1.いざ、新生活(5)
カタカタカタ…。
オフィスにはキーボードのタイプ音が響き渡っている。
グループリーダー1名とメンバー5名で編成されたグループが6つあり、それを花田さんが束ねて指示を出したり、承認印を押したりしている。
グループリーダーはひとりひとりの進捗具合を専用ツールを使って確認しながら、進捗が滞っている人がいれば声を掛け、問題解決に取り組む。
厳密に締切やノルマなどはないけれど、営業担当は「すぐに情報がほしい」で連絡が来ているし、製造委託先は工期の関係上問い合わせの内容が切羽詰まっているときもある。半日以内に回答、というのを目標に日々業務を行っているらしい。
とは言え、私は新人。顧客からの質問を受けたらマニュアルに沿って商品の仕様書を読み解き、顧客に返信をする業務が割り当てられた。「欲しい情報を抜き出す」「分かりやすく説明する」という観点で、前職がニュースライターだということも考慮してもらえたように感じる。
顧客からは家具、家電、雑貨、日用品に至るまでさまざまな質問がきている。中には家電が動かなくなった、保証期間中に家具が破損したなどの問い合わせもあるが、それらは見つけ次第違う部署に転送すればいいらしい。そういうものは電話で対応しているようだ。
「御崎さーん、明日の音楽番組見ます?」
「もちろん!久々に録画回すよ」
「桃音もあのアイドル好きなんだっけ」
「私とかなでと御崎さんだけだね、今のところは」
御崎さん、入社2年目の緒方桃音さん、緒方さんと同期の溝淵かなでさんの3人が、わいわいと話に花を咲かせながらも手は止めない。
「アイドルねぇ…名前が覚えられないわ」
「同感」
ベテラン社員の高田茜さんと森岡結さんが重だるそうなため息をつく。
茜さんは入社10年目、結さんは入社8年目。以前はふたりともグループリーダーだったらしいけれど、ともに結婚し家庭との両立を図るために御崎さんにリーダーを引き継いだのだそうだ。
御崎さんは派遣を1年経験後、正社員登用されてから1年。桃音やかなでと同期みたいなものよ、と笑って話していた。
アイドル、と聞いてぎくりとするが、まだまだ会話についていけない私は彼女たちの会話を聞かなかったことにし、仕事に集中することにした。