第3話 この高校の裏事情
「こちらで靴を履き替えてもらってから、会議室でこの高校について説明をしますね」
「ハイ」
「お願いします」
ゆかり達は各自で用意したスリッパに履き替え、校長のあとを続くように会議室へ向かっている。
職員室から朝のショートホームルームのため、慌ただしく教室に向かっている職員にきちんと挨拶をした。
「本当ならば校長室で説明したかったのですがね……」
「どうかしたんですか?」
「まさか他校からたくさんの生徒がきてくれるとは思いませんでしたので」
「すみません。突然、大人数でこちらに駆けつけてしまって……」
「いえいえ、いいのですよ。どうぞお入りください」
「「失礼します」」
校長に促されて会議室に入る。
会議室には長机とパイプ椅子が並べられており、ゆかり達が座っても、まだまだ広さにゆとりがあった。
「適当に腰をかけてください。うーん……まずは何から説明しようか迷ってしまうなぁ……」
「「………………(この人は事前に話すことが決まっていたわけじゃないんだ……)」」
「実は事前に話しておきたいことがたくさんありまして……」
「1つずつ順を追って話していただければいいかと」
「では、思いついたものから順番に話させていただきますね」
「お願いします」
このような経緯で校長はゆかり達に説明を始めた。
彼女らが通うことになったこの高校は1学年につき5クラス。
彼女らが通っている私立花咲大学付属中等学校は中等部と高等部が存在する中高一貫校であり、それぞれ1学年につき6クラス。
よって、前者は後者より1クラス少なく、1学年の人数も少ないということになる。
しかし、この高校はある事情があった。
現在は普通科に学科再編を行っているが、以前のこの高校は実業高校だったらしい。
現在の3年生だけではあるが、男子生徒だけで構成されたクラスがあれば、ほとんど女子生徒で男子生徒がちらほらいるだけの構成されたクラスもある。
中には普通科と同じように男女バランスよく構成されたクラスもあるようだ。
よって、男女比はクラスによってバラバラであることが分かる。
しかし、1年生と2年生は各クラスの男女比はバランスよくしているようだ。
「旧学科はどんなものがあったのかは分かりませんが、現在の3年生だけが旧学科の募集要項で入学してきたということですか?」
「パンフレットや入学願書の学科は普通科と書いてありましたが、そういうことになります。1年生と2年生は募集要項には普通科と書き直しています」
彼女らは校長からの説明をしっかりと耳を傾けている。
しかし、いくらなんでも学科再編は突然ではないのかと訝しげな表情を浮かべている者が数人いた。
そのような状況になりつつも、彼の話はまだ続いている。
「それでも3年生の親御さんや各中学校の進路指導担当者はどうにかこうにかして理解していただきました」
「話すと長いですか?」
「とてつもなく長いですよ。5分とか10分の時限ではないので……」
「長い説明だと眠くなっちゃいますよ」
「あたしも」
「わたしもです」
栗原くんが左目に埃か睫毛が入ったのかどうかは分からないが、右手で擦り始めた。
校長は彼の仕草を察したかのように、「そうですよね」と呟く。
「校長先生、僕は眠くて目を擦ってた訳じゃないですからね! 睫毛が目に入っただけですからね!」
「す、すみません! 私のしたことが……」
「僕こそすみませんでした」
どうやら栗原くんは眠い訳ではなかったらしい。
そんな彼を差し置いて、校長は何かを思い出したかのように口を開く。
「あっ、重要なことを思い出した!」
「「重要なこと?」」
「ええ。実は今年度のはじめからなのですが、「ベルモンド騒動」が起きているのですが、みなさまはご存じですか?」
「「「べるもんどそうどう」!?」」
「やはり、存じ上げていませんでしたか……この高校ではほぼ毎月のように姿を現しては生徒を誘拐したり、拳銃で洗脳させたりする人物でして……」
「その人物は厄介者ですね」
「ええ。そのため、数学の先生が不足しているのです」
「なるほど……」
「ベルモンド騒動」の話を聞いていた時、ゆかり達は一瞬ベルの方の見た。
彼は適当に相槌を打ちながら、その話を聞いている。
彼女らはなぜベルも一緒にこの高校にきたのかをようやく理解することができたので、納得しているようだ。
「ちなみに、今月は厄介者は現れたんですか?」
「いいえ、今月はまだ姿を見ていませんね…………でも、この高校には学校を守る正義の味方がいますので、安心して学校生活を送ってください!」
「わ、分かりました」
「ハ、ハイ」
校長から告げられた「ベルモンド騒動」。
出現するかはいつなのか分からないその人物に警戒心を抱きながら、この高校での学校生活が今、始まる――。
2018/12/21 本投稿