことなんだが、休養はもう十分なのかな?休むのも修行のうちって言われた覚えがあるんだが」


「目覚めたのだから、少なくとも体は大丈夫と言っている。精神的にもっと休憩したいのであれば、無論止めない」


「いや、大丈夫」



ハクタはぴょんと跳ねるように立ち上がり、対なるものが無い右腕をぐるぐると回す。


「俺の愛剣、どこだ?」


ガブリルが差し出してきたのと、口で問いたのは同時だった。



(こいつ握んのも、一年ぶりか)


「アダ グロサ!!」


久々の仕事にも、赤い宝石は乱れることなく働く。主の叫びに応え、その身をすぐさま漆黒の剣へと変えた。



ハクタはその感触を確かめるように、ゆっくりと振り出す。


袈裟斬り、逆袈裟、右薙ぎ、かち上げ、唐竹、左薙ぎ、左切上げ、右切上げ、逆風、刺突。



磨きあげられた、究極の美と言って過言ではない魅力が、そこにあった。 肉体と剣は一体となり、それぞれが互いの意思と思惑を瞬時に判断し、より洗練された動きへと昇華される。


それは、神の目さえも釘付けにさせる。ガブリルは、自分が魅入っていることに気がついて、苦笑した。



ハクタはその後、ゆっくりしたテンポで剣と踊った。少し汗をかいてきた所で、動きを止める。



ーー速い



体は心身共に鉛のように疲れきって重たいのに。剣を持つのは、それどころかまともに体を動かすことが久しくなかったというのに。

自分の動きが、以前とは比べ物にならないほどに速い。



手足は、空気の抵抗など存在しないかのように強く滑らかにうねる。胴は、羽でもついたのかと錯覚するほど軽い。関節は、より完璧な運動を求めて、全てが収まるべく収まっている。



身体能力が成長したことは分かった。では、魔力はどうだろう。



ハクタは、魔水晶をいくつか生成する。そして、無造作に打ち出した。

目に懐かしい黒い弾丸は、ヒュッという子気味良い風切り音をたて、超速で飛んでいく。視界から消える限界まで目を凝らして見送ったハクタは、そこに何か違和感を覚えた。


(なんだ?)



試しに、もう一度同じように魔水晶を放つ。全ての過程がまるで巻き戻しの映像を見たかのように繰り返された。そこで気がついた。



水晶は、目に見えなくなる地平線の彼方まで飛んで行った。だが、そんなことはありえないのだ。何故なら、魔水晶は直ぐに消滅するからである。



不思議そうに首を傾げていると、ガブリルが察して説明してくれる。


「貴様の魔力は、その濃度が大幅に上がっている。その証明が、今の魔水晶だ。今までなら、一秒にも満たずに霧散していた魔力が、今は五秒近くその形を保てる」

「それって、かなり凄いことなんじゃないか」


一秒が五秒になった、と聞いただけでは対した違いを感じないかもしれない。呼吸にすれば一回増えた、くらいのものだ。だが、命を賭けた戦場で、その差は千金の価値があると言えるだろう。何せ、単純計算から言えば、今までと同じペースで魔水晶を放ち続けた時、その量は五倍になるからである。



ぶるり、と身震いがした。今の自分なら、タナトスなど歯牙にもかけないで倒せるだろう。



「あと一年。あと一年で貴様の努力次第では転移魔術を使えるようになるかもしれない。つくづく、貴様という人間は、規格外だな」

「自分的には結構成長したつもりなんだが、あと一年必要なのかよ」


言葉とは裏腹に、嬉しそうな顔のハクタ。この一年間、成果らしい成果も見えない中で、確かな成長を実感した事と、他ならぬ神からの太鼓判が嬉しかったのだろう。



「もうちょい、俺は剣振ってくわ。片腕での闘いにも慣れておきたいし」


そう言って、再びその隻腕に愛剣を呼び出すハクタ。



ーー貴様の強さの源は、そこなのだろうな。

ガブリルは、口には出さずに思う。


この一年間、毎日毎日変化のない単調な、気絶と睡眠と覚醒を繰り返す生活をしてきた。その中でようやく、目に見える結果を手に入れたのだ。普通の人間なら、満足感を覚えて、少し立ち止まるだろう。

だが、彼は直ぐに前を向き、別の目標さえも据えている。


「死とは、ここまで人を変えるのか、それとも貴様が変わったのか……」


神の独り言は、誰の耳にも吸い込まれず、霧散していく。














そして、更に一年の年月が過ぎた。

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