十三話
いつも通り、剣を振るう。
その重さは、振り慣れたいつもの重さ。
木剣じゃなくて良かった。あんなに軽いと……
本当に、斬ってしまうかもしれない。
刃潰し処理のされた模擬剣の先を、床につける。
対面の相手、レイフォードもそれにならい、床へと切っ先を向けた。
「……本当に、よろしいのですか?」
こちらへと問いかけるのは、ファロさん。
彼女の顔に浮かんでいるのは、不安。
当たり前だ、誰も僕が勝つなんて思っちゃいない。
……でも。
「お願いします。やりたいんです」
挑戦はいつでも、心躍るものだ。
その不安こそ、勝利を彩る美酒なのだ。
空腹が最高の調味料なように。勝って“魅せろ”、シロナ!
……なんて、叱咤を飛ばす父親の幻聴。
今でも、心に反響するその声が、僕を立たせてくれる。
「……では、始め!」
その声とともに、僕は突き動かされる。
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この学校には、一つ、他とは違う校則がある。
「決闘について」
その言葉で始まる、貴族らしい校則。
言葉では解決しようもない時、雌雄を決するために、決闘を許す場合がある。
勝利の暁には、報酬を。敗者には、責務を。
かけられたものの大きさにより、その報酬と責務は増減する。
決闘は常に平等であり、いかなる干渉も許されない。
それは試合後も同じ。結果に口出しすることは、これを定めた我らが王に発言するのと同義。
故に……勝者たれ、生徒達よ。
……などと、書かれてはいるものの。
実は、決闘の頻度は低い。
なぜか?それは、これをするメリットが、高位の貴族には何一つ無いからだ。
そして、低位の貴族、または庶民が勝とうものならば……高位のものより圧力がかかる。
自分ならまだいい。しかし貴族社会はそうもいかない。
実家に迷惑がかかれば、廃嫡にされる危険すらある。……ならば、リスクを避けるのは当然。
だが。
レイフォードという男は、実に阿呆なことにそれを仕掛けた。
決闘においてすべては平等。故に、彼は断ればよかった。それが許されたのだ。
……しかし、何故か譲らなかった。
それほど彼はなりたかったのだろうか?姫様の護衛に。
そんな欲を持っているようには、思えなかったのだが。
目の前で剣戟を繰り広げられる男達を、遠巻きに眺める。
案の定、というべきか。
シロナは、劣勢だ。
それもそのはず。レイフォードは伯爵家の息子。当然、教育の一環として身につけている。
かたや彼は落ち目の子爵家の息子。両親を幼い頃になくしているはずだから、ろくに訓練も受けていないはずだ。
……しかし。
彼のどこに、姫様は惚れ込んだのだろう?
左から来る袈裟斬りを、シロナは流しつつ避ける。
顔立ちは幼く、整ってはいるものの、平均程度。
落ち目の子爵家の息子、剣術の腕は無く、平凡。
筆記の成績は良いらしいが、それでも上から数えたら少し早い程度。
力のこもった一撃を、かろうじてスレスレで避けきる。
……もっと良い選択肢もあるだろうに。
そう思いながら、シロナを目で追う。
息を切らし、必死に剣を流し続けるシロナ。
歯を噛みしめ、目を細め、必死にチャンスを伺って……
笑った?
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ああっ、なんて楽しい時間なんだろう。
手に響く鈍い痛み、徐々に鋭くなるその剣筋に、思わず口元が緩む。
……これこそを、僕は望んでいた!
「ハッ!」
「チッ!」
舌打ちしながら下がるレイフォード。
追いかけることはしない。追撃など、“もったいない”
「なんで、なんで!」
剣をぶら下げ、彼は叫ぶ。
「なんで攻めてこない!シナリオと違うぞ!」
意地悪く、ニヤけてしまう。
攻めないのは仕方ない。だって僕は攻めたくなどないのだから。
“もとより勝つ気などない勝負”、必死に勉強させてもらいたい。
イメージする対象が多ければ多いほど、訓練の幅は広がる!
「おい、聞いてるのか!なんで攻めない!」
怒鳴るレイフォードを無視して、剣を構える。
息も絶えだえ、あと一巡くらいが限界だろう。
「……来い」
短く呟くと、それが挑発となったのか彼の雰囲気がさらに尖る。
ああ、楽しい。こういう勝負が、これからもしたいんだ。
「……いいさ、それなら、くれてやるよ!□■□■□!」
そう叫ぶとともに、殺気が強くなる。
第六感のようなものが告げる、危険。
少し胸中に生まれた不安は、踊り続ける心がかき消してしまう。
ファロさんの静止の声も、聞こえない。聞きたくない。
……見たい、彼の本気を!
「────」
なにかの呪文とともに、光が、剣から溢れ始める。
そして、溢れる光は、一筋の束となり────
「危ない!」
振り下ろされた極光。
剣から放たれたそれは、一直線に僕へと突き進む。
途端に、僕の心は冷めてしまった。
飛び道具は禁止だろう、などと場違いなことを考える。
その思考の最中も、僕へと光は飛んできているのだが。
避けることは出来ない。そんな体力は残念ながらない。
途端に、視界がブレる。
ああ、こんな時に。
僕は、何をやってるんだ。
修行が、足りないな。
そんな感情とともに、意識が掻き消えた。
レイフォード君による致死の攻撃!そしてそれを避ける術のないシロナくん!
お願い、シロナくん!ここを乗り越えれば、レイフォード君に勝てるんだから!
次回、“シロナくん死す” デュエルスタンバイ!
……という予告をやってみたかった、作者です。
あ、殺しませんよ?まだまだ続くんじゃよ?




