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巣立ち①

初めて小説らしきものを書いてみました。

仕事の合間をみて書き続けていきたいと思います。

よろしくお願いします。


まだまだ序盤なので面白いかどうか分かりませんが、楽しんでいただければ幸いです。

第一章 巣立ち①


「父様、こうしてお話をするのはいつ以来でしょうか?」

家族と会話しなくなって6年くらいだろうか。久しぶりに話したせいか、何を言ったら良いのか分からず恨み言のような質問をしてしまった。

「…ルークス、お前には悪いことをした。」

執務机の向こうから渋みのある声で謝罪の言葉が返ってきた。

久しぶりに聞く父様の声はか細く、記憶の中の声とは違って聞こえた。

今僕は父様の執務室に来ている。初めて入った部屋はとても広く、中央には豪華な飾りのついたテーブルとやわらかそうなソファーが置いてある。隅には騎士鎧が佇んでおり、壁には綺麗な女性の絵が飾ってある。床はふかふかの絨毯で綺麗な模様が描かれているので歩いても良いのか戸惑った。

部屋の奥には執務机が置かれており、椅子に腰掛けた父様と向かい合って立つ。

華やかな部屋にも関わらず、僕たちの雰囲気はどこかぎこちなく、部屋の空気も静かなものだった。

「いえ。…僕と話をすると母様の機嫌が最悪に悪くなりましたからね…。」

昔から僕が楽しそうにしていたり泣いたりすると母様の機嫌が悪くなった…。次第に兄妹たちは僕と遊ばなくなり、父様も僕を避けるようになった。なぜ母様が僕を嫌っていたのか、僕の何がいけなかったのかは今でも分からない…。

「すまなかった。」

部屋の空気がより一層暗くなる。

父様は後悔しているんだろうか。今なら母様が僕を嫌っていた理由を教えてくれるかもしれない…。

「父様は母様が僕を嫌っている理由を知っていますか?」

真っ直ぐに父様を見る。

「………」

目を閉じ口を噤む父様。

「母様を恨みたくはないのです。」

意志の籠もった声が室内に響いた。

僕の気持ちが通じたのか父様が重たい口を開いた。

「母さん、アメリアはお前の本当の母親ではないのだ。」

「え…」

それってつまり、どういうことだ?

母様は僕の本当の母親じゃない?え?

頭が真っ白になり心臓が早鐘を打つ。呼吸が速くなり耳鳴りが聞こえる。

落ち着け。落ち着け。落ち着け。深呼吸をする。


『本当の母親ではない。』


頭では理解しても心が感情がその事実を拒絶する。

「父様。どういうことですか?」

自分でも驚くほど冷たい声が出た。 

冷静な言葉とは裏腹に感情は荒れ狂う。

なんてことだ!父様は母様以外の女性に手を出したんだ。そして僕が生まれた…。母様が僕に冷たかったのは自分の子供じゃないから?そんなのどうにもできないじゃないか。どれだけ勉強を頑張っても、どれだけ鍛練に打ち込んでも褒められることはなかったんじゃないか…。みんなが楽しそうに話していると悲しくなった。兄妹たちが褒められるのを見ると悔しかった。夜、独りぼっちになるのが怖かった。

非常識な父様への怒り、自分を愛してくれなかった母様への寂しさ、努力すれば好きになってくれると思っていた自分への呆れ等様々な感情が心の中を暴れまわる。

「し、しかたなかったのだ!!まさか…(あんな子供が…)」

「しかたなかった?」

息子の放つ雰囲気に耐えきれなくなったのか、勢いよく立ち上がりわめき散らす父親。後半はボソボソと何を言っているのか分からない。

対する少年の声は一層冷ややかだった。

「まさか身籠もっていたとは知らなかったのだ!気付いた時には遅かった…。」

なにが遅かったのだろうか?早ければ何かできたというのだろうか?

そもそも母様以外の女性に手を出した事こそ悔いるべきじゃないのか?

次々に言い訳を並べる父親の姿には威厳などなく、僕と目を合わせることすらできない無様な男がいた。

例え会話することがなくても立派な人だと信じていた父様の姿は崩れ、目の前にいるのは知らない男だった。

最早話を続ける気力もなくなった。

「父様、ありがとうございました。これで母様を恨まずにすみます。」

「………」

先ほどまでの威勢の良さはなくなり、この数分で10歳は年を取ったかのようにやつれていた。

「明日家を出ます。今までお世話になりました。…母様のこと、大切にしてください。」

そう言い残し部屋を出る。

久しぶりの父様との会話は楽しいものではなかった。初めて知った事実にまだ動揺しているのか、どうにも落ち着かない。心の中に黒い靄がかかり怒りのような悲しみのような感情が溢れ、叫び出しそうになる。

くそっ!父様はどうして…。母様も母様だ!例え実の息子じゃなくたって…。

思考の闇に墜ちていると、不意に暖かな光が顔に当たった。どうやら心の葛藤と戦っている間に中庭まで歩いてきていたようだ。

「…少し体を動かすか。」

ざわめく心を落ち着かせるようにつぶやく。

庭の隅に置いてある訓練用の片手剣を手に取り振ってみる。

重い…。両手で振れるくらいか…。

庭の中程まで移動すると足場をならし、意識を集中させ剣を振り始める。

切り下ろし、横なぎ、切り上げ、突きを丁寧に繰り返す。丁寧に丁寧に繰り返す。繰り返す。

(剣の軌道を意識するんだ。なめらかに、流れるように動かせ。)

ゆっくりだった動きが次第に速くなる。それでいて丁寧に。丁寧に速く。丁寧に速く。

(くっ!やっぱり速度を上げると剣に振り回されるな…。それなら…)

しばらくすると、綺麗な軌道を繰り返していた剣の動きが変わる。切り下ろしから一気に切り上げたと思ったら横なぎが繰り出される。今度は突きだ。右側から上段、中段、下段に三連続の突きを放てば、体を回転させ遠心力を利用した切り下ろしを左上段から斜めに繰り出す。体に馴染ませるように一定の動きを繰り返すと突然新しい軌道を描く。一瞬の閃きで次々に変化する動きは一種の舞のようだった。自由に繰り出される剣舞は次第になめらかになり、剣の重さを感じさせないものになっていた。

硬くなっていた体からは無駄な力が抜け、表情には笑みが浮かんでいる。

(体が流されるなら、それすらも次の動きに繋げればいい。流れを止めるな。丁寧に。自由に!)

どれくらいの時間がたったのだろうか。空高く昇っていた太陽は沈みかけ、空は赤く燃え上がっている。

僕の体からは汗がしたたり落ち湯気が昇っていた。

いつの間にか心にわだかまっていた黒い靄は消え去り、その表情にも憂いの影は見えなくなっていた。

よし。明日、家を出る前に母様に挨拶していこう。

僕は息を整えると、一つの決意を胸に颯爽と屋敷の中へと入っていく。


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