夏 3
「ちょっと、何言ってるのよ。鷹尾に出してもらう義理なんて無いんだから!」
そう突っぱねれば、鷹尾はますます頬を弛める。
「いいんだよ、俺が連れていくって約束したんだから。それに由紀に払えるの? 全国十二ケ所まわるあいだの交通費に宿泊費、食費、おみやげ代」
「え、う……無理」
っていうか、おみやげ代?
「でしょう?」
「でしょ、じゃない。なら、置いていってくれればいいよ。私、その……鷹尾がK’sのカケルだなんて学校の誰にも話さないし、その、私、大事な補習もあるし!!」
こうなってしまったからには補習授業を組んでくれた担任に感謝します。だから、この雰囲気の悪い車から逃げさせて。
「こんなところで降ろせるわけないでしょう。それに、由紀だってお泊まりの荷物もちゃんと作って乗り込んだんじゃない。補習はね、ちゃんと学校と話がついてるから大丈夫。最終日にテストに合格したら不問にしてくれるって。家族旅行行けるってむしろ喜んでたよ、山田川先生。俺が付きっきりで色々教えてあげる。一緒にしようね、お・べ・ん・きょ・う」
鷹尾の……いや、すでにカケルモードの笑顔に当てられて真っ赤になってしまった。ちょっと待て、私。なんのお勉強するつもりだ。いや、いかがわしい想像をしたのは私か。自己嫌悪で穴を掘りたくなる。
ずっと不機嫌そうに運転してくれていた女の人、庄司さんっていうマネージャーさんらしいんだけど、その人の呆れたようなため息を連れて、ワゴン車は空港の地下駐車場へと滑り込んだ。
そして、噂でしか聞いたことのないVIP用通路を通って搭乗手続きを済ませ、始めてのファーストクラス体験を経て、大阪の地を踏んでしまっていた。
生まれて始めてのファーストクラスに舞い上がってしまい、カケルとカオルに温い目で見守られたのはまた別の話。
いいじゃん、ここまできたら楽しんでやる。ちくしょう。