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召喚、輪廻、そして世界最強  作者: 赤見 煌
最弱の召喚者は死後最強の英雄に成り上がる
12/27

魔術



「目が覚めたか」


「ここは…?」



ハクタはゆっくりと身体を起こす。こちらをのぞき込むようようにして、声をかけてくれたのは、ガブリルだ。両脇には、ミカルとラファルもいる。



「戦闘訓練のあと、約一時間貴様は寝ていた。あれだけの手負いだ。仕方は無いだろう。傷は全て治療したから安心しろ」



「ありがとな」



ハクタは立ち上がって礼を言う。軽く肩や足首を回すと、コキコキと鳴った。無論、左腕は綺麗に付いている。



ガブリルがその様子を見て、珍しく感情を表に出して、苦笑する。



「まさか、最初から右肺が潰れていたとはな」




そう。ガブリルは、自らが一刀両断される直前に建てた仮説を、治療しながら確認していた。そして、それは当たっていた。



何故、右肺を貫かれて、ハクタは無反応でいられたのか。それは、攻撃される前に既に右肺及び近くの神経系が全て潰れていて、機能していなかったからなのだ。



「魔力砲で持ってかれたのは左腕だけじゃなかったんだ。外からは分からないだろうけど、地面と激突した時の衝撃で右上半身一帯の内側を腕以外は全部潰された。呼吸が大変だったぜ」


「貴様には他の人間とは段違いの治癒能力がある。なんで治癒されない?」


「あの傷は、痛みさえ耐えれば、そんなに急を要する物じゃない。それよりも、出血多量で意識を失う方が怖かったから、左腕や全身の擦り傷切り傷を優先させたんだ」




ーー痛みさえ、耐えれば、か



ハクタは何気なく言っているが、それはとても厳しいことだ。ガブリルの一撃に対して反応がなかったのは、痛みを感じなかったからではない。神経が潰れたことにより、既に痛みは伝えられる限界まで達しており、それ以上にはならなかったからだ。



三神は、目の前の少年と出会った時のことを思い出していた。


僅か一週間前に来た時には、脆弱で軟弱で弧弱で虚弱だった。だが今は違う。



どんなに勝機が薄くとも決して諦めることなき不屈の精神。理不尽に固められた逆境を跳ね返すための強い力。



数百は数えるであろう死線を掻い潜り、手に入れた生存と殺戮の本能。どんな状況でも最適を見出す臨機応変な対応力とそれを根本から支える経験。



間違いなく、人類最強のーー否、下界において、最強の者は、目の前の少年だ。




「さて」


ミカルが、感慨に耽る自分達を切り替えるように声を出す。


「貴様が天界に居られる時間も、残りは約三時間。時空を超える魔法には、一時間程度必要だから、そろそろ準備を始めたい。…だが、その前に、一つ確認しよう」


「?」

ハクタの顔に疑問符が浮かぶ。



「本当に、貴様がこの世界に召喚された時間と場所に、戻るのか?」



ーー貴様は、絶望と痛みの深淵の果てで絶命し、地獄に落ちるのだぞ?



そんな、ミカルの言外の声が聞こえてきそうだ。




だが、それがなんだと言うのだろう。絶望と共にここに来て、全てを知った時に、ハクタは誓ったのだ。



どんな理不尽が襲い来ようとも、必ずあの街を救うと。



あの日につかみ損ねたこの手で、大罪に塗れたこの身で、必ずあの街を救うと。



そのためなら、どんな対価でも払ってやろうと、誓ったのだ。



「心遣いはありがたいけど、もう決めたことだからな」


「そうか」


ミカルは短く言い、ハクタを見る。少年の目には、揺らぐこと無き強い決意が見て取れた。



「なら、準備に入るぞ。まずは、貴様の装束品を揃えなくてはな」



ミカルが指を一振り。するとあら不思議。何着かの服と鏡がぱっと現れた。



「これらの服飾は、伸縮性と耐久性に優れた素材で出来ている。戦闘になっても身軽に動けるはずだ。ポケットには、魔術で見た目よりずっと多くのものが入るようになっているし、中に入れたものは勝手に落ちたり壊れたりしない。あとは、貴様が気に入ったのを着ていけ」



「何から何まですまんな。じゃあ、この黒装束にしようかな」



そう言ってハクタが手に取ったのは、黒いシャツに黒いズボン、そして膝丈ほどの長さの黒コートのセットだ。



いそいそと着替えて、軽く屈伸やジャンプをする。性能やサイズは申し分ない。



ーーあとは、似合うかだな



思えば、鏡で自分を見るのは一週間ぶりだ。ハクタは鏡の前に立って、自分の姿を確認した。そして、驚愕した。



「誰だコイツ?」


口をあんぐりと開け、思わず言ってしまう。そこには、記憶とはかけ離れた自分がいた。



昔は贅肉がない代わりに筋肉も無かった細い四肢は、無駄なもの全てが削ぎ落とされ必要なもの全てが付いた研ぎ澄まされた戦士のそれになっていた。全身ゴッツゴツな訳では無いが、筋肉質なのが服の上からでも分かる。顔立ちも随分と精悍になり、随分強気な目になっていた。



だが、そんなことはどうだっていい。本当に驚いたことは、


「髪が、白い……?」


そう、髪の毛が真っ白になっていたのだ。



毛量も髪質も変わってはいない。色のみが、変貌を遂げていた。



「恐らく、急すぎる成長に身体が着いてこれなくて、色が抜け落ちたんだろうな。やる気になれば黒に出来るが、どうする?」


ミカルが言う。



「いや、このままでいい」



ーーだって、かっこいいんだもん!



ハクタの中で、かつて封印された疫病、「厨二」が再び活動を始めた!鏡に映る姿は、全身黒に白髪!元の世界なら何言われるか分かったもんじゃないが、ここは異世界だ!



拳を握りしめ、自分の中で、確かに今何かが始まったことをハクタは感じ取っていた。



そんな少年を、感情のない無機質な目でミカルは見つめ、「では、下界に戻る魔術に入るぞ」と言うのであった。











ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










「ミカルは魔法を手伝わなくていいのか?」



ハクタは現在進行形で時空を超える魔術を受けていた。その足元には、巨大な碧と蒼の幾何学模様の魔法陣が幾つも重なっている。



「ラファルが時魔術、ガブリルが空間魔術を使っているからな」



ミカルはそう言って肩を竦める。



脇では、ラファルとガブリルが目を閉じ、ハクタに向かって両手をかざしていた。そうすることで、より一点に魔力を集められる。



「そう言えばこの服のポケットの時もそうだったが、魔術ってわざわざ言うのは、魔法とは違うのか?」


「魔法は、水晶を創る。だが、魔術は、決められた手順の詠唱と魔力の使い方で、あらゆることが出来る。」


魔法と魔術の違いに疑問を呈したハクタに、ミカルが端的な説明を返す。


ハクタは、「そうなのか」と興味深そうに相槌を打ち、会話は途切れた。





「下界に戻る前に、二つ、言っておきたいことがある」


美しい魔法陣に照らされ、蒼にも碧にも輝くハクタに、ミカルが沈黙を破って話しかける。



「まず、下界では、自分が一度死んでいることや天界での日々やその存在は他言無用にしろ。」



「要は、一度目の生と天界でのことは秘密にしておくって訳か」



「まぁそういう事だ。下界の住人にここの存在を知られたら色々と不都合だからな」




ミカルは、二本目に中指を立てる。



「次に、これはあくまでアドバイスだから聞き流してもいいが、下界に着いたら真っ先にギルドに行って、アビリティ・プレートを作ってもらうといい」



「アビリティ・プレート?」



ハクタの顔に疑問符が浮かぶ。



「アビリティ・プレートは、持ち主の筋力、魔力、耐久力、治癒力、俊敏力が数値化されて記されるものだ。この世界で成人と認められる十六歳で誰もが作る。貴様が手に入れた方がいい理由は、それには個性の説明が着くからだ。」



「なるほどな。折角だから作るよ。俺の場合、今後も個性が増えるかもしれんしな」



「私からは以上だ。何か質問はあるか?」




うーんとハクタは悩む。



「この世界での大まかな地理構図でも聞いておこうかな」



ミカルは小さく頷き、指を振る。するとあらビックリ。目の前の空間に半透明で浮かんでいる大きな地図が現れた。ご丁寧に、丸まっていたものが解かれる演出付きだ。



「この世界は、一つの巨大な大陸と海のみで出来ている。貴様が戻る街、フィリアは大陸の東の端に位置する。」



ミカルがそう言うと、地図の大陸の右端の辺りに小さな光が点灯した。あれが「フィリア」なのだろう。



「端と言いながら、まだ割と右側に大陸続いてるようだけど?」



「そこは、龍山と呼ばれる超巨大山脈がある。高さは約二万メートル、横幅は百二十キロにも及ぶ」



そんなに大きな数字を言われてもピンとこないが、確かエベレストが八千メートルくらいだったことを思うと、でたらめな大きさなのは分かる。



「そろそろ魔術が完成するな」



ミカルが言ったのと同時に、魔法陣が回転を始めた。足元からは上空に向かって強風が吹き荒れ、ハクタの黒コートがバタバタとはためく。



「生きとし生けるもの全てに平等なるもの、時よ」

「生きとし生けるもの全てを存在させるもの、空間よ」



ラファルとガブリルの詠唱が聞こえる。決して大きな声ではないが、透き通った空間にそれはよく響いた。



「我が望みは、天命を変えるべく歴史の逆行」


「我が望みは、今再び戻るべく空間の転移」


「「その力、矮小の我が身に刮目させ給え」」



カッと魔法陣から強烈な蒼と碧の光が爆ぜる。それは瞬く間にハクタを飲み込み、強風と共にハクタを包み込んだ。



「「「幕引きだ。行け。」」」



光のカーテンの向こうから、三神の声が聞こえる。



ハクタは不敵に口元をニヤリと笑い、



「行ってくるぜ。」



と言った。





全ての光が天界の空気に吸い込まれ切ったとき。



もうそこに少年の姿は、なかった。




弱冠十六歳にして、神と相対する程の力を持った少年が、全てを賭けて、歴史を、運命を、理不尽を変えるべく、再び異世界に戻った瞬間だった。

次回更新は明日の十九時。


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