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召喚、輪廻、そして世界最強  作者: 赤見 煌
最弱の召喚者は死後最強の英雄に成り上がる
15/27

狂乱



初撃は、ハクタの黒結晶だった。まるで山のような迫力でタナトスを強襲する。



タナトスは、体を捻りながら、弾丸の雨を中を切り抜ける。避けきれないものは全て三日月に剃りあがった凶悪なフォルムの双剣で迎撃していく。表情は益々愉悦に歪んでいき、恍惚とした声でハクタに呼びかける。



「いいね!いいさ!いいかな!いいとも!いいじゃん!いいわ!いい!いいんだ!いいよ!この殺意!この敵意!この死を前にした!高揚感!甘い!苦い!辛い!酸っぱい!もっと!もっとボクに!」



まさに狂人。全身は間違った歓喜に震え、ただ純粋に『死』を愉しんでいる。口からは泡を吹きながら嗤い、壊れたようにナイフを振り回す。



タナトスは、反撃に転じた。黒い閃光の下を、身を低くし恐るべき速さでハクタに急迫する。



瞬く間にハクタの足元まで来たタナトスは、左手のナイフで足を斬りさこうと振り抜く。だが、既にそこに標的はない。ハクタは大きく飛び上がり、空中でクルクルと回転してたっぷりと遠心力を載せた黒剣でタナトスの頭上をかち割ろうと振り下ろす。



タナトスはそれを、右手のナイフ一本で受け止める。ハクタの目が僅かに驚いたように見開かれた。それもそうだろう。自分は上から落下速度に遠心力も加えて攻撃したのだ。それを、刃渡り三十センチ程のナイフ一つで受け止められたのだから。



だが、それがどうしたと言うのだろう。ハクタは隙を作らずに、超至近距離から全力で魔法弾攻撃をする。回避不可の超威力の穿襲を、タナトスは左手のナイフと蹴りで薙ぎ払う。両足が宙を遊んでも、ハクタとしのぎを削るナイフは弾かれることなく相手の刃を滑らせるようにして押し返すのだから、タナトスの技量は押して図るべしだ。



二人は、飛び退くようにいて距離を取った。タナトスは、心底気持ちの悪い悦みを顔中に張り付かせる。


「動きながら、それだけの魔力を使える!素晴らしいよ!この三百年!こんな死合いを待ちわびていたよ!もっと!ボクと踊ろうよ!ボクを!愉ませてよ!」





ーーコイツ、さっきから何を言ってやがる



ハクタは思う。まるで別人のようになって名乗りを上げた時には、魔女軍序列第六位、と言っていた。今は、三百年待っていた、と叫んでいる。


剣と剣でぶつかり合い、もしかすると、とは思っていたが、


ーーやっぱ、人外かよ




ハクタは苦虫を噛み潰したような顔をする。詰まるところ、魔女軍とか言う連中がいて、そいつらは世界から恐れられている化け物集団と言ったところだろう。



タナトスで序列第六位なのだ。序列の五位以上や魔女本人はどれだけ強いのかと思うと、闘うと決まった訳でもないのに嫌になる。



だいたい、タナトスはまだ本気で無いはずだ。ハクタは覚えている。レアとタナトスが闘ったとき、タナトスは風の魔法を使っていた。おそらくは個性だろうが、相当な威力を持っていたのは確かだ。




ーー奴がヘラヘラしてるうちに、方をつけてやる



ハクタは、瀑布の殺気をタナトスに叩きつけた。空気はビリビリと物理的に震える。それを細々とした枯葉のような体で受ける化け物は、死んだような全身の中で目だけが異常な程の光を放つ。ぐるりと大きく丸い眼球は、時を重ねるごとに、死をもたらそうとするごとに、殺されそうになるごとに益々危険で狂った輝きをその身に宿す。




「その目!その剣!その殺気!ボクを殺そうとしてるね!いいよ!いいさ!いいかな!いいとも!いいじゃん!いいわ!いい!いいんだ!殺して殺して殺して!死んで死んで死んで!血!血!血!血!血!血!血!血!血が見たいから!こんなのはどぉ!!!」



タナトスは、無造作に腕を振る。身構えるハクタに、強烈な風が襲いかかる。噂をすればなんとやらだ。ハクタは魔法の盾を瞬時に創り、一歩も引くことなく防御。しようと思った。


「!!?」


タナトスの攻撃は、予想をはるかに超える威力だった。ハクタの黒盾は壊れることこそなかったものの、大きく後ろへ弾け飛ばされたのだ。ハクタもそれに合わせてスっと下がる。




なんだあの威力は、とハクタが顔を上げた時には、既に第二陣三陣と風が押し寄せてきた。



「くそっ!」


ハクタは魔法の盾を連続で創り、時間を稼ぐ。転がるようにして、風襲の射線を外れた。



「どこを見てるのさ!」



体を起こし、剣を構えると、目の前にはタナトス。両手のナイフが蛇のようにハクタの喉元と腹とを狙う。ハクタは膝を折って一本目を躱し、二本目はアダ グロサで受け止める。その動作が終わらないうちに、ハクタは黒水晶で、タナトスは風襲で相手に追撃をし、自分の身を守る。



そこからは、超近距離戦。互いの腕が、足が、体があまりの速さに何重にもぶれ、黒き幾数もの閃光と不可視の突風とが相手を穿ち吹き飛ばす。



その有り余る威力に、大地はどんどんヒビ割れ、没落して行く。ハクタとタナトスのあまりの速さゆえ、舞い上がる砂埃さえも肌を刺し、小さな切り傷となって血を流させる。



ハクタが剣を振り下ろせば、タナトスは身を呆れるほどに柔らかく使って受け止める。返す刀で、今度はタナトスがハクタの脇の下を切りつけるようにナイフを投げる。ハクタは素早く身を翻し回避。空中でも、一秒たりとも敵からは目を離さずに、隙を作らずに着地。



これらの目を剥く展開の攻防は、常にハクタは魔法を、タナトスは風の個性を使い同時並行で行われる。



ここで、ハクタに取って予想外のことが起こる。タナトスが投げたナイフの片割れが、ブーメランのように回転しながらハクタの背後に迫ってきたのだ。



「っ!!」



ハクタは咄嗟に魔法弾でたたき落とす。そこに、僅かなーー本当に、僅かな隙が生まれた。そして、それはこの完璧完全な戦闘で、決定的な隙を作った。



「頑張った!頑張ったよ!でも!勝つのはボクさぁー!!」



タナトスが心底嬉しそうに嗤いながら、双剣の片割れを心臓に向かって一直線に突き出してハクタに急迫する。


ハクタは焦り、慌てて魔法の盾を生成。



だが、それこそがタナトスの狙いだった。突き出したナイフがハクタに届くより先に、風の斬撃が襲ってきたのだ。



ズレたタイミングに、盾はその力を十分に発揮することなく、あっさりと砕け散る。威力が衰えることなく風はハクタに迫る。



「ここまで!バイバイ!」



タナトスが狂声を天高く響かせ、トドメをさそうと突進する。




常人なら、もう諦めて死を受け入れてしまうだろう。しかし、ハクタの目から、不屈の意思が、抵抗の光が消えることはなかった。



「るせぇんだよごちゃごちゃごちゃごちゃと!!」



ハクタの裂帛の咆哮が、腹の底から迸る。気合いの叫びはそのままに、ハクタは迫る風を、剣で斬り裂いた。



驚きに目を剥くタナトスに、勢いに任せて回転しながら、ハクタは上段切りで襲いかかる。



タナトスは、ナイフで咄嗟に防御。ガギィンという甲高い音が鳴り響く。そして、タナトスの攻防一体だったナイフは、へし折れた。



「なぁ!バカな!この程度でなぜぇ!」




タナトスは、ここで初めて、化け物じみた歪んだ感情を引っ込め、人らしい純粋な驚きを露わにする。



タナトスは気づいていなかった。ハクタは、初撃の水晶の弾幕攻撃の時から、近接戦闘の間さえも、タナトス本人よりもその双剣を狙い、ピンポイントでダメージを与え続けていたことを。実力が拮抗しているからこそ、武器の破壊によって出来るであろう隙を狙っていた事を。



タナトスは苦し紛れに風撃で抵抗するが、ハクタは易々と魔法でいなし、再びアダ グロサを高々と振り上げる。



それを、いざタナトスを真っ二つにせんと振り下ろそうとした時。




ーーハクタの第六感が、大音量で警鐘を鳴らした。



脳が命じるよりも早く、体がその場を離脱する。ハクタが1秒前まで居た空間を黒い炎のようなものが呑み込んだのと、ハクタの脳に何故逃げた?という思考が到達したのは同時だった。




「ーーこれすらも、避けるのか」



タナトスが、ポツリと零す。



その姿は、今までとは別人だ。どこか真剣味に欠けていた雰囲気は掻き消え、全身から殺気が濁流のようにうねる。顔からはあらゆる感情が抜け落ち、ただただ虚無が広がっていた。その醜いやせ細った土気色の肉体は、ドクドクと青い脈流が浮き出ている。



何よりも、左腕の肌全体を黒い霧のような炎のようなものが舐め出ていることに、ハクタの本能が危険を伝える。



タナトスが、ゆっくりと口を開く。



「魔女軍序列第六位として、告げる。貴様は、失うには余りにも惜しい人材。我らと共に、魔女様の復活の一端を担うつもりは無いか?」


「お断りだな。魔女だか何だか知らんが、心に決めた女の子はもう居るもんでね」


「残念だ」



ハクタはきっぱりと断る。その頬は冷や汗が滑り落ち、全身に鳥肌が立つ。


ーーあの時と同じだ


ハクタは思う。初めてタナトスと出会い、命を弄ばれた時。ガブリルと戦闘訓練をした時。



そう。絶対強者と相対した時の、あの緊張感だ。



「では、死ね」



タナトスが、無機質に言う。口調も変わり、声の高さも変わっている。



その左腕からは、霧がぶわりと噴き出した。黒一色のそれは、ハクタの魔法の黒とは真逆の印象を与える。絶望と苦痛。虚無と恐怖。



自分など軽々と呑み込める大きさまで高く天に上がった黒炎に、ハクタは鼓動が激しくなる。


胸を負の感情が巣食い、今すぐに全てを投げ出し、背を向けて逃げ出したくなる。


だが、それは許されない。過去の自分が、今の自分が許さない。


ーー絶対に、負けねえ



ハクタの目に強い強い意思が宿る。それは、不屈の光。ハクタの強さの根幹であり、かつての自分を超え、薄い希望を掴み取るために足掻き続ける原動力だ。



ハクタは愛剣を正中に両手で握り構える。自分よりもはるかに大きく、強い敵をキッと睨みつける。



タナトスの無機質な目が、少し細められる。左腕の揺れる黒霧は、食事を前にして我慢しきれずに身を震わせる肉食獣のようだ。





死闘の、第二ラウンドが始まろうとしていた。





そして、それは五分程度で決着がつく。






結果、立っているのは、一人のみだった。


次回更新は明日の十九時。


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