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2.とびらを開けて(1)


仕事を始めてから、1週間。やっと土曜日がやってきた。


今までもデスクワークだったとは言え、ずっと座りっぱなしはなかなか体に疲れがたまるようで、目が覚めた時にはすでにお昼になっていた。


紅茶のティーバッグをカップにセットして、食パンをオーブントースターに放り込む。



仕事は順調にこなしているし部内の社員とも仲良くやれているのだが、東京に来て不思議なことがいくつかある。

先日ポストに投函した他人の手紙が戻ってきたのだ。そしてさらに他の手紙も送られてくるようになった。


この手紙の本来の受取人である≪安永大地≫という人にとっては、家電量販店や美容室のダイレクトメールはそこまで気にするものではないのかもしれない。

でも、通販で買った商品の明細書はさすがにどうしようもない。きっとこの中には購入した本人の電話番号が書かれているのだろうけど、個人情報だ。見ていいわけではない。



また時々、アパートの廊下をうろうろしているような足音も聞こえる。鍵はきちんと施錠しているし引っ越したばかりの時は気にならなかったけれど、深夜遅くにコツコツと響く足音はどうも不快な気持ちになる。



かといって、廊下に不審者が!と不動産会社に連絡するのも気が引けるし今のところ何かしらの実害を被っているわけではないので、気にしてないのだけれど。

元夫にストーキングされていたあの頃を思い出して、少し暗い気持ちになってしまう。



リン、と調子の良い音が響く。色よく焼けたパンをオーブントースターから取り出して皿に乗せ、チョコソースをたっぷり塗りたくっていると、電話が鳴った。相手は不動産会社だった。



「もしもし、お久しぶりです」

『野上様、先日は美味しいクッキーを頂きありがとうございました。とても美味しかったです。あれからアパートの住み心地はいかがでしょうか?』

「ええ、とっても満足しています」

『それはそれは、よかったです。本日は折り入って相談があるのですが、今お時間頂いても宜しいでしょうか?』

「大丈夫ですけど…」


不動産会社から相談?

手紙のことか、それとも足音のことか。どちらなんだろう?


『実はですね、以前その部屋に住まわれていた方から連絡がありまして、もしかしたら野上様のお部屋に前の居住者さんのお手紙が混ざっているかもしれないとのことでご連絡を頂いたのです。野上様以外の宛名で郵便物など届いていませんか?』

「ええと…≪安永 大地≫って人の手紙なら、いくつか届いてます」

『ああ、よかった!やはり届いていましたか。

 つきましては、近いうちにその手紙を引き取りたいとのことでしたので、お相手の連絡先を預かっているのですが…どうしましょう?私どもが仲介してお手紙を渡すか、野上様とお相手の方が直接連絡を取り、野上様のお宅にお相手が赴いて手紙をお渡しする形になると思います』

「連絡先?相手の方の家に手紙を届けたりはできないんですか?」

『お引っ越しは済まれているのですが、少し事情のある方でして…少しの間だけ、新しい住所を郵便局へ届け出したくないのだそうです。できれば、私どもか野上様と対面して手紙を受け取りたいとのことでした』



事情のある方…と聞くと、どうも深夜の足音のことも関わってくるように感じる。


不動産会社の担当さんは、元夫のことを少しだけ話してあるので、元夫に住所がばれないように住民票にロックをかけられる機能について教えて下さった方だ。もしかしたらこの人は、そういう【ワケあり】な顧客を多く担当しているのかもしれない。



「…分かりました。相手の方の連絡先を頂けますか?連絡を取って、都合のいい日に手紙を渡します」

『ありがとうございます。後ほどメールにて連絡先を送らせていただきますはが、アドレスに変更などはございませんか?』

「変わってませんので、そちらにお願いします」

『無理を言ってしまい申し訳ありません。では、後ほど送付させていただきます。ご協力、感謝いたします』



二、三言葉を交わして、電話が切れる。


前の住人は、どんな事情があってここから引っ越したのだろう。

色々なことが気にかかりつつも、少し冷めてしまった食パンにかぷりと噛みついた。

現実ではそんなこと起こり得ないのですが、ご都合主義ということで…w

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