1.いざ、新生活(3)
職場は、大手女性向け通販会社のカスタマーセンター。主に販売データの問い合わせや発送連絡、営業部からの連絡を受けてデータベースに入力する部署に配属された。
上司が元々派遣から正社員になったらしく、スキルのある社員はおよそ1年ほどで正社員登用が見込めるそうだ。
今のご時世にこんな高待遇のオファーはなかなかこないですよ、とメガネをかけた担当さんが派遣会社で言っていた。
確かに、今時そんな会社も珍しい。
派遣期間は残業ナシ、土曜出勤アリ、比較的多めの手取り。一人暮らしなら貯金しながら慎ましくほどほどに暮らしていける。
「お久しぶりです。今日からあなたの上司になります、花田美希です」
「ご無沙汰しております、本日からよろしくお願いします」
派遣出身のバリバリキャリアウーマン、花田さん。面接でお会いして以来になる。
花田さんの隣には、恐らく私と同世代くらいの茶髪の女性が立っていた。
「野上さん、紹介しますね。こちらはグループリーダーの御崎、しばらくはあなたの隣の席でサポートについてもらいます」
「御崎麗子と言います!今日からよろしくお願いしますね。私も正社員登用組なので、何か分からないことがあれば気軽に聞いてください」
にこり、と笑いかけてくれる御崎さん。とても笑顔の似合う女性だ。
「野上智香と申します、よろしくお願いします」
「まあまあ、そう堅くならないでよ。野上さんと私は同い年だし、うちの部署はフレンドリーが売りなんだから!ね、美希先輩?」
「…麗子、まだ初日なんだから。…業務外はこんな感じで和気あいあいとした職場です。びっくりされるかもしれませんが、業務中はビシッとお願いしますね」
花田さんの目の奥の鋭い光が一瞬ふわりと和らぐ。だが、すぐさま仕事モードに戻りキラリと眼光が鋭くなった。
ロッカーやオフィス、ビル内の各種施設を案内され、タイピング速度の実演を行う。
営業部からきたデータを特定の型に成形後、製造元への問い合わせメールのテンプレートにあてはめて送付する、という模擬的な操作を、花田部長と御崎リーダーがいる前で行う。
ビジネスマナーとタイピング速度のテストみたいなもんだけど、あなたのタイピング速度ならなんの問題はなさそうね~と、御崎さんはふわふわと笑っていた。
談笑する間もなく業務終了時間になり、一先ずは自宅に戻る。歓迎会は3ヶ月に1度、まとめて行われるらしい。無理やり飲まされる職場でなくてよかった。
自宅のポストを開けると、住所手続き変更完了の手紙やチラシに混じり「安永 大地 様」と宛てられた手紙が入っていた。
…前の人、住所変更し忘れたのかな。
玄関近くにある付箋に【誤配送です 野上智香】と書いて、郵便物に貼りつける。そのまま家を出てすぐにあるコンビニに行き、ポストに人違いの郵便物を投函する。
大抵の郵便物はこれで本人の元に届くらしい、というのが、頭の片隅にあった。
無事戻りますように。
そう思いながら、まだまだ寒さの残る街を足早に歩いて自宅に戻った。