後日談
ハクタがレアの手の中で気を失ったあとの話をしよう。
ハクタは気絶した時、出血多量で命が危うい状態だった。レアは直ぐに病院に運び込み、ありったけの回復薬を投与した。
だが、彼の鼓動と脈拍は弱くなるばかり。駄目なのか、と焦るレアに、力を貸したのはシルだった。
シルは、『肉体干渉』という個性を持っていたのだ。その能力は、自分の魔力を使い、手を触れている生物の、血流や体温、鼓動や脈拍に干渉できる、というもの。
シルは、ハクタに付きっきりで治療を続けた。魔力の使いすぎで自身が気絶するまでだ。
大量のポーションとシルの必死の看病により、ハクタの容態は安定した。
その後もハクタは眠り続けた。限界を超えた状態での『闘神』の使用が、肉体に少なくないダメージを与えていたからだ。
結果的に目覚めたのは、倒れてから一週間後の事だった。
ハクタが寝ている間も、様々なことが起こった。
街では、突然黒い結界に包まれ、何が何だか分からないうちに教会に避難させられた市民が、事実を求めてレアを訪ねた。
レアは、魔女軍のタナトスによる襲撃に始まり、三十万の敵軍を一人で滅ぼした英雄のことを、紙に綴って配った。
街では、老若男女問わず、床に伏して休んでいる英雄に感謝の涙を流し、彼が居る部屋に復活を願って手を合わせに行った。
また、街の唯一の被害である城壁を、英雄が起きた時、壊れた状態で見せる訳には行かない、と修繕が始まった。現場は凄まじい熱だったそうで、僅か三日で工事は終了した。
対外への影響も大きかった。何せ、龍山がおよそ二十キロに渡って崩落したのだ。また、天を焦がした黒き閃光は、その痛烈な光と、龍と言われても無条件に信じてしまいそうな程の迫力があったため、大陸全土で見えていた。
各国のトップが我先に、と街に来た。何せ、世界のどこよりも強力な力を持っているのは、疑いを持つ余地もなくここだからだ。レアを中心とした街のリーダー達は、その対応に忙殺された。
そんなかんやで、ハクタが目を覚ました時に、隣にいたのはシル一人だった。彼女は、ハクタの看病係として、ずっと付きっきりだったのだ。
シルはハクタの右手を、両手で優しく包んで、ベッドに頭を乗せて寝ていた。ハクタは、その頭を軽く揺すり、起こした。
そこから病院は大騒ぎだった。シルは起きた途端、ハクタに泣き叫びながら飛びついた。外で扉を守っていた衛兵が、中の騒ぎになんだと様子を見れば、大喜びしながら街に駆けていった。「英雄が目を覚まされたぞ!」と叫びながらだ。
結果、街中の人々が押しかけていった。報告を受けたレアは、謁見の約束をすっぽかして飛んで行った。すっぽかされた方の国の代表は、怒るどころかこれ幸い、とハクタに出会いに行った。それが一番の目的だったからだ。
ハクタとしては、まだ少しふらつくので休んでいたい所だったが、せっかくみんなが自分を見舞いに来てくれているのだから、と思って起きていた。
全員に握手を求められるのは、困ったが。何せ、腕が一本しかないのだ。時間がかかって仕方ない。
握手した時、人々はハクタの左腕が不自然に無くなっていることに気が付き、目に涙を浮かべて礼を言った。
さらに病院で過ごすこと三日。ハクタは全快した。
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「これでいかがでしょう?英雄様」
「試してみるよ。あと、英雄様なんて呼ばなくていいよ。ハクタでいい。」
「そんな!恐れ多い……」
「俺もそっちの方が話しやすいしさ。それでいいよ。」
「分かりました。ハクタ…さん」
まぁそれでもいいか、とハクタは笑う。
今いるのは、街で一番の腕、と評判の鍛冶屋だった。ハクタは、義手を注文していた。
特別な義手だ。関節は三百六十度回るようにして、出来れば穴を開けてくれ、と注文した。
注文から二日後、鍛冶屋から、試してくれないか、と連絡が来た。そして、今に至るのだ。
ハクタは、自身の左腕にそれを嵌めてみる。『黒魔』を使って、関節を動かしてみた。問題ない。穴から、『黒魔』を出して、操作する。問題ない。
見た目も、ごつくて迫力があり、黒光りのフォルムも気に入った。期待以上の品だ。
ハクタは満足げに頷く。そして、緊張の面持ちで見つめて来る鍛冶屋に、
「最高です」
と伝えた。
鍛冶屋は、大喜びで、いつでも手入れしますよ、と言った。
鍛冶屋から、今寝泊まりさせてもらっているギルドの宿泊所に戻る道中、ハクタは先日シルに聞いた魔女軍の話を思い出していた。
それによると、魔女というのは、七百年前に、世界の半分を滅ぼした悪の権化らしい。彼女の暴走を沈めたのは、後にも先にももう二度と現れないだろう、と語り継がれる伝説の英雄、「剣聖」だった。「剣聖」は、自身の肉体を強化する、というありがちな個性を持っていた。だが、その強化のレベルが段違いに高かったのだ。
剣の極道を究め、その天頂まで上り詰めたと言われる彼は、魔女と一騎打ちをした。結果、魔女は両腕と両足、胴体と首上の六つに切り裂かれ、海に沈んだらしい。
魔女軍は、魔女の復活を信じている集団らしい。それ以外のことはほとんどが不明。普段どこでどうしているのかも、どうやったら入軍出来るのかもだ。
魔女軍に狙われて、滅びなかった街はここが初めてですよ、とシルは言っていた。なんでも、七百年の間、時々現れては街一つを滅ぼして来たらしい。その狙い方も様々らしい。大きな街の時もあれば、記録に残らないほど小さな集落の時もあったそうだ。
共通していたのは、必ず、跡形もなく滅んでいたこと。
この話を聞いた時、ハクタには嫌な想像が頭に浮かんだ。そんなことはない、と否定はしているが、頭にこびりついてしまった。
ギルドに到着する。ハクタは、一つ試したいことがあった。
借りている部屋に入り、扉を閉める。誰も居ないことを確認し、右手でアダ グロサを呼び出す。シャリンと子気味良い音を立てて、現れた。
それを一度宝石の状態に戻し、今度は、『黒魔』を使って呼び出そうとする。
だが、宝石は宝石のままだ。
これに気がついたのは、昨晩だった。黒魔で伸ばした腕で、剣を振るえたら、相当強力なのでは、と思いつき、試そうとしたところ、黒魔で握ったアダ グロサが宝石に戻ってしまったのだ。
これもまた、自分の嫌な想像が本当かもしれない根拠の一つだ。
今夜は、レアやシルと、もてなし用の宮殿で夕食会がある。その時に、このことを話そう、とハクタは決めていた。実の所、そのために食事会を開くようレアに頼んだのだ。
その時、そんなことをしなくても、自分の予想が当たっているのかが分かる決定的な手段をハクタは思いついてしまった。だが、それは酷く恐ろしい方法だ。
やるか、やらないか、ハクタは迷いに迷った。
三時間後、ハクタは暗い気持ちを引きずって、レア達との約束の食事所へと向かっていった。
次回更新は明日の十九時。
次で最終回です。
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