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召喚、輪廻、そして世界最強  作者: 赤見 煌
最弱の召喚者は死後最強の英雄に成り上がる
19/27

闘神



「目を、目を覚まして!」


「ハクタくん!ハクタくん!」



誰かが自分を呼んでいるのが聞こえる。



ハクタは、朦朧とする意識を何とか動かし、焦点の定まらない目で発生源を探し求める。


ボヤっとして冴えない視界に、金髪が写った。



それを見た瞬間、何かがハクタの中で弾けた。



(くすりを、くすりをつかおう)


ハクタの意識が、再び帰ってくる。自分がどうするべきかが分かる。


ハクタは、血で重くなったコートの裏ポケットをまさぐる。その指が、二本の瓶を掴んだ。



震えながら口元に、黄色い液体が入っている方の瓶を持っていく。口で栓を抜き、零しながらゴキュコギュと飲む。冷たかった液体は、腫れ上がった喉でつまり、胃に行く頃にはぬるくなってしまった。だが、力が戻ってくるのが感じられる。



弱々しくハクタは体を起こす。今度は、出血が止まらない左肩に緑色の液体をかける。ジューと焦げるような匂いと音が発生し、白い煙が上がる。茶色く萎び、感覚が消えて動かなくなっていた歪な腕に、微かな力が戻ってくる。その切断面は、赤黒い肉が丸見えであり、でこぼこにへこんでいる。あまりにもグロテスクな光景に、思わず目を背けた。



治療される左腕から、激しい痛みがハクタの頭を打つ。だが、痛みを感じられることにハクタは満足する。




立ち上がろうとする。体内の血が不足しているため、足元が安定せず、結界に倒れかかるようにして何とか立てた。



世界にはいつの間にか色が戻り、黒い障壁の向こうに赤い夕暮れの空が広がっているのが分かる。



「ハクタくん!」



耳も聞こえる。自分を呼ぶ声が、背中から聞こえた。ハクタはゆっくりと振り向く。



そこには、泣きじゃくるシルと、固い決意に目を燃やすレアと、畏怖の視線を向けてくる衛兵達がいた。


「もう、充分です。あとは、私たちが引き継ぎます。」



レアが言っている言葉が分かる。



そして、ハクタはハッとする。



自分は言ったのだ。守ると。なのにも、諦めようとした。



(これじゃ、前と何も変わってねぇじゃねぇか)


痛みが、弱さが、ハクタに屈服を促す。もうこれだけやったんだから、こんなに頑張ったのだから、いいじゃないか、と。



(ふざけんじゃねえ)



言ったのだ。守ると。誓ったのだ。救うと。




ハクタの瞳に、再び光が蘇る。体は、まるで不死鳥のように再生を始めた。



結界越しで起こる奇跡の光景に、レア達は安心の表情を浮かべた。


しかし、それは直ぐに凍りつく。ハクタが、昨日の今頃と同じように、背を向けて敵に近づいて行ったからだ。



「待って!もう、無理よ!そんな身体で戦ったら、あなたは死んでしまう!」



レアの声が、聞こえている。だからこそ、ハクタは振り向かない。


もう二度と、敵に背を向けはしないと、決めたからだ。



自分は、なんて弱い人間なのだろう。なんて、卑怯者なのだろう。誰かが背を押してくれないと、簡単に立ち止まろうとする。



レアの言葉がそれをハクタに自覚させる。お前は情けないと。不甲斐ないと。


それは、単純な戦闘力に寄るところでは無い。力の一点だけで言えば、ハクタは他を寄せ付けない。今こうしてレア達の首が繋がっているのは、ハクタのおかげと言えるだろう。



だが、そういうものでは無い、人としての強さをレアは持っていた。



少年の心で、消えかけていた灯火が再び燃え上がる。





全身は痛みでおかしくなりそうだ。だが、その痛みがハクタの意識を鮮明に保つ。残された隻腕で血の滴る黒剣(アダ グロサ)を握りしめ、まだ微かだか自分の中に魔力があることを確かめる。



即席で張った結界の耐久値はもう切れそうだ。前方で狂ったように結界を叩く傀儡兵を、後方で今か今かと待ち構える傀儡兵を、必ず滅ぼしてやるーーその決意が、ハクタの心の導火線に火をつける。



守ると言ったから。誰も、傷つけさせないと誓ったから。



脳裏に、レアの優しい笑顔が浮かぶ。一度目の生の時、不安で不安で仕方なかったハクタを、励ましてくれた強く美しい彼女の記憶だ。



脳裏に、シルの無邪気な笑顔が浮かぶ。天真爛漫を人の形にしたような、天然で少し抜けたところのある、可憐で花のような彼女の記憶だ。



それらが、ハクタが剣を手放すことを許さない。



(戦え!殺せ!力があるから!まだ動くから!同じ轍を踏んでたまるか!俺は、俺はーー)



ーー俺は、勝つ



ハクタが望むものはただ一つ。それは、自分を讃える声でも拍手喝采でも、まして助けの手でもない。



誰も傷つくことの無い、勝利だ。完膚なきまでに敵を殲滅し、守りたいと願った、守ると誓った、守らなくてはならない光を、その手で掴み取る事だ。



結界が破られる。ハクタは、敵が来る前に自分から突っ込んでいく。



「っっぁぁぁああああああ!!!!!!!」



まさか、そんな力が残っているとは思っていなかったのだろう。最前列で、結界を壊した姿勢でまだ構えていない傀儡兵に、ハクタが飛びかかる。喉が張り裂けるほどの絶叫を上げ、一振で五つの首を刎ね飛ばす。


その断面は、惚れ惚れする程に鮮やかに斬られていた。ハクタの手には、全く抵抗が伝わらない。まるで空気を斬ったかのようだ。丸一日負荷を強いてもまるで刃が欠けない愛剣が、持ち主の闘志を、蹂躙を加速させる。



ハクタは、自分の中にかつてないほどの力の奔流を感じていた。どこからそんな力が湧いてくるのか分からない。だが、そんなことはどうでもよかった。



だが、もし、アビリティ・プレートを確認することが出来たなら、個性の欄に五つ目となる新たな個性が現れていることに気がついただろう。




・闘神 一時的に肉体と魔力を、神の能力まで底上げする。




新たな個性の発現。それは、ハクタの神と人とが混ざりあった肉体と、限界を超えてなお戦うことを選んだ精神が可能にすることだった。




ハクタが、圧倒的な強さで敵を蹂躙していく。傀儡兵が、ハクタの姿を探し求める頃には、その胴体は切り裂かれている。



魔法弾の数も、百に届こうかと言う勢いで発射され続ける。互いの着弾による方向転換だけでなく、『風操』による遠隔操作でさらに効率よく敵を屠る。



二の腕半分ほど残された左腕からは、瀑布の如き『黒魔』が放流され、敵を飲み込んでいく。




ーーもっと、もっと早く!早く!強く!



ハクタが、更なる進化を求める。それに、『闘神』が答える。



突然、その背から、漆黒の二枚翼が現れたのだ。両翼を広げれば、二メートル程の巨翼だ。



ハクタは驚いたが、直ぐに使う。動きがさらに俊敏になる。『風操』に頼って飛んでいたが、今は翼を使ってさらに自由に飛び回れる。その分浮いた魔力で、さらに傀儡兵を倒す早さは加速した。



気がつけば、残敵は一万ほどか。『闘神』状態になったハクタはまだ攻撃を受けておらず、このまま押し切れる、という確信を持つ。




だが、ハクタは忘れていた。結界が持つのは、二度日が沈むまで。そして、タイムリミットは、今だった。



突然、シュンと、街を覆っていた結界が消え失せた。内側にいたレア達は驚いて固まり、傀儡兵達も咄嗟のことに動きを止める。



不味い、とハクタが思った矢先、傀儡兵達は、逃げ込むように街に向かって駆け出した。



レア達は、無論応戦しようとする。衛兵達は鬨の声を上げ、レアはもう真っ白の魔法弾を撃ち込んでいる。



彼らが衝突しようとしたその瞬間ーー



一陣の風が吹いた。思わず、ピタリと足を止める両者。その隙に、ハクタは通路のように空いた両陣営を隔てる地面に、『黒魔』で全力で攻撃する。




「下がれれれれ!!!」


上空からハクタが叫ぶ。咄嗟にレア達は潮が引くようにスーっと下がった。



地面に、蜘蛛の巣のような放射状のヒビが広がる。それが広がるだけ広がった後、大地は轟音を立てて沈んだ。



ハクタは、地面を陥没させることで、レア達と傀儡兵がぶつかることを防いだのだ。



空いた穴は、飛び越えられる大きさではない。また、走って回り込むことが出来るほど小さなスケールでもない。




レア達は驚き英雄(ハクタ)を見上げ、傀儡兵達は憎々しそうに宿敵(ハクタ)を見上げる。



そして、両方の全人員の顔が凍りついた。上空に、凄まじい大きさの魔法陣が大量に展開されていたからだ。



「てっ、撤退!!」



何が起こるか瞬時に察したレアが、撤退命令を出す。





ハクタはそれを確認した後、さらに集中を深めていく。





「黒より黒く闇より深き漆黒を望みたもう。覚醒の時来たり。」



ハクタが、詠唱を始める。やはり、自分が詠唱している事は気が付かない。




「無諺の境界に堕ちし理。無行の歪みとなって現出せよ!」



血染めの赤い空に、漆黒の翼を広げた死神が舞い降りた。背負うのは、この世のものとは思えない超巨大魔法陣。異常なまでに煌々と輝く純黒が危険を醸し出す。美しい幾何学模様が幾重にも重なり、空を彩る。



「我が力の奔流に望むは比類無き崩壊!万象を灰塵に還す深淵よ来たれ!」



空に黒い稲妻が駆け回る。天が鳴き、地が震える。

感情が無いはずの、死を怖がる訳のない傀儡兵が、ハクタを恐れる。逃げ先を探すが、無意識層で動く『黒魔』が容赦なく行く手を阻む。


「これが、我が最強の一撃!(アーバー)魔力(ディアブレリー)(アーティレリー)!!!!」



カッと、世界が黒い光で覆われた。



ハクタが放ったのは、魔力を出来る限界まで溜め込んだ魔力砲。直径が一キロ程もありそうな超巨大レーザー砲が、何十本も傀儡兵達に突き刺さる。



音すらも置いていく速さ。触れたものを片っ端から存在を消していく最強の一撃に、文字通り大陸が揺れた。



遥か上空から放たれた魔力砲は、傀儡兵を一瞬で分子レベルまで分解される。同じ場所に撃ち続けては大陸を貫通してしまうため、ハクタは、遠くに微かに見える龍山ーー天界から戻る間際に、ミカルに教えてもらった山ーーを狙う。




約五秒程度発射されたあらゆるものを壊滅される光線は、終わった。



それは、三十万の敵兵をたった一人で迎え撃ち、勝利をもぎ取ったことを告げていた。



「ふうぅ」



ハクタが、疲れ果ててため息をつく。



その直後。



スドォンという轟音とキノコ雲を上げて、山が崩れ落ちた。



「……うそん」



ハクタは呆気を取られた顔をする。



ーーとりあえず、レアの所へ行こう



もしかしたらやらかしたかもしれないが、多めに見てもらうことを期待しながら、ハクタは漆黒の翼で飛んでいく。



しかし、『闘神』は、一時的な体の超強化。当然、反動も大きい。



張り詰めた集中が切れ、もう敵は全滅した、と安心したハクタは、急速に意識を失い始めた。



ハクタは地面に落ちていく。このまま染みになってしまうのか、そんな結末嫌だ、と思うが、限界を超えていた体は動かない。



ぶつかる、と身を固くした時。



ボフッと誰かに受け止められた。



目を開ければ、レアの顔。



「ありがとう」



ハクタは、最愛の人の手の中で、今度こそ意識を手放した。

次回更新は明日の十九時。


最終話まで残り二つです。


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