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召喚、輪廻、そして世界最強  作者: 赤見 煌
最弱の召喚者は死後最強の英雄に成り上がる
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異世界召喚

ーー困った。


往来の激しい石畳の道の上、少年は立ちすくむ。


これと言った特徴のない少年だ。


長いとも短いとも言いきれない黒髪。少し優しさと言うよりもひ弱さを感じさせる顔。ひょろ長い体は、身長175cm、体重55キロ程度だろうか。それを包む服は、黒を基調とした上下のジャージである。

靴まで黒の運動靴の彼は、その体型と相まって栄養不足の死神のようだ。


そのどこにでもいそうな少年は、今、不思議そうに周りから見られていた。


それもそのはず。少年以外で、「黒髪」「ジャージ」「運動靴」を身につけているものはただの1人としていなかったのだ。


髪は様々な色が混在しているが、中でも多いのは白や白銀よりの色だろうか。身につけているものは、よく創作物で見るようなローブや昔ながらの集落を感じさせる質感のあるものが多い。中にはフルフェイスの鎧甲冑をつけてガシャンガシャンと歩いている者もいる。


ハロウィンでもないのに、人々はケモミミや尻尾をつけていて、仮装のような装いをしている。


要は、あまりにもそれらしいのだ。




ーーこれは、もしや






少年の心に、あるひとつの答えが浮かび上がる。







ーーー異世界召喚、なのか?



まるで、彼ーシンザキハクタの出した答えを、「ご名答!」とでも言うかのように、蒼く大きい空の上、何者かは分からないが、高い高い嘶きが響いた。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





シンザキハクタは生粋のオタク、17歳の男子高校生である。


登校はいつもチャイムと同時、寝る間を押してもゲームをし続けるため授業は睡眠学習、終了のチャイムと同時にラノベを読み出す。そして、帰宅は誰よりも早くを目標に自転車を飛ばして帰る。

身体能力、学習能力共に平均以上だが、クラスでの雰囲気も相まって注目はされない。せいぜい、同じ趣味をもつクラスメイトと時々話すくらいだ。


まぁ、それもハクタのその方面に置ける知識量が多すぎて、どうしても盛り上がり切らないのだが。



「そんなふうにラノベにマンガにゲームに囲まれて過ごした末路が異世界召喚とか、どんだけそれらしいんだよ俺」



困惑と呆れがごちゃ混ぜになったため息をつくハクタ。



そう、少年は本当に異世界召喚してしまったのだ。


「せめてもっと、幸先のいいパァーっとした召喚の仕方をしてもらいたかったぜ」


諦観の滲むハクタの声。彼の召喚のされ方は、まぁ確かに冴えないものだった。


元の現実の世界で、彼は、草木も眠る丑三つ時、ゲームのし過ぎで疲れ果てた目をこすりながら、近場の自動販売機を目指して歩いていたのだ。


その時に、それはもう非常に暴力的な光線が彼の眼球を燃やすように襲いかかったのだ。そう、それは、車のハイビームである。

脳まで揺さぶられたんじゃないか、と、思わせるほどにハクタをチカチカぴよぴよ状態へと陥れ、目を抑えてうずくまっていたところ、


ーーなんか明るくないか?



あら不思議!目を開けたら、ひるまでしたぁ!


かくして、召喚である。


「なんか派手に魔法陣とか出て来てドカンと登場したかったぜ……」

思い出しながらため息をつくハクタ。



こんなことなら筋トレの一つ二つしたり、中学の強制部活動くらいは武術系にしときゃ良かったな、と独りごちる。



ちなみに彼は、中学時代は陸上の長距離競技で県でも名のしれたレベルの選手だった。文武両道であった彼は、実は相当スペックの高い人間なのだが、やはり注目度は低かったし、ハクタ自身もその方が気楽だ、と無闇には関わりを持たなかった。



「願わくば、何かしらの遭遇イベント発生からのMUTEKI状態俺になって、苦労なく楽しくハーレムしたいもんだが…」


辺りをキョロキョロと見渡すハクタ。彼の見慣れない格好に奇異の目を向ける者はいるが、ハクタの願う展開を起こしてくれそうな人物はいなそうだ。



「じゃあとりあえずすることは一つ」

ハクタはゆっくりと右手のほっそりとした指をおり、


「異世界観光とでも洒落こみますか」

少しおどけた口調でそう言ったのであった。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






「使われている建築素材は木材と石材がほとんど。

時代設定は中世。交通手段は今見てる限り地竜

が多い。亜人に騎士に魔法使い、なんでもこざれ

といった人々の装い。」


雑多な街の中を、ハクタは小一時間歩き回っていた。


その中で分かったのは、恐らくこの街は発展の進んだ方であると言うことだ。

人種も肌の色も違う人々が入り乱れ、明らかに旅慣れしている人間も多い。色々な所からこの街に訪れいると考えて良いだろう。


そうやって歩き続けていると、ハクタは景色の変化に気づいた。


先程までは、出店や美しい街並みが周りを取り囲んでいたが、それらがまばらになって、今は、言うなればやぐらのようなものや、壁に取り囲まれた刑務所のようなものが多い。



道ゆく人々も、家族連れや街の人々はめっきり見えなくなり、代わりに兵士や後ろに大きな荷台に大量にものを積み込んだ竜車ばかりが目に映る。


要するに、美しさを感じさせた先ほどよりも、逞しさや喧騒を感じさせるのだ。



道も先程の整備されている石畳とは違い、今は素の地面が出でいるため、もうもうと砂煙が立ち込めている。


これはこれで面白い、とハクタは思った。


そうして歩くこと三十分。いい加減に全身鎧の巨体人間や商売魂逞しそうな小太りおじさんよりも、バリバリメインヒロイン張れるような超絶美少女に会いたいもんだ、と煩悩が仕事をし始めたハクタ。


と、その時だった。


「・・・ありゃ何だ?」


ハクタは眉をひそめて呟く。


見つめる先には、とてもとても大きい何かがある。さっきから見えてはいたのだが、山かなんかだと思っていたのだ。

しかし、近付くうちに、やけに横が大きすぎるのと、てっぺんが平行線になっていることにハクタは気がついた。


心持ち歩く速さが増したハクタ。心の中には一つの予想があるが、実際にそんなことがあるものなのか、と期待している。


そして、ハクタの予想は正しいことが分かった。


「でけぇ・・・」


今、彼の目の前に広がっているのは、巨大という言葉では足りない城壁だった。


まるで、この街全てを護ろうと、侵攻は許さぬと、他に宣言しているかのような雄大なそれは、縦に三十メートル、横幅は端が目視で確認出来ないほどの大きさだ。遠くの方で緩やかに弧を描いているのを見ると、恐らくこの街全てを囲っているのだろう。


「こんなものを、一体どうやって……」


独りごちるハクタ。そのままフラフラとさらにその灰色の巨人へと歩み寄って行く。


そして、門が見えてきた。


木造の縦長の門だ。横幅は五メートル程で、縦には壁の上辺まである。美しい長方形を型どったそれは、真ん中で手前に向かってひかれる両開きのものだった。


年季が入っているのだろう。所々ささくれ立ったりシミになったりしている。人間で言えば初老と言ったところか。それでも、威厳は衰えず、力強さが漲ってるのをひしひしと感じる。


首を九十度曲げるようにして見上げるハクタ。こんなに大きな建築物を直に見たのは初めてだし、何よりこの異世界感の溢れ出る「城壁」に出会えたのが嬉しかったのだ。


そんな心を奪われ夢中になっているハクタの左肩が、トントンとたたかれた。




?ーーー!!!




壁を名残惜しそうにしながらゆっくりと後ろを振り向いたハクタは、相手の姿を見て壁のことなど頭から吹き飛んでしまった。





そこには、まさに絶世の美女とでも言うべき少女がいたのだ。





身長はハクタより少し低い170センチ程度だろうか。細身の体を、白地に紫のラインの入ったフード付きのローブに包み込んでいる。それから溢れ出すように踊る髪は、綺麗な金色の滝。目は大きなアーモンド型で、湖のような深く綺麗な水色。唇は、まるで薔薇の華。少し赤くなった頬が、可憐さに拍車を掛けている。


必要なもの全てを持っていて、要らないもの全てが取り払われたような彼女は、美しさと可愛さどちらもを持っていた。


それはまるで、美の女神が自らの出せる全てを絞り出して創り上げた神の造形のようだ。ーー否、美の女神本人だ、と言われても頷ける完璧な容姿だった。



口をぽかんと開けて彼女を見つめるハクタ。その熱心な眼差しは、彼女が少し困ったようにしながら話しかけてくるまで途切れなかった。



「lqjtstmwtvsttslepjz?」



ここで彼女が使った言葉が、もしハクタの知っているものだったならば、ああ、耳触りのいい声だ、とでも思ったかもしれない。しかし、実際は、



ーーー今、なんつった?



それはハクタの全く知らない言語で。




彼は一瞬で我に返り、呆然として、今度は困り果てた顔をして彼女を見つめるのであった。


誤字脱字報告、感想など気楽に送ってください。

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