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召喚、輪廻、そして世界最強  作者: 赤見 煌
最弱の召喚者は死後最強の英雄に成り上がる
17/27

開戦


ハクタの心の中を、絶望感と悲壮感、焦燥感が支配する。



これを倒せば、これさえ乗り切れば、という思いで仇敵(タナトス)と死闘を繰り広げ、勝利を掴み取った矢先に、今度は三十万の敵兵の襲来だ。



眼下に広がる大地の遥か向こうに居る奴らの、進軍速度から判断して、強敵であることは間違いない。ハクタは元の世界でひと時ではあるが陸上界に身を置いていた。だからこそ分かる。こんなにも荒れた道を、走りにくい大群進行であそこまでのスピードが出るのは、集団の全員が人外の身体能力をもっているからだと。



まさに、一難去ってまた一難。もう時間も大して残されていない中で、ハクタは対応を迫られる。



三十万の敵兵を、一人の犠牲者も出すことなく退けるにはどうすれば良いか?




焦り思考が思うように固まらないハクタの脳裏に、ある記憶が鮮やかに蘇った。それは、一度目の生で、レアが結界を使って教会を守っている映像。



ハクタの頭に、一つの作戦が浮かび上がる。




ハクタは、決心を固めた顔でウンウンと頷く。そして、今いる城壁の天頂から守り抜く街の大きさを確認する。しかし、街は思っているよりも大きく、一番端までは確認できない。



仕方ない、連続ジャンプでさらに上を目指すか、と考えたハクタは、ふと思いついてアビリティ・プレートを黒コートの懐から取り出した。確認したいのは、個性の欄だ。



「やっぱ、増えてるな」



ハクタは、思った通りのデータに、満足気に呟く。そこには、タナトスと戦う前にはなかった二つの個性が書かれていた。




・風操 掌、足の裏から風を出すことが出来る。魔力を消費する。


・黒魔 自身の左腕から、変幻自在の黒い力が出せる。全ての負担が左腕にかかる。





タナトスの個性だろう。特に興味を惹かれたのは、『黒魔』の方だ。



「全ての負担が左腕にかかる……?」


試しに使ってみる。軽く念じただけで、滑らかに黒い炎が左腕から上がった。そして、分かった。



「魔力消費がねえ」



つまり、この黒魔という個性は、魔力を使うことがない。本当に全ての負担が左腕にかかるのだろう。ハクタは、出す量を変えたり形を変えたりしてみる。やはり、一度に沢山使ったり素早く動かしたりすると、負担は重くなるようだ。



風操の方も使ってみる。やはり、こちらも使い方で魔力の消費の仕方が変わる。ハクタは城壁からピョンと飛び上がり、タナトスのように飛ぶことを試みる。割と簡単に出来た。それから地上に降りるまでの間、だんだんに激しい動きを入れるが、完璧に操れる。機動力だけでなく攻撃も出来ることを考えると、かなり使い勝手のいい個性だ。



また、どちらにも、負荷がその効果に対して比較的少なくハクタには感じた。手に入れたばかりではあるが、積極的に使えそうだ。



タナトスが二つの個性を持っていたことが気にかかるが、今はそんなこと気にしている場合ではない。ハクタは頭を切り替える。



「さて、と」



地上に降り立ち、ハクタは街に目を向ける。風操で城壁よりもさらに高い位置まで飛んで行き、形と大きさは把握した。



ハクタはゆっくりと目を閉じる。手を祈るように胸の前で指を絡める。何もかも入ることの許されない集中の海に沈んでゆく。世界から、音が、光が、時間が消えていく。



「立てた誓を守るための最終線(セミコロン)よ」


ハクタの口が、美しい調べを奏で出す。だが、本人はその事に気づいていない。ハクタは、自分の中の無意識層にある、本能で詠唱を始めていた。



「我は、命じる。為せる極点の能力(ちから)をここに見せよ」



死闘の後の、荒んだ大地に、美しい超巨大魔法陣が次から次へと出現する。ハクタの周りは、それでも抑えきれない魔力がスパークし、黒い火花が散っている。



「最愛を護るべく、顕現せよ。漆黒の盾(ウンラインシルト)!」



並べてしまえば、少ない言葉。だが、ハクタは、五分以上をかけて詠唱した。極限まで溜め込まれた魔力が、個性『超結界』として顕現するーーー!



空気は余りの魔力量にビリビリと震え、一泊置いて、

街全体を覆うように(・・・・・・・・・)黒い超結界が張られた(・・・・・・・・・・)



これこそがハクタの作戦だった。レアが教会を守るために丸ごと超結界で囲ったように、ハクタは街ごと全て囲いこんだのだ。



城壁の内側に新しく出来た守護神は、真っ黒で半円球状だ。その強度にハクタは満足感を覚える。体は魔力を底がつくまで使い果たしたせいでかなりの倦怠感があるが、いずれ回復するだろう。



ハクタはタナトスが空けた城壁の大穴から外を見る。遥か地平線の向こう、僅かだが蠢く傀儡兵達が見える。




ハクタはフゥーと深呼吸をする。自分が無謀な手に出たのは分かっている。本当なら、レアや街の衛兵と力を合わせて戦うべきなのだろう。



だがそれをしてしまえば、必ず犠牲者はでる。それは絶対に許されないこと。




ハクタは堅く剣を握りしめる。タナトスとの戦いで、心の中には、死の恐怖が植え付けられていた。



天界での復活を前提とした死とは別物。失敗すれば、もう何も残らない死だ。自分の好きな物も大切な物も見てきた物も触れてきた物も、ーー自分の全てが蒸発する、あの恐怖だ。




「ハクタくん!」



一人来る戦場にたたずむハクタに、唐突に声がかけられる。



ハッと振り返れば、シルとレアとたくさんの衛兵が結界の中からハクタを呼んでいた。



「この結界は、どういうことですか!?もう襲撃者は倒したのですか!?」


シルがものすごい剣幕でハクタを問い詰める。



ハクタは少し押され気味に答えた。


「襲ってきたやつは、魔法で粉々にした。でも、今から三十万の傀儡兵が来るらしいから、戦おうかと……」



三十万という圧倒的な数字に場が凍りつく。皆の顔がサッと青ざめ、動揺が見て取れた。


一人を除いて。


「なら、この街の兵士と私も助太刀します。この結界を、開けてください」



凛々しい声で話に割って入ったのは、レアだ。



「そいつは無理だ」


ハクタは答える。


「この結界は、俺の命と繋がっていて、万が一外れたりしたら俺も死ぬからな」



無論、嘘だ。しかし、かつてハクタが出来たように、レアもこの結界を解除することは可能だろうと思い、咄嗟に口から出た。



「俺がどうにかするから、みんなは逃げ……」


「一人で戦うなんて自殺行為です。絶対に許せません」



レアがハクタの言葉を遮って反対する。隣にいるシルは祈るような表情で激しく首を上下に振った。



「それじゃあ、ダメなんだ」


ポツリと口から零れるように、ハクタの声が漏れでる。



レアは何かを言うように口を開ける。だが、ハクタの顔に浮かぶ濃い苦痛の色に、何も言えない。




「……絶対に、守るから。」


ハクタはくるりと皆に背を向ける。小刻みに震えている背中が妙に小さく見える。



このまま行かせたら、もう二度と帰ってこないんじゃないかーーレアは思った。



だが、去り際に見せたあの表情が、呼び止めることに二の足を踏ませる。あれは、他人がどうこうすることの許されない種類の絶望だった。




シルや衛兵達も、最強の英雄の垣間見せた弱さに、何も言えず立ちすくむ。




結局、どんどんと小さくなって行く姿を、誰も呼び止められなかった。





夕暮れの、異常な程に赤く染った空が、不吉を伝えてならなかった。

















ーー怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い



ハクタは、怯えていた。死の予感が胸にこびりついて離れない。



今いるのは、タナトスがぶち開けた大穴の外側。敵の軍勢は目に見えるところまで迫ってきている。




全身が武者震いをし、心臓は早鐘を打つ。






逃げ出そうとする体を、怯えて縮こまる心を、叱咤する。脳裏に、レアやシルの笑顔を思い出し、あれを必ず守るんだ、と自分を激励する。




いつの間にか世界は血染めの夕暮れで赤く染まり、ハクタにはそれが不吉に思えて仕方ない。




未だ魔力は思うように回復していない。万が一を考えると、使用は控えたいところだ。





迫る傀儡軍は、何やら一人でちっぽけに立つ少年に気がついたようだ。城壁と五十メートル程の距離で、進軍を止めた。




ーー行くぞ




怯える心を、震える身体を、小さな追い求めた希望を掴むために、前に進ませる。



ハクタはアダ グロサを顕現させる。脇を締めて顔の横に構える。



すうと息を吸い、包囲する無限とも思える全ての敵に届けと、ハクタはーー咆哮する。



「ここにてめぇらの敵はいる!街に攻めたいなら、俺を殺してみろ!!!」




全ての物音が止まる。




一泊。






たった一人で三十万の大軍に立ち向かおうとする身の程知らずに、傀儡兵達が飛びかかった。

次回更新は明日の十九時。


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