閑話 その2
ゆかりとベルが眠っている間、まさり達は彼女らが目を覚ますまで待っていた。
残念ながら、作者である黒川は別件のため、すでに校内から姿を消している。
「毛布とかはないかなぁ……2人とも、風邪引いちゃうよ」
「確かに言えてる」
「毛布ではないですが、膝かけは何枚かありますよ?」
栗原くんは2人のことを心配して毛布を探そうとした。
それに関してはまさりも彼の意見に賛同する。
しかし、文芸部の部室に毛布というものはなく、留美が言ったとおり、何ヶ所かの椅子に膝かけが数枚置いてあるくらいだ。
「仕方ない。そこに置いてある膝かけを借りよう」
「そうだね」
「ハイ」
彼らはゆかりとベルの背中と脚に膝かけを敷く。
そして、留美がふと何かを思い出したかのように口を開いた。
「ところで、栗原先輩はゆかり先輩のことどう思っているんですか?」
「あたしも知りたーい!」
「広瀬さん、上原さんまで!? いきなりどうしたの!?」
彼女が言ったことに対して驚きが隠せない栗原くん。
さらには、まさりも興味を示したらしく、話さざるを得ないと彼は判断した。
「なんか、栗原先輩はいつもゆかり先輩のことばかり見ていましたので、なんでかなぁと……」
「確かにあたしよりもゆかりの方が大切にしてる感があるもんねー」
「仕方ないなぁ……話せばいいんでしょ?」
「「やったぁ!」」
彼はこの高校に入学した時のことを思い出すのであった――。
今から遡ること、3年前――。
栗原くんは1組から順番にクラス表を眺めていたが、上の方だけしか見えず、中間からが見えない。
「僕の名前がないなぁ……」
彼は肩を落としながら、次のクラス表を見に行こうとしたやさきだった。
ドンッ! と何かに力強くぶつかった音が耳に飛び込んでくる。
「す、すみません!」
「あっ、こちらこそです」
栗原くんがぶつかったのは女子生徒。
それがのちにゆかりだったのだ。
そして、2人は運なのかどうかは不明だが、文芸部に入部し、現在に至るのだ。
「よって、僕がぶつかったことがきっかけで、大野さんを知ることができたしね。そもそも、僕は大野さんに対して、恋愛感情を抱いたことはないからね。あくまでも同級生のお友達だからね」
「なーんだ。栗原先輩にとってはゆかり先輩はお友達なんですね」
「そうだよ。僕と大野さんは部活ではいろいろと切磋琢磨するお友達ということになるね」
「至って普通だった」
「上原さん、ごめんね? つまらない話で」
「いや、いいんだよ。卒業までに疑問が解決されたからスッキリした」
瑠美やまさりにとっては、栗原くんから貴重な話を聞くことができたので、それでよしとしようと彼女らは思うのであった。
2017/11/07 本投稿