1.いざ、新生活(1)
東京都内、駅から徒歩15分、2K以上。
わがままな物件条件の中探してくれた不動産ショップのお兄さん、本当にありがとう。
JR中央線高円寺駅から徒歩9分、築年数は少し古めだけどなかなか広い部屋を借りることができた。
この春から、私――野上智香は初めて東京で仕事をする。
と言っても、派遣の事務員。前の仕事と比べると到底面白みに欠けるものがある気もするが、社会勉強にはぴったりの環境だと思う。
さまざまな人が出入りしさまざまな情報が得られる場所。東京で仕事をしようと決めたのは、トレンドの中心核で情報に踊らされて見たいと思ったからだ。
先月までは地方で在宅でのニュースリライト業務を行っていた。テレビ番組やブログのトレンドをサーチして、データを打ち込む。引用し感想を一言付け加える。そんな「名前のない」ライターをしているうちに、気付けば“ひとり”になっていた。
どうせひとりになったのなら、行きたいところへ行けばいい。そう思って、東京へ。
地元を離れるのは少し心苦しかったが、鬱々とした気分を変えたかった。
窓を開けて、大きく息を吸い込む。
ふと見た鏡に映る自分は、どこかすがすがしい顔をしていた。
いざ、新天地へ。