vs神
「試合のルールは、我々三神と貴様の三対一での戦闘。貴様の勝利条件は、三十分間生きていることだ。」
「我々に、人間なら致命傷となり得る一撃を入れたら、その者は戦闘不可とする」
「我々神はハンデとして、自分にかかる重力を貴様の百倍とする。また、魔法も使わない。翼を使っての空中動作もしない。武器も使わない」
出会った時のように、ミカル、ラファル、ガブリルが代わる代わる口を開く。
「それでいいぜ」
ハクタは答える。
「俺は直ぐにでも初めていいんだが?」
そう言って、神をギロリと睨む。その眼光の鋭さは、勝利への渇望が剥き出しだった。
「まぁそう急くな」
三神は、それぞれ十メートル程の距離をおき、ハクタを中心とする三角形を作る。
「貴様の好きなタイミングで戦闘開始でいいぞ」
ミカルが余裕を匂わせて、構える。
ハクタは返事をせずに、ガブリルに正対。右手にアダ グロサを顕現させ、無言で、一分ほどの時がすぎる。
初撃は、ハクタの魔法と個性とを駆使した攻撃で始まった。
まず、ガブリルを、個性「超結界」で閉じ込める。同時に、振り向きざまに二神の位置を確認。ラファルに魔法弾で牽制しながら、ミカルへと突進する。
恐るべき速度で接近する少年に、ミカルは動揺する。まさか、ここまで成長しているとは思っていなかったのだ。
「うぉぉぉぁぁぁああ!!!」
ハクタの鬨の声が戦場を駆け抜ける。漆黒の剣をねじり込むように、敵の心臓目掛けて突き出す。
ミカルは咄嗟に、下から剣の腹を打ち上げるようにして腕で防御。バギィンというおよそ拳が鳴らすとは思えない轟音が空気を震わせる。
その振り切った腕が、構え直されるよりも先に、ハクタの剣が首元に吸い込まれる。ミカルは背をイナバウアーのように思い切り反り曲げて回避。文字通りの目と鼻の先を死が駆け抜ける。
形成は明らかにハクタに傾いている。余儀なく劣勢に追い込まれたことがまだ信じられないのだろう。ミカルの瞳には色濃い同様が見て取れる。
ハクタは追撃の手を緩めない。蹴襲と拳殴の連撃で、ミカルを追い詰める。
ミカルも防戦一方を打開すべく、攻勢を試みるが、全て失敗に終わる。ハクタに全て完璧に見切られてしまうのだ。
(ガブリルと、ラファルは何故加勢にこない!?)
ミカルの心に焦りが生じる。
動き一つ、神経一本のずれがそのまま死に繋がる超高等戦闘が続く。だが、常に、ハクタが優位に戦闘を進めていた。
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ーー作戦通りだ
全てが自分の描いたシナリオ通りに進んでいることに、ハクタは満足していた。
この戦いで、勝つためには、常に一対一を作ることが鍵となる、とハクタは考えていた。
最もハクタのことが分かっているガブリルは、超結界の檻で動きを封じ、ラファルには常に魔法弾による牽制で接近を許さない。
そして、ミカルとは直接拳を交え、出来れば倒す。
これがハクタの作戦だった。
ーー行ける
ミカルに大砲の如き超威力の攻撃をひたすらに続ける。敵には、付け入る隙も時間も与えない。
そうしている間も、ラファルへと魔法弾の攻撃は持続され、ガブリルは結界を破れない。結界の大きさを、非常に狭く創ったため、思い通りに身体を動かせず、半端な威力のダメージしか与えられないのだ。
ミカルが、右腕で左脇腹を狙ってくる。腕がぶれて見えるほどの速さだが、この一週間で受けたものに比べれば、はるかに遅い。
ミカルの横側に踏み込んで距離を一気に詰めながら回避する。剣で相手の首を狙って振り切る。空をも切り裂くようなそれは、仰け反るように回避したミカルの髪の毛を何本か攫って行く。
ミカルは寝転ぶようにして、距離を取ろうとする。だが、ハクタはそれを許さない。うち下ろすようにして、左拳で顔面を狙う。
ミカルは手をクロスにして防御。だが、思っているよりはるかにその威力はあった。
バキボキと嫌な音を鳴らし、ミカルの両腕は砕ける。吸収しきれなかった衝撃は、ミカルの身体を波打たせ、決定的な隙を作らせた。
ーー不味い
ミカルが焦りを隠すことなく、否、隠しきれずに表情に出す。
その無防備の顔面に、今度こそ膝蹴りが綺麗に入る。その神速の一撃は、ミカルの顔面を押しつぶした。
誰がどう見ても、文句無しの致命傷。ミカルは一泊起き、「私は、もう戦闘不能だ」と言って、掻き消えた。
ハクタはゆらりと振り向く。今まで一度も途切れることのなかったラファルへの魔法弾連撃が、一度終わる。
それは、ラファルに、「次は、お前だ」と暗に伝えていた。
ラファルに、当初の余裕はない。厳しく張り詰めた表情で戦闘態勢に入り、
「君のことを見間違えていた。君は、訓練生などではない。この「死合い」に置いて、本気で叩き潰すべき相手だ」
と言った。
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ーーどうする
今、ラファルには二つの選択肢があった。
一つは、ひたすらにハクタから距離を置き続け、ガブリルが結界を破って援軍に来るのを待つこと。
もう一つは、言わずもがな。ハクタに攻撃することだ。
ラファルが選んだのは。
後者だった。
神の名の元で、人間相手の撤退、時間稼ぎなど、許されるはずがない。
ラファルが、ハクタの懐に飛び込むべく、間合いを図る。
だが、ハクタは距離を詰めようとしない。
ーー来ないなら、それはそれで好都合だ
ラファルは油断せず、様子を窺う。
互いにピクリとも動かない。分からないのだ。動いた時、自分に吉と出るか凶と出るかが。
言うなれば、コップギリギリまで水を入れ、表面張力だけで溢れていないような状態。次の一滴を入れた時、弾かれるのは、相手か自分か。
戦場には、ガブリルが結界を殴打する音のみがやけに鮮明に響く。
先に動いたのは、ハクタだった。
予備動作なしの、無数の魔法弾攻撃。ハクタの両脇を囲む兵士のような彼らは、目標の肉体を穿たんと急襲する。
「っ!!」
ラファルが必死の回避。全てを紙一重で、ものによっては肌を撫でる。だが、確実にかわしていく。
だが、ハクタの本気は、ここからだった。
打ち出される時の高さも速さもバラバラの魔法弾は、互いにぶつかり合うことで、その軌道を自在に変えたのだ。
悪魔的な完璧な計算で統率された弾丸は、予測不能の動きでラファルに襲いかかる。
ものによっては跳弾を二度も三度も繰り返し、それがまた別の魔法弾と弾け飛ぶ。
躱しきって、後ろへ流れていく弾も、再び背後に飛びかかる。
三百六十度全方位からの多重攻撃。重力百倍の足枷も相まって、神の予測をもって回避は至難の業だ。
唯一の救いといえば、魔法弾が一秒程度で消滅するため、無限に増殖はしないことくらいか。だが、ハクタが間髪を入れずにガトリング砲のように発射し続けるので、とても形成逆転など叶わない。
ーーどうする!?
ラファルが、再び思考を巡らせる。ただ、今度は先程とは違い、選ぶことの出来るものなどない。待っている未来は敗北一択である。
せめて、一撃を入れれば何かが変わるかもしれない、とハクタに目をやったラファルは驚愕に目を見開く。
ハクタの背中に、複数の巨大魔法陣が展開していたのだ。漆黒の幾何学模様で彩られたそれらは、尚成長していく。
ーーこの状況下で、魔法陣が展開されるほどの魔力を?
ラファルはとても信じられない。それもそうだろう。ハクタは現在進行形で何十もの魔法弾を生成・発射している。計算に計算を重ねた上でだ。
それらを生み出すだけで相当量の魔力消費はあるはず。集中力もまた常軌を逸しているはずだ。
その上での、あれだけの大きさの魔法陣が複数展開される程の魔力の充填。
ーーガブリルは一体どんな訓練をしたんだ?
答えは簡単。数え切れないほどの死線をくぐり抜ける訓練である。神の肉体も手伝って、少年は確実に成長ーー否、「進化」していた。
苦虫を噛み潰したような表情になるラファル。そうしている間も、一分の隙も時間も油断もなく、魔法弾による精密射撃はラファルに歯を剥く。
そして。
(くるっ!!)
ラファルの皮膚がザッと粟立つ。見たわけでも聞こえた訳でもない。だが、確かに感じた。
強敵の方を見やれば、先ほどよりも数も大きさも比較にならないほど逞しくなった魔法陣を背負っていた。
「はぁぁぁぁぁああ!!!!」
腹の奥底から出てくるような、覇声をハクタが叫ぶ。
溜めに溜められた魔法陣が、その真価を発揮する。十を数えようそれら一つ一つから、超威力の魔法光線が発射されたのだ。
一本一本が、直径十メートル程もある純黒の砲撃に死角なし。防御姿勢をとるラファルを有無も言わさず呑み込む。
音さえも置いていく程の速さで地平線の彼方へと消えていくそれは、轟音と共に遥か向こうで大爆発をする。真っ黒のキノコ雲が地上千メートルは優に超える高さに上がった。
約二十秒続いた蹂躙劇は、地を半円球状に抉りとり、ラファルを含めその射線にいた全てを塵芥に散らせ、幕を閉じた。
肩を大きく揺らして呼吸を整えるハクタ。額の汗を乱暴に拭き取り、未だ結界に閉じ込められているガブリルの方へ振り向く。
その目の覇気は、凄絶なもの。必ず自分が勝つ、という強烈な感情が手に取るようにわかる。
ーーだが、はいそうですかと殺られるのは、神のプライドに掛けて許さん
ガブリルもまた静かな、だが強烈な闘志を燃やして、結界の破壊を続けていく。
次回更新は、明日の十九時です。
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