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World's End Online Another -僕がネカマになった訳-  作者: yuki
第二章-境界の彼方、幻想の世界-
25/43

亡者の森と因循の愚者-5-

 森を抜けた先に広がっていたのはやっぱり森だった。

 別に出られなかったわけじゃない。ダンジョン扱いだった深い森の外にもフィールド扱いの浅い森が続いているってだけだ。

 その証拠に、絡み合った枝葉が網目のように張り巡らされ塞がれていた天井はまばらにかわり、頭上から心地よい日光が降り注いでいる。

 耳を澄ませば鳥や動物の声と思しき音も聞こえてきた。

 ゲームならダンジョンとフィールドの往来にはロード画面が表示されるのでちょっとだけ期待していたんだけど、それらしき現象はさっぱり起こってない。

 いい加減認めよう。やっぱりここはゲームじゃない。どこぞの異世界らしい。


「もう大丈夫だから、ちょっと降ろして」

 森の密度が明らかに薄まってからも中々止まろうとしないハルトに痺れを切らし身体を揺する。

 小さな頃は遊び半分で担ぎも担がれたりしたけれど、今は正直言って気恥ずかしい。もとい情けない。ぶっちゃけ格好悪い。

「そうだな、もうそろそろ大丈夫か」

 ハルトは周囲の様子を注意深く伺って敵らしき反応がない事を確認すると適度に開けた草むらの上にしゃがみ込んだ。

 途端に僕の身体がころりと転がって草むらに投げ出される。手足のだるさは現在進行形で悪化中。これ以上進むと本気で起き上がれなくなりかねない。

 命に別状はなさそうだけど、自然治癒を待つ気にはなれなかった。意識を集中して呪文を紡ぐ。

「治ると良いんだけど……。【浄化(ピュリファイ)】」

 すると白銀の燐光が虚空から溢れ出て雨のように降り注ぎ、深呼吸を繰り返す度に全身を包んでいた倦怠感が嘘のように消えていく。


「よっと!」

 掛け声と共に身体を起こす。跳ねたりしゃがんだり、準備体操をしてみても、これといった違和感は見つからない。

 ハルトの負った傷にしても、あれだけだるかった麻痺毒にしても、治療にかかった時間は殆ど一瞬だ。ファンタジーにも程がある。

「うん、大丈夫みたい。ハルトも大丈夫? どこか痛い所とかない?」

 振り返って尋ねると、悩ましげな唸り声を上げながら身体のあちこちを改め始める。

「いや、もう大丈夫みたいだな。ゴーレムにタコ殴りにされた時は死ぬほど痛かったけどさ」

 幸い回復魔法の効果は完璧で、僕を背負って歩いても傷口が開くことはなかった。

 だけどそれが回復魔法の限界でもある。肉体的な傷は癒せても、心に負った傷や恐怖、痛みを感じた記憶そのものはなかったことにならない。

「……ごめん」

 【守護(プロテクション)】の維持さえできていれば敵の攻撃は障壁に阻まれ、ハルトが苦痛に呻く必要も、強引な突撃を敢行する必要もなかったのに、蔓に翻弄され基本的な支援魔法すら維持できなかった。

 ポンコツ支援ここに極めりと言われても申し開きのしようがないのに、ハルトは大慌てで否定する。

「あ、いや、こっちこそ言い方が悪かった。つか、別にあれはお前のせいじゃないし、こうして無事でいられたのだって回復魔法あってこそだろ?」

 元から僕を責めるつもりなんてないことくらい分かってる。言えば困らせるであろうことも分かってる。だからこれは自己満足に過ぎない。

 そうでもしなければ心の中に増え続けるもやもやとした感情を吐きだせそうになかったのだ。


 とはいえ、こんな空気はいつまでも引きずるべきものじゃない。

 頭の中で整理をつけて気持ちを切り替えると、小さく息を吸い込んでから出来る限りの明るい口調で尋ねる。

「それと、できれば飲み物も貰って良い? 口の中が苦くて死にそうで」

 状態異常が治っても口の中を満たす不快感が消えたわけじゃない。

 貴重なポーションを無駄にしたくはなかったけれど、喉も渇いているし、なにより毒物を口に含んだままでいたくなかった。

 地雷を踏んだかもしれないと慌てていたハルトは僕の豹変ぶりに唖然としていたけれど、しかしすぐに苦笑しつつもインベントリからポーションを取り出してくれた。

「ったく、ほらよ」

「ありがと」

 差し出されたポーションをほんの少し口に含んでからしっかり濯ぐと不快感も薄れる。

 元は薄い白色の液体だったはずなのに、吐き出した時は茶色がかっていて、今更ながらなんてものを飲まされたんだと身震いした。

 それに比べればポーションの薬品臭など気にもならないどころか身体に良い気すらしてくる。


「そういえば、あとどのくらい残ってるの?」

「確か30本あったはずだから……残り27本ってところかね」

 これ1本で200mlはありそうだから全部で6Lか。救助が来るまで動かなくていい状況ならともかく、どこにあるとも知れない街まで歩かねばならないと考えると心もとない。

 まだ喉は渇いていたけれど、半分残して栓を締めなおした。まだ体力に余裕もあるし、今は節約しておこう。

「それで、これからどうする?」

「そうだねぇ……」

 未練がましくシステム画面を呼び出そうと試みたけれど、やっぱり反応はなかった。

 ゲーム内で徒歩5分の出口が2時間近い距離に引き延ばされていた。ここから街までの距離を考えると頭が痛い。

「ていうかさ、MAP機能が使えないんじゃ街の場所も分からなくない?」

「あー、俺もさすがに覚えてないな」

 初心者の頃ならともかく、ポータルゲートなんてお手軽便利な移動手段が用意されていれば誰だって利用する。

 人気ダンジョンの前で位置登録をしたプレイヤーが、お一人様1万コルトで転送してくれるサービスなんてのが流行るくらいだ。

 わざわざ街から離れたダンジョンまで歩いて行こうなんて稀有なプレイヤーは早々居ない。

 だからこそ、ゲーム内の景色を撮り歩いたブログなんて物に人気が出てるわけだし。


「大雑把な方向くらいなら何となく分かるんだけどね」

「そもそも北がどっちだって話になるからな」

 この世界の太陽が東から出て西に沈む保証なんてない。もっと言えば僕等の見つけた出口がゲーム時代と同じ座標という保証もない。

 実は迷い迷った挙句、反対方向から出てきてましたなんて可能性もあるのだ。

「救助が来るとも思えないし、少しずつ周囲を探索するしかなさそうだね。まずは絶対にここに戻れるようにしたいんだけど……そうだ」

 森の中で迷った時は必ず元の場所に戻れるよう、何らかの手段でマーキングしておくのは鉄則。

 木々に傷をつけながら歩くとかが一般的だけど、それより確実な手段があるかもしれないと思い精神を集中、魔法を発動する。


 果たして、目論見は見事に成功した。ポータルゲートの位置情報記録にこの場所の座標が登録される。

「位置情報の新規登録はできるみたい。もしかしたら、ゲームからこの世界に移動したことで今までの座標が存在しなくなったとか?」

 憶測でしかないけれど、少し離れてからポータルゲートを展開。光り輝く扉に向かって転がっていた石を放り投げてみると、記録した場所から転がり出てきた。

 覚悟を決めて今度は足を踏み入れる。結果は同じ。ポータルゲートはきちんと機能している。

 最大4カ所までの登録地点を一瞬で移動可能な【ポータルゲート】はとにかく汎用性が高い。久方ぶりの嬉しい発見に声も弾む。

「これで少なくともこの場所には戻ってこれるし、水場を探して登録できればどこからでも補給できるよ!」


 普通、遭難者は水場を見つけてしまうとそこから簡単に離れられなくなる。流れのない泉や湧水ならなおさらだ。

 最低限必要な水を確保できて安心感するから。

 もしこの場を離れて戻ってこれなかったらどうしようという恐怖心が湧くから。

 人の住処を探そうと思っても水は想像以上に重く、大量には持ち運べないから。


 仮に1日2リットルの飲料水が必要だとしよう。頑張って10リットルの水を持ち運んでも、新たな水場を見つけない限り来た道を引き返さないと水が切れて干上がってしまうから、自由に行動できるのは2日半になる。

 ただし、これはあくまで理論上。いわば机上の空論に過ぎない。

 余程の能天気か肝の据わった人物でない限り、行動中は『迷ったらどうしよう』とか『予想以上に早く消費したらどうしよう』といったネガティブな想像が付き纏い、1日と持たず引き返す。


 人が生きて行くのに必要な物は多すぎる。

 水以外にも食料の確保は当然として、雨風を凌げる拠点がなければ低体温症や疫病の危険があるし、普段は何でもない怪我でも化膿してしまえば命に係わる。

 生水に含まれる細菌は煮沸できる環境さえあればどうにかできるかもしれないけど、毒素が混じっていたら手の打ちようがない。

 直接的な毒を持つ虫や蛇なんて以ての外である。

 仮に水場を探し当て、食料のなる木々を見つけ、雨風を凌げる拠点を構築できたとしても、それらは持ち運びようのない物ばかりだ。

 探索範囲を広げるには水場と食料の確保、拠点の構築を何度も何度も繰り返さねばならない。

 故に、助けを見込めないような大自然の奥地で遭難した場合の生還率は限りなくゼロに近かった。


 ただしこれは元の世界の話であって、インベントリと支援魔法なんて人外の力を与えられたこの世界なら話は別。

 重い荷物を持たなくていい分だけ体力の消費を抑えられるし、拠点と水場の位置登録さえしておけばリスクなしに探索範囲を広げられる。

 怪我や疫病も回復魔法でなんとなかるだろうし、【速度強化(ヘイスティ)】や【祝福(ブレス)】で身体能力を強化すれば探索効率だって段違いだ。

 戦闘ではろくすっぽ役に立てなかったし、ここいらで挽回しておかないと本当に立つ瀬がなくなってしまう。

「とりあえずあっちに行ってみようか」

 休憩前に突き刺しておいた棒から延びる影の動きで太陽の軌道をざっくりと計算。もしも東から西に登るなら街があるであろう方向を指差す。

「おっけ。歩きながら拠点に使えそうな場所を探すって感じで行くか」

 飲み込みが早くて助かる。いや、非常事態でもテキパキと動けるようになった原因は間違いなくハルトの奇行だけども。慣れているだけあって段取りも迷いがない。


「じゃ、僕が右でハルトは左ね。水場っぽいのと食べられそうな木の実とかあれば教えて」

 ポータルゲートは僕しか使えないし、危険なモンスターが出る可能性もゼロじゃないから手分けして探すわけにはいかなかった。

 同じ道を歩くんだし、2人して同じ場所を探しても芸がないので担当を決めてしまう。

「木の実ねぇ……。元の世界と同じ外見じゃなさそうだよなぁ」

「多分ね。鳥とか動物が食べてれば大丈夫でしょ。ひとまず集めて、ほんの少し齧って1日様子見よう? 最悪回復魔法でなんとか……。使わない方が良いに越したことはないけど食べなきゃ死ぬし」

 元の世界ならならアケビとかグミくらい見つかりそうなものだけど、ファンタジー極まるこの世界にどこまで期待できるやら。

 そういえば植物採取なんてサブコンテンツもあったっけ。少しでも触れておけば役に立ったのかもしれないけど、レベル上げに必死過ぎて完全に無視してたしなぁ。

 聞いた話だと毒性の植物を間違って食べようものならコミカルな演出の後に強制状態異常(バッドステータス)を受けるとかなんとか。

 この世界じゃコミカルな部分が抜け落ちてるだろうし、最悪バッドエンドになりかねない。

 思わず身震いしているとハルトが何かを見つけたようで、さして遠くない木の根もとへ小走りに近付いてからしゃがみこみ、何かを採集すると戻ってくる。

 拳大の肉厚な身。しっかりと張った傘。そして何より目を引くドギツイ赤色のまだら斑。

「なぁ、これとか……」

「ポイしなさい!」

 皆まで言うより早く、手のひらの上に鎮座したやたらと自己主張の強い物体を掴み取り明後日の方向へ投げ捨てた。

 キノコなんて危険物の代名詞、幾ら腹が減ったとしても手を出してたまるか。


 放物線を描いたキノコが星と消え……ればお約束なんだけど、Str初期値の身体では歳相応の、精々が十数メートル程度。

「あぁ! おま、折角の食料が……」

 悲しそうな声を出したハルトが万が一にも回収に向かわないよう腕をしっかり掴んでおく。というか本気であれを食料だと思ってるのだろうか。てっきりネタかと思っていたのに、名残惜しげな表情はとても演技とは思えない。

「そんなにお腹すいたの……?」

 もしかして戦うと物凄くカロリーを消耗するとか? 人間辞めちゃってる動きだったし。

 水はまだ幾らか余裕があるし、先に食料の確保を優先すべきか真剣に考えながら問いかけると、突然変なことを言い出した。

「そういうわけじゃないけど……あれ? なんであんなもん食いたかったんだ?」

「へ?」

 ここまでが壮大なネタなのか? 突っ込み待ちなのか?

 でも不思議そうに首を傾げる仕草に嘘は感じられない。まるで食べたくもなかったキノコを美味しい物だと錯覚させられていたみたいだ。

 とその時、空から急降下してきた鳥が放り投げたキノコをぱくりと咥え、何かに追い立てられるかのようにガツガツと咀嚼し始めた。

 そんなに美味しいのだろうかと思った瞬間。鳥の動きが固まり、そのままコテンと地面に転がる。


「……」

 お互い無言のまま視線を合わせてしまった。どちらともなく頷き合い、恐る恐る近づく。

 まだ生きてるみたいだけど、身体をぴくぴくと痙攣させながら泡を吹いている。どうみても毒キノコです、本当にありがとうございました。鳥さんの犠牲は無駄にはしません。

 それにしても食べてから僅か数秒でここまで即効性の効果が出るなんて……。かなり性質が悪そうである。

 このまま放置するのは可愛そうだったのと、回復魔法の効果があるかが気になったので検証がてら【浄化(ピュリファイ)】を使ってみる。

 淡い燐光に包まれるや否や、咥えていたキノコを吐き出して命からがら飛び立ってしまった。どうやら毒キノコにも一定の効果はあるらしい。

「食べてみる?」

「冗談はよせ」

 まだ樹の根元に何本か残っている同じキノコを指差すと、ハルトは青い顔でぶんぶんと首を横に振った。

【ゲンワクダケ】

 胞子に【幻惑】、本体に致死性の【毒】を持つキノコ。周囲を漂う胞子を吸うとこのキノコがご馳走であるかのように錯覚してしまうことからこの名前がついた。

 食べられたキノコは死亡した動物の体内で発芽し、肉体を栄養に分解しながら成長する。

 胞子は軽く、風に舞いやすいので見つけたら迂闊に近付いたりせず燃やすのが好ましい。

 うっかり放り投げたりすると広範囲に拡散し、二次災害を引き起こすので注意が必要です☆

 最上位職の暗殺者(アサシン)で調合可能な【猛毒】の素材でもあり、ゲーム中高価格で取引されていた。


【幻惑】

 状態異常(バッドステータス)の一種。

 ありもしない物を見たり、異常な思想を何の疑いもなく受け入れてしまう。

 耐性ステータスはInt(知力)。効果時間はそれほど長くない。

 カナタに効果がなかったのはリディア製のクラルスリアに付与された【清浄なる加護】の全状態異常耐性とステータス補正のおかげ。

 【浄化(ピュリファイ)】により治療可能。


【毒】

 状態異常(バッドステータス)の一種。

 徐々にHPが固定値で減少する。レベルに応じた固定値で減少する毒と最大体力の割合に対してダメージを受ける毒が存在する。

 前者の場合、初心者が高レベルの毒にかかると即死することも。

 耐性ステータスはVit(体力)。効果時間は毒のレベルに応じて増減するものの、状態異常の中では長い。

 【浄化(ピュリファイ)】により治療可能。


【麻痺】

 状態異常(バッドステータス)の一種。

 Agiへの大幅なペナルティに加え、一定の確率で身体が痺れてしまい動けなくなる。

 耐性ステータスはLuk(運)。効果時間は長い。

 【浄化(ピュリファイ)】により治療可能。


 ハルト「お、なんかありそうだな、どれどれ。……うわぁ、今どきベタな漫画でもこんな色してないだろ。こんなん食えるわけ」

 キノコ「(胞子ボフン)」

 ハルト「……あれ? なんか意外とイケそうな気がしてきたぞ。焼いたら旨いだろ、常識的に考えて。とりあえずカナタに見せるか」

 カナタ「食えるわけあるか!」

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