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召喚、輪廻、そして世界最強  作者: 赤見 煌
最弱の召喚者は死後最強の英雄に成り上がる
21/27

英雄



「こんばんは、ハクタくん」


「シル。こんばんは」


ハクタとシルが挨拶を交わす。


シルの今晩の格好は、いかにも異世界、といった可愛らしいフリルのついたスカートだ。相変わらず黒コートのハクタと違って、華がある。



可愛いな、と思わずハクタが言うと、シルは照れたようにはにかんだ。ピコピコと嬉しそうに動くケモミミがますます可愛い。



「こんばんは、ハクタ」


声をかけてきたのは、レアだ。彼女は、初めてあった頃のようにローブを着ていた。だが、今日のは前と違い、露出が多めだ。細くて白い肩が眩しくてたまらない。



「レアも、こんばんは」



ハクタが挨拶を返す。レアは、敏感にも、そこに何か不吉なものを感じ取り、「何かあったの?」と聞くが、「後で話すよ」としかハクタは答えない。



後で話すってことは、何かあったのねーーレアは心に一抹の不安を抱えて、自分の席に着く。













「今日は、俺のために食事会を開いてくれてありがとう。で、話したいことってのは、魔女軍のことなんだ。」



ハクタが、皆が食事を終えるのを見計らって、話を切り出す。その一言に、場は緊張感を持つ。



今ここにいるのは、この街のトップであるレアと、将軍であるファル、ギルド長であるナーディル、ハクタと一番接している時間が長いと言う理由で出席したシルの四人とハクタのみだ。



「実は先日、俺は、左腕の個性を使ってアダ グロサを使おうとした。だが、『黒魔』で握ったところ、剣は宝石に戻っちまったんだ。」



この面子での食事会は、実の所は二回目だ。一回目に、ハクタは自分の個性の全てを話した。また、アダ グロサについて、どこで作られたか以外のことも話してある。



「アダ グロサの能力は前に話した通り。俺以外の奴が使おうとしても、使えない。だけど、今回は俺も使えなかったんだ。そのことから、俺はある推測をした。それは……」


ハクタはここで一度言葉を切った。この場にいる全員が、不安そうな面持ちでハクタを見る。



「それは、俺の左腕に、魔女が宿ったのではないか、という事だ」



ガタッと音がなった。将軍のファルが、勢いよく立ち上がったからだ。



「ハクタ。自分が何を言っているのか分かっているのか?」



今にも怒鳴り散らしてしまいそうなのを、必死に抑えているのだろう。声が震えている。



「ああ、分かっている。ーー見てもらいことがあるんだ」



ハクタは冷静にそう言って、おもむろに右手に愛剣を取り出した。そして、それを自分の首に向かって刺しこんだ。



場が凍りつく。シルは悲鳴を上げ、ナーディルはハクタを止めようと立ち上がり、レアは慌てて医者を呼ぼうとする。



だが、それは杞憂に過ぎなかった。何故なら、剣はハクタの首に先端が触れるか触れないかぐらいの距離で、『黒魔』によって抑えられていたからだ。



「見ての通りだ。俺は、自殺が出来ない。何度やっても、この左腕が、命じてもいないのに、勝手に俺を止めるんだ」



ハクタが試していたのは、これだった。一回目はさすがに躊躇ったが、一思いでやった。ギリギリまで何も起こらなかったので肝を冷やしたが、結果的には成功ーー否、失敗した。



「ずっと不思議だった。なんで、タナトスが二つも個性を持っていたのか。俺は『模倣』がある。だけど、奴は違う。そこで、最初は、魔女に何かしてもらったんじゃないか、と思ったんだ。だけど、そんなまどろっこしいことするなら、自分で来ればいい。ここまで考えて、分かっちまったんだ。魔女は、来てたって。」




食事の場は不気味な程に静まり返り、ハクタの声が響く。



「思えば、俺とタナトスが戦っていた時、奴が『黒魔』を使い始めた途端に、まるで別人のようになったんだ。本気になったのか、と思ったけど、本当に別人になっていたのかもしれないな」



「ちょっ、ちょっと待ってよ。そんなこと、ありえないわ。魔女は、七百年前に死んだのよ?」



「いや、体を六部分に切り刻まれただけだ。俺は、そのバラバラになった体のそれぞれが意志を持ったんじゃないかと思っている。」



そう考えると、辻褄が会うことがある。タナトスは、自身のことを「序列第六位」と言っていた。対して、魔女の体は六分解。数も合う。左腕に宿っているのも、タナトスの体に入った魔女は「左腕」だったからではないか。



「で、でも仮にそうだとして、今はハクタは何も起きてないじゃない?私たちを襲おうともしてないし。」


「今は、な。いずれ、何かの拍子に俺が暴走するかもしれない。そうならない為にも……」



再び、ハクタは言葉を切る。だが、今度は、次に何が続こうとしているのか、皆予想がついた。



「俺を殺してくれな……」

「ダメよ!」



ハクタの言葉を遮るように、レアが叫ぶ。普段の冷静沈着ぶりからは想像出来ない程、大きな声だった。



「そんな、確証もないことで、死ぬなんて言わないでよ!だいたい、魔女が生きてたなんて、ありえないわ!だって、もう七百年経ってい……」



「レア。落ち着いてくれ。俺もその事は考えた。だが、仮に、魔女の個性が憑依型のものだとしたら?肉体が朽ち果てようとも、別の肉体に移ることで命を保っていたなら?俺は、魔女と剣聖の話を聞いて、魔女の個性が出てこないことを不思議に思っていた。だけど、憑依型だとしたらなんの不思議もない。それに、魔女がいた時代に、そんな歴代最強の英雄がいるなんて確率、どんなもんだ?魔女がずっと生きていた、と考える方が自然だ。」



「だからって、だからって!そんなこと関係ないわ!」



「レア。俺が最低なことを頼んでるのは分かってる。だけど、万が一にも本当にそうだとしたら、俺は誰かを傷つけてしまうかもしれない。それだけは嫌だ。だから……」



「ハクタくん」



まるで別人のレアに、驚きながらもハクタは説得する。残りの男二人は呆然とするばかりで全く役に立たない。



進まない会話に、新たな一石を投じたのは、シルだった。



「シルの個性は、ハクタくんの心臓をゆっくりと止めることが出来ます。恐らく、これが一番苦しまないでしょう」



俯いて、早口でシルが話す。



レアが、物凄い勢いでバッと振り向く。


「何を言っているの!?ハクタが死ななきゃ行けない理由なんてどこにもない!訳分からないこと言わないでよ!ハクタに死んで欲しいの!?」


「訳分からないこと言ってるのは、レア様です!」



シルが怒鳴り返す。



「いつものレア様なら、もっと冷静に考えられるはず!そうすれば、ハクタくんの話に矛盾がないことに気がつくはずです!確証がない?ええそうです!でも、対応が遅れたら、どうなるか分かっているのですか!?」



顔を真っ赤にして怒鳴るシルが、涙を流していることにレアは気づいた。



同時に、冷静さを取り戻していく。



「シルが、シルがっ!ハクタくんが死んだ方がいいなんて、思ってる訳ないじゃないですか!でも、ハクタくんが苦しむのは、もっと見たくないんです!」



最初は隠していた涙も、もう遠慮なく流して、シルは叫ぶ。



レアはシルに近づき、そっと抱きしめた。シルはハッしたように我を取り戻し、レアにひしと抱きつく。



「ごめんなさい、シル。酷いことを言ってしまったわ。確かに、ハクタが正しいわ。でも、殺すなんて、あんまりよ」


「レア様。シルも、そう、思います。」



二人の頬を涙が滑り落ちる。互いにしゃくりあげ、話す。



ハクタは困ったようにオロオロとしていたが、場の熱が下がったことにホッとした。




「……やってくれるか、シル?」



「一生恨みますよ、ハクタくん」




それは、承諾の返事。





シルは、ハクタに抱きつく。ハクタは、驚いたが、その背を優しくさすった。シルは、花のとてもいい匂いがする。



「シルは、ハクタくんのことが好きです。大好きです。」



分かっていた。この一週間接してきて、気がついていた。だからこそ、シルには最初頼まなかったのだ。



「だからこそ、シルは、ハクタくんを殺します。」



シルの涙は止まらない。壊れた蛇口のように、涙を流し続ける。



ハクタは、義手と右手で、固くシルを抱きしめた。自分が好きなのはレアだ。だが、ここでそれを言うのがどれほど残酷なことか。



「シル。俺も、お前が好きだ」


ハクタの一言は、嘘だ。だが、誰がその嘘を責められるだろう。世界一残酷で、世界一優しい嘘だった。


シルが、顔を上げる。赤くなって、ぐじゃぐじゃになって、悲しげで、なのにとても美しかった。



「ハクタくんは、いい人です。シルが恋したのが、あなたで良かったです」



シルは思う。他人を愛することが、これ程辛いことなら、恋なんて無くなればいいと。


だが、一方で、やっぱりあった方がいいと思う自分がいるのも本当だ。



「じゃあ、ハクタくん。始めますよ。」


「頼む。本当に、ありがとう」



遠慮して距離を置いていた三人のうち、レアが近づく。逆に、男二人は遠ざかった。




ああ、死ぬのか。ハクタは思う。だが、今は、たった一人で夜の闇に紛れ、ひたすらに命を奪い続け、狙われ続けたあの時に味わった死の恐怖はない。自分の愛した、自分を愛してくれた人が隣にいてくれるから。


ハクタは、自分の呼吸は浅くなっていることを自覚した。だが、苦しくはない。ここまできて、こんなことを頼んでも、ハクタのために全力を尽くしてくれるシルに、ハクタは何か分からない温かさを感じる。



「ハクタ。あなたは、この街の英雄であり、歴史に残る英雄です。……ごめんなさい。泣くのは私じゃなくて、ハクタであるべきなのに」



ハクタの隣で、レアが泣いていた。見送りの言葉を言おうとするが、感極まって言葉にならない。



ハクタは、無言で片手でレアの顔を優しく撫でる。



「ありが、とう」




ハクタはポツリと一言こぼし。





シルに抱きすくめられ、絶命した。

















シルは、動かずに、無言で泣きながら、愛した少年の亡骸を抱きすくめる。



「……レア様」



隣にいて、同じように涙を流すレアに、話しかける。



「シルがしたことは、正しかったのでしょうか?」



「ええ、正しいわ。だってほら」



レアが、ハクタの顔を撫でる。



「こんなに、笑ってる」




シルは、ハクタを離し、その顔を見る。




確かに、酷く満足気に笑っていた。







「……ハクタくんはひどい人です。告白して、好きだと言ってくれて、直ぐに死んじゃうなんて」








シルが、美しく泣き笑いを浮かべる。

























































ハクタの死は、世間には公表されなかった。


ある日、ひっそりと旅に出た、と発表された。


彼の名は、大陸の歴史書に残された。だが、最後に彼が成した偉業については触れられていない。


それを知る四人は、墓場までその事を持っていった。







~完~


ここから先は、アフターストーリー的なものです。


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最後まで読んでいただきありがとうございました!!

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