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召喚、輪廻、そして世界最強  作者: 赤見 煌
最弱の召喚者は死後最強の英雄に成り上がる
13/27

帰郷


ーー戻ってきたか


往来の激しい石畳の上、少年は安堵する。



人の目を引く少年だ。



長いとも短いとも言えない白髪。力を感じさせる精悍な顔立ち。引き締まっていてより大きく見える身体は、身長180cm、体重80キロ程度だろうか。それを包む服は、黒一色のコーディネートである。

靴まで黒ブーツの彼は、その体型と相まって、闇の世界の英雄のようだ。



年頃の女の子達は優れた外見の少年に憧れの目線を送り、小さな男の子達は勇者のような少年に目を輝かせる。



そんな数多の視線を気にすることも無く、少年は軽く身体を動かす。何かを確認したのだろうか、うんうんと頷いた。



そして、周りには聞こえないような小さな声で、だが、確かに、


「リベンジだ」

と呟く。




彼ーーシンザキハクタは、何者かの嘶きの響く蒼く大きい空の下、気を引き締め逆襲の狼煙を挙げんとしていた。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー








ーーギルドって、どこ?



ハクタは、神の言っていた通り、とりあえずギルドに行こうとしていた。ところが、肝心のギルドがどこにあるのかが分からない。



余裕があれば、異世界散策がてらにフラフラとしながら探してもいいのだが、何せ今は時間がない。残り三時間で襲撃は始まるのだ。




飛んでくる巨岩を砕くことも念頭に置いていたが、その場所も分からない。分からないことだらけのハクタは、世界地図なんぞ見てる暇が合ったらもっと聞くことがあったな、と自虐的な笑みをこぼす。



最悪、「アビリティ・プレート」は諦めて、巨岩も来てから魔法で迎撃するか、と出鼻をくじかれた形の思考をするハクタの近くで、バキャっという音が鳴った。




驚いて音の方向を振り返ったハクタの目は、そこでアタフタと地面に転がった果実のようなものを拾い集める少女を捉えた。



ハクタは小走りに近づいていく。「手伝いますよ」と言って、一緒に拾い、彼女の持つ紙袋に入れる。赤いレモンのような果実は、ハクタの鼻に柑橘系の香りを運んできた。




「あ、ありがとうございます!」



舌足らずにそう言い、彼女は顔を上げる。



ーーうひゃぁ



彼女は、とっても可愛かった。セミロングの赤い髪に、大きくクリクリっとした目。胸が小さめなのがまた良い。何よりも目を引くのは、彼女の頭でピコピコと可愛く揺れる耳だった。




「私の顔、何かついてますか?」



食い入るように見つめるハクタに、困ったように彼女は尋ねる。ハクタは「あっいや、そのぉ……」と適当に言葉を濁し、ふと、



「ギルドってどこだか分かります?」


と苦し紛れに聞いた。



「分かりますよ。私も行くところなんで、一緒に行きましょう」



予想外の展開である。その場しのぎにとりあえず出した一手が、思わぬ効果を発揮してくれた。



「お願いします」


ハクタはぺこりと頭を下げ、この美少女獣耳っ娘と街を歩ける幸運を噛み締める。

















「ここがギルドです、ハクタくん」


「ありがとう、シル」



ハクタと赤髪のケモ耳少女は親しげに話す。



ここまでの道中、彼らは互いに自己紹介をして、いい具合に距離を詰めていた。



彼女の名前はシル。ギルドに勤め始めて一ヶ月の新米社員らしい。ギルドで不足していた「カバンの実」という果物の調達から帰る途中にハクタに出会った。



「ハクタ様はどうしてギルドに?」

というシルの質問に対して、

「アビリティ・プレートを作りたいんだ」

とハクタが答えたところ、


「じゃあ年齢は十六?私と同じじゃないですか!」


と言って、そこからはトントンにいい雰囲気となり、今では「ハクタくん」「シル」と呼び合う仲に発展したという訳だ。




ーーシルはとてもいい人だ



ハクタは思う。場をうららかに和やかに暖め、明るくコロコロと笑う。話もプライバシーに触れるほどではないが、互いに分かり合えるようなものを振ってくれる。




「ありがとう、シル」



もう一度言い直したハクタを、少し不思議そうにシルは見る。



「じゃあ、開けるぞ」



ハクタはシルの後ろから手を伸ばしてギルドの扉を押し開ける。シルの両手は、紙袋で塞がっているからだ。



ギィと木製の扉は少し軋み、シルが元気な挨拶と共に入っていく。



「ただいまシル、戻りま……」



だが、その声は、途中で尻すぼみに消えていき、シルの表情は凍りついた。



「ああ、いたいたシルちゃん。探したよ」



そう言ったのは、ギルドの奥、カウンターのような場所で傍若無人の体で机に座って足を振る男だった。金色の長い髪は本人はおしゃれのつもりかもしれないが、傍から見たら鬱陶しくて仕方ない。




男はシルに大股で近づいていく。そして、キザな口調で話しかける。


「こんなところ居ないでさ、僕と遊びに行こうよ」


「い、嫌です」


「そんなぁ、連れないなぁ。この金ランクの『狩人』が誘ってるんだぜ?さぁ行った行った」



そう言って男は、キザで下卑た笑みを浮かべ、シルの手首を掴む。



あっと言って、シルの手からは紙袋が落ち、果物の転がる音が妙に虚しく響いた。



ギルドの職員がちょっと、と言って立ち上がり、中に居合わせた冒険者のような男達も止めに入ろうとする。



だが、彼らよりもいち早く、金髪キザ男の手を掴み、振り払ったのは、ハクタだった。



「シルが嫌がってんだろ」



ハッとした表情でシルはハクタを見る。ハクタは自分の背にシルを隠すように、男とシルとの間に割り込んだ。



こうして並ぶと、男はハクタよりも遥かに上背がある。自然、相手は見下ろすように、ハクタは見上げるようになる。二人の間には緊迫した空気が流れ、シルは焦りの表情を浮かべる。



金髪男は少し苛立ったように、ねちっこい口調で話す。


「きみぃ、この僕が、金ランクの『狩人』であることを知っての行動かい?」


「すまんが、『狩人』なんて名前は初耳だ」



ハクタにとっては至極当然のことを言ったまでなのだが、『狩人』様の癪に障ったらしい。狩人は額に青筋を浮かべ、


「なら教えてやる。俺はな、この大陸にいる全冒険者の中で、五本の指に入ると言われている凄腕だ」


と言い放つ。



狩人としては、きっとこれでハクタがびびったと思ったのだろう。再び余裕を取り戻し、芝居がかった仕草で髪を手でかきあげ、重ねてこう言った。



「だから、僕には逆らわない方が身のためだ。大人しく、シルちゃんから離れな」


と。




だが、ハクタは、あろう事か。狩人の言葉を、馬鹿にするように鼻で嗤ったのだ。



「何が凄腕冒険者だ。女の子一人もろくに誘えないやつが、笑わせるぜ。残念勘違い野郎五本指じゃねぇのかよ?」



場と空気が凍りつく。シルは青ざめ、冒険者達は無名の命知らずに驚き呆れ、ギルド職員一同はどうすればいいかとオロオロとする。



「てんめぇ!!」


狩人が、激昴し、ハクタに殴りかかってくる。その拳は、音速に迫る速さでハクタの頬に突き刺さる。



シルは思わず目をギュッと閉じ、その一泊後にゴキっという嫌な音が鳴った。



そして、上がった悲鳴は、狩人のものだった。



ーーえっ?


困惑したように、シルが目を開く。その綺麗な宝石のような紅の瞳に写ったのは、繰り出した拳をハクタに握り潰され、顔を痛みに歪める狩人の姿だった。



ハクタは、無表情で狩人の脚を強く払う。手を掴まれたままのせいでろくな受身もとれずに地面と激突する狩人。ハクタは情け容赦無用、と言わんばかりに、そのがら空きの首筋に手刀を叩き込んだ。


狩人の四肢がピンと張る。そして、呆気なく伸びてしまった。



無名の少年が、有名で傲慢な悪雄をあっさりと倒した一幕を見た人々は、皆目を丸くして度肝を抜かれたような顔をする。



「あ、あのハクタ?あなたは一体何者なの?」



シルが、この場全員の疑問を代表して、ハクタに問う。



ハクタは、畏怖さえも感じさせる真剣な眼差しを向ける沢山の人に少し困ったように笑いながら、



「通りすがりの、無職です」



と、おどけたように言ったのだった。








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー











「ギルド一同、お礼申し上げます。シルを助けていただき、ありがとうございました」



「いえいえそんな」



ハクタはヒラヒラと手を振る。



「以前から、『狩人』はシルを付け狙っていて、困っていたんです。どうにかしなきゃ、とは思っていたのですが、何せ腕っ節は確かなものなんで……」



「まぁ、力に慣れたなら、何よりです。それよりも、アビリティ・プレートを作ってもらいたいのですが」



頭を代わる代わるに下げるギルド職員に、気にしないで、とでも言うように目的をハクタが告げる。



「アビリティ・プレートならシルが作りますよ、ハクタくん」



脇から、シルがぴょこぴょこと跳ねながら自己主張する。その目には、さっきまでとはまた違った熱で潤っていた。



「そうか、じゃあお願いしようかな」



そう言って、ハクタはカウンターを挟んでシルの目の前に立つ。嬉しそうに頬を染めて笑うシルと、鈍感になにも気づかないで話すハクタを、周りの人は生暖かい目で見守る。頑張れシルちゃん、という声が聞こえてきそうだ。



「アビリティ・プレートを創る時は、持ち主の血が必要です。極々少量でいいので、失礼します」


シルはそう言って、カウンターの上にあるハクタの右手を、カプリと噛んだ。



「ちょっ!ちょっシル!?」


「大丈夫ですハクタくん。シルは、狼族の家系なので、痛くないはずです。」


「いや確かに痛くはないけれども!」


「終わりました」



ふぅ、とシルが色っぽく息を吐き出す。その肌は妙に火照り、目は濃艶に濡れ揺らめく。


とても十六歳とは思えぬ妖艶なシルに、ハクタはタジタジだ。



大人の冒険者は「若いな」とでも言うかのように軽く笑って見ているが、まだまだ駆け出しの連中はそうも達観出来ない。「あんのやろぉ」という嫉妬の目線を向けてくる。




「では、始めます。」



そう言って、シルはハクタの前に銅のような質感の、手のひらには少し大きい板を出す。


シルは、チロリと出した舌を、指で軽く拭く。そして、指先に付いたハクタの血を、撫でるようにして板に塗りこんだ。



すると。板に赤い文字が美しく刻み込まれ始めた。決められた溝をなぞるように、スピーディーにブレなく赤い閃光は表面を駆け抜ける。


直ぐに完成したアビリティ・プレートをシルは手に取る。


「ハクタくん出来ました……ってえぇぇええ!!!」


シルが、大声で叫ぶ。何事だ、とギルド中の視線が集まった。



シルは慌てて「ごめんなさいごめんなさい!」と連呼し、なんでもないことを知らせる。



「どうしたんだ、シル?」



ハクタが訝しんで聞く。



「いえその…ハクタくんのアビリティがあまりにも異常な程に高かったので、驚いてしまって」


興奮冷めやらぬ、と言った様子で、シルはアタフタと話す。


「普通の衛兵だと、一つのアビリティ数値は通常五十程度。百を超えるアビリティがある人は、そうそういません。大陸全土で八人しか居ない金ランクの中でトップの『剣光』でさえ、平均アビリティは百二十と聞いています。ですが、ハクタくんの場合は……」



語尾を濁し、シルがアビリティ・プレートを見せてくる。その数値はなるほど、驚いて叫んでも仕方のないものだった。







シンザキハクタ 男 16歳 職業 未定



筋力 2054

魔力 2010

耐久力 1908

治癒力 2508

俊敏力 1956



個性

・模倣・・・直接肌を合わせた相手の個性が手に入る。

・超結界・・・魔力を使い、結界を張れる。ただし、二度日が沈むと消える。








「……シルが叫んでしまったのも、納得して欲しいのです」



自分のアビリティに呆気を取られているハクタに、シルが控えめに話しかけた。



一体、目の前の少年は何者なのだろう?とシルは思う。アビリティ・プレートさえ持っていなかったのに、金ランクを歯牙にもかけずに瞬殺したかと思えば、この異端のアビリティの高さ。


何よりも、個性を複数抱えていることに度肝を抜かれた。詳しい能力は見てないので分からないが、彼のことだ、きっと強烈なものなのだろう。


今はギルドの奥で大人しく寝かされている『狩人』が可哀想になる。さっき様子を見に行ったところ、いつもの自信はどこへ消えたのか、茫然自失でボーっとしていた。



「……ハクタくんは、無闇にアビリティ・プレートを他人に見せない方がいいでしょう。アビリティ・プレートは持ち主が望めば隠蔽と露見を操作出来ます。特に個性は、複数持ちは居るか居ないかという次元の話です。隠した方がいいとシルは思います。」


「分かった。ありがとな」




シルは思考の海に沈み、ハクタはアビリティ・プレートを物珍しそうに眺め、街は平凡を謳歌している昼下がり。



轟音は、突然響いた。





「!!?」



ギルド内がガタガタっという音で騒がしくなり、皆が一斉に外へ飛び出る。



見れば、城壁の方が土煙を上げていた。刹那、ヒュルヒュルという嫌な風切り音が頭上を通り過ぎる。ハクタには聞き覚えのある音だ。



ハッと合わせたように皆が一斉に振り返った。その視線の先では、まるで砲弾のような巨岩が、街に突っ込もうとしている。



「「「にげろぉぉぉぉーー!!!!」」」


幾人もの聞こえるはずのない警告が宙をさまよう。それは、向かうべき方向を見失い、悪戯に街をこだまするだけだ。



巨岩が街を粉砕し、多くの命を奪いさる。その景色を皆が幻視した。



一人の少年ハクタを除いては。






ギルド周辺の集団から、一陣の風が飛び出す。ハクタだ。



白い髪と黒いコートを風にはためかせ、宙で簡易的な足場を作り何度も加速する。あまりの速さに幾数もの残像が産まれは消え、自分たちを置いていった巨岩に一瞬で追いつく。



そのまま、追い越して前に回り込み、拳を一振。巨岩は砕け散った。



飛び散る破片も、魔法弾でさらに粉々にする完璧なまでの粉砕劇に、人々は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。



一泊置いて、爆発するような歓声が上がった。



だが、ハクタはとても喜ぶ気になどなれない。なぜなら、


ーーこれは、まだ始まりだ



ハクタは、土煙の上がる方向に向かって、超速で駆け出す。道中、「教会へ逃げろ!敵襲だ!」と叫ぶのも忘れない。



シルの姿が目に移り、スピードを緩めてハクタは止まる。消えたと思えば巨岩を粉砕し、凄いと思えば目の前にいるハクタに、シルは目を白黒させる。



「シル!これは敵襲だ!街の人を即刻教会に避難させるんだ!俺はレアを呼んでくる!」


「えっ、ええっ!て、敵襲とは……」


「いいから、みんなを教会に避難させるんだ!」


「わ、分かりました!」



驚く程に切羽詰まった声で叫ぶハクタに、シルは顔の色を無くす。金ランクに攻撃されても動揺ひとつ浮かべなかった男が、焦りを表に出して警告しているという事実に、事の重さを敏感に感じ取ったのだ。



「ハクタくん!念の為、これを持っていってください!」


そう言ってシルがワタワタとポケットから取り出し、押し付けるようにハクタに渡したのは、二本の瓶だ。内容量は五百ミリリットル程だろうか。片方には黄色い液体が、もう片方には緑の液体が入っている。



「黄色の方は飲むタイプの回復ポーション、緑の方は掛けるタイプの回復ポーションです!」



「サンキュ!」



ハクタは再び走り出しながら大声で礼を言った。貰ったポーションは、アビリティ・プレートも入っている黒コートの内ポケットにしまう。ミカルの言う通り、中のものは壊れないことを信じる。



騒然とする街。天まで届こうをする城壁の土煙。飛来した巨岩。



それは、ハクタの逆襲の物語の幕開けを告げていた。

次回更新は明日の十九時。


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