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前世と今世、縁結び。  作者: 白雪林檎
1/1

プロローグ

「スタ文2」(ほっこり人情小説部門)に応募を検討している作品です。



ジジジジッ




僕は、籠の中の鳥。


目の前を行き交う人々に誘うような微笑みを送る。

自らを彩るのは、襟元の空いた真っ赤な着物と細かい細工を施した金色の簪。


ここは花街。

ここに来る以前の記憶など全く残っていない。

この狭い世界だけが、全て。

薄く化粧をすることも、男なのに女物の着物を着て色を売ることにも、もうなんの違和感も感じることはなくなった。

僕の使命は客を取ること。それが出来なければ、ここにいる資格はない。


考えることをやめふと視線を向けた先。

見えたのは真っ黒な髪と、見る者全てを凍らせてしまいそうな冷ややかな瞳。


--なんだ、この既視感は


心臓がドクドクと音を立て始めた。

途端に頭に流れ出す、記憶の波。

あいつは、あいつの名は、**。


柵越しに名前を呼ぶと、そいつは少し目を和らげてこちらへ近づき、僕に囁いた。





数日後、僕は花街を出された。

--が僕を買い取ったらしい。

だが、--は何処にもいない。


僕の耳に残るのは、


『 』


この記憶は、ここで、途切れた







ジジジジッ



僕は軍に飼いならされた犬。

軍のために生き、軍のために死ぬ。

これが、僕の使命だ。


けれど





他に伏せる、仲間達。

一瞬の出来事だった。僕たちのしてきたことなんて、まったく意味をなさないものだった。


--なぜ、僕はこうして立っている?周りの仲間たちは皆、血に濡れて消えてしまったというのに。


ゆらりと視線をあげた先、見えたのは見覚えのある真っ黒な髪と、見る者全てを凍らせてしまいそうな冷ややかな瞳。


見覚えが、ある

あいつの名は、**。


『……なぜ、僕だけを残した?』


問いかけると、そいつは鋭い目を少しだけ和らげて、僕を真っ直ぐと見つめた。


『……』


『ねえ、僕はお前の事を知ってる。……そして多分、お前も僕のことを知っているだろう?

お願いだ、答えてくれ。』


心臓がドクドクと煮えたぎるように鳴っている。

走馬灯のように頭を駆け巡るのは、目の前の**との記憶。

これは、きっと今の僕の記憶じゃない。もっと、ずっと前の僕の記憶。


悟ったような目をしているのに口を開こうとしない**に、僕は今までにないくらいに苛立ちを感じていた。


『ねえ、答えてよ!!!君は……君は、**だろ!!』


目の前の--は目を少し見開き、薄く微笑みながら口を開いた。


『 』


この記憶は、ここで、途切れた






ジジジジッ



僕は牢獄に囚われた奴隷。

終わることのない肉体労働。次々に倒れていく他の奴隷たち。


キシキシと悲鳴をあげるぼくの身体。

--もう、ぼくの限界も近いのだろうか。


そんなことを考えるのすら阿保らしくて、振り切るように伏せていた頭を上げた。


頭を上げた先、目が合ってしまったのは鞭を持った指導者。



不味い。叩かれる……!!



次に来るはずの衝撃に耐えるべく、ぎゅっと目を閉じた。

しかし、いつまで経ってもその衝撃はやってこない。


不思議に思い、視線を上げた先。

見えたのは----



この記憶は、ここで、途切れた








ジジジジッ


ジジジジッ



また、必ず、巡り合、う



ジジジジッ

ジジジジッ



今の、僕、は--



ジジッ

ツーーーーー




記憶は、ここで、途切れた


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